ある晴れた朝の日曜日、早朝5時50分。
わたしはJR総武線の平井駅前に佇んでいた。
これから草野球の練習があるのだ。
駅前ロータリーは、まだ閑散としていたが、ホームレスが忙しなく歩き回っていたり、バス停留所に備えてある椅子には酔って帰れなくなったおじさんが眠っている。
また、数人のおじさんたちがたむろしてタバコを吸っている。しばらくすると、彼らの元にクルマが止まった。どうやら、彼らは日雇い労働者で、この日仕事にありついたらしい。
祭りの後のような平井駅は少しすえたような匂いがした。
この分なら必ずこの近くに安く飲ませる店がたくさんあるにちがいない。
そう思わせるのは充分な雰囲気だった。
しかし、残念ながら、今のわたしには時間がない。
間もなく、監督がわたしを迎えに来るだろう。
街を散策する時間などなく、6時から中川河川敷で練習が始まるのだ。
ぐるりとロータリーを見渡す。
空いているお店といえば、ローソンとサンクス、そして吉野家くらいか。
そのとき、「ホッピー」という文字が視界に一瞬入ってきた。
慌ててその文字が見えた方向に目線を戻すと、確かに「ホッピー」と書かれたのぼりがあがっている。そのお店は駅の近くによくある、そば屋のチェーン店「せんねんそば」であった。
店の看板には灯りが点り、店は開いている様だった。
店からは、場末感が漂っていた。
2時間の練習を終えて、8時半頃に再びわたしは平井駅に戻ってきた。
監督のクルマから降りた瞬間、わたしの視界には再び「せんねんそば」が入ってきたのである。
家を出るときに簡単な朝食を食べてはきたが、いい感じに空腹感がある。しかも、練習で喉も渇いている。そして何よりも、店が醸し出す場末感を覗いてみたいという衝動にかられた。
「お疲れ様」。
そうやって、野球部の仲間に挨拶して解散すると、わたしの足は自然と「せんねんそば」に向かっていたのである。
中は、そんな飲兵衛の巣窟になっているのか。
わたしはドキドキしながら自動ドアを開けさせたのである。
店内は向かって右側がカウンター、左側はテーブル席になっている。
お客は6人。そのうち3人はニッカボッカーをはいた労働者が、これから仕事に向かうといったいでたちでご飯を食べているという雰囲気だった。もう一人は店員と知り合い風のおじさんで、軽く1杯ひっかけているようだった。そして、もう一人のお客。テーブル席に腰掛けていたご老人はすでに何杯もの酎ハイを空けているようで目はもう完全に座っていた。
やはり、ただのそば屋ではなかった。確かに、昼間はそば屋の顔をしているのだろう。だが、夜も更けてくると、少しずつ飲み屋の顔を覗かせるのではないか。
わたしは、食券を売る販売機に近づいた。
ざっとメニューを眺めてみたが、酒類のボタンはない。とりあえず、「かき玉そば」(400円)を購入し、席に着こうと踵を返した。すると、目の前に自動販売機が立ち塞がった。街中によくある自動販売機だ。こういった体裁の店に自動販売機の姿があるのは何か異様だ。
よく見ると、販売機にはアサヒ・スーパードライ、タカラCANチューハイ、それぞれ350ml缶(各300円)と大関ワンカップ(300円)が飾られている。
なるほど、酒はここで買うんだな。
しかし、ホッピーは販売機には置いてない。中味を買う必要があるから、それは店員に言うのだな、などと勝手に解釈しながら、わたしはとりあえずスーパードライを購入して、テーブル席についた。
早速、プシュっとプルタブを開けて、スーパードライを流し込んだ。
「うめぇ!」
適度に冷えたスーパードライは野球の練習の後には最高だ。
気がつけば、「かき玉そば」が出てくる前に一本を既に飲み干してしまった。
さて、ホッピーにいくか、と思って店内を見渡すが、どこにも「ホッピー」などと書かれていない。
「地鶏のゆで卵60円」や「朝セット 6時から11時まで300円」といった貼紙はあるが、 「ホッピー」のホの字も店内にはなかった。
とりあえず、もうちょっと様子を見てみようか、と思い、もう1本ビールを購入しようと席を立った。その際、念のため販売機をもう一度確認したが、やはりホッピーの姿はそこにはなかった。
「かき玉そば」をすすりながらビールを飲む。
こりゃ、たまらん!
最近、蕎麦屋を装う立ち飲み屋なども増えていると聞く。
蕎麦は絶対的な酒の友である。それがたとえ日本酒でなくともよい。ビールでも酎ハイでも、そしてホッピーでも一向に構わないのだ。
さて、一気に缶ビールを飲み干して、いよいよ店員に「ホッピー」を頼もうか、という段になった。
すると、幾人かのお客が一斉に店内に入ってきたのである。
これから出かけようとしている夫婦やフリーター風の若者。そして、仕事に向かうサラリーマンがほぼ同時にカウンター席に着いた。
その瞬間わたしは「ホッピー」を頼むか一瞬の躊躇をした。時刻はまだ9時前である。
この時間に酒をガブ飲みするのはよくないのではないか。そんな意識に苛まれたのである。要は少し恥ずかしかったのだ。
急に店が込み始めたこともあり、スナックのママ崩れのような女性の店員も対応に追われて、わたしが言い出せるタイミングではなかったというのもあり、わたしは「ホッピー」を注文することをやめた。
わたしは、残りの「かき玉そば」をすすって店を後にした。
多分、わたしはアルコール依存症だ。
少し前に東京新聞に書かれていた記事にこんなものがあった。
それは、皇室の方がアルコール依存症をカミングアウトした記事だった。その中で記事は、「手が震える症状だけがアルコール依存症ではない」と記していた。「手が震える」のは末期の症状であって、当然ながら初期の症状もあるのだという。そして、「こんな人は予備軍です」とあり、そこには「休日は昼間から飲む」「飲むととまらなくなる」「お酒で失敗したことがある」などと、その症状を列挙していた。おおよその項目でわたしは該当しており、その話しを、妻にしたところ、「わたしは前から(あなたを軽いアルコール依存症だと)思っていた」などという。
どうやら、わたしは初期のアル中らしい。
別にそれならそれでもいいが、手が震えたらそれこそヤバイ。
さすがに、ウィークディは朝から飲みたいとも思わないが、休みの日は飲みたいと思うし、実際に飲んでいる日もある。
小原庄助さんじゃないが、やはり朝酒は楽しいのだ。
ようし!今度、野球の練習の帰りにはビールで喉を潤すのをやめて、いきなりホッピーにするぞぅ!
今度はしっかり同店のホッピーをレポートします!
わたしはJR総武線の平井駅前に佇んでいた。
これから草野球の練習があるのだ。
駅前ロータリーは、まだ閑散としていたが、ホームレスが忙しなく歩き回っていたり、バス停留所に備えてある椅子には酔って帰れなくなったおじさんが眠っている。
また、数人のおじさんたちがたむろしてタバコを吸っている。しばらくすると、彼らの元にクルマが止まった。どうやら、彼らは日雇い労働者で、この日仕事にありついたらしい。
祭りの後のような平井駅は少しすえたような匂いがした。
この分なら必ずこの近くに安く飲ませる店がたくさんあるにちがいない。
そう思わせるのは充分な雰囲気だった。
しかし、残念ながら、今のわたしには時間がない。
間もなく、監督がわたしを迎えに来るだろう。
街を散策する時間などなく、6時から中川河川敷で練習が始まるのだ。
ぐるりとロータリーを見渡す。
空いているお店といえば、ローソンとサンクス、そして吉野家くらいか。
そのとき、「ホッピー」という文字が視界に一瞬入ってきた。
慌ててその文字が見えた方向に目線を戻すと、確かに「ホッピー」と書かれたのぼりがあがっている。そのお店は駅の近くによくある、そば屋のチェーン店「せんねんそば」であった。
店の看板には灯りが点り、店は開いている様だった。
店からは、場末感が漂っていた。
2時間の練習を終えて、8時半頃に再びわたしは平井駅に戻ってきた。
監督のクルマから降りた瞬間、わたしの視界には再び「せんねんそば」が入ってきたのである。
家を出るときに簡単な朝食を食べてはきたが、いい感じに空腹感がある。しかも、練習で喉も渇いている。そして何よりも、店が醸し出す場末感を覗いてみたいという衝動にかられた。
「お疲れ様」。
そうやって、野球部の仲間に挨拶して解散すると、わたしの足は自然と「せんねんそば」に向かっていたのである。
中は、そんな飲兵衛の巣窟になっているのか。
わたしはドキドキしながら自動ドアを開けさせたのである。
店内は向かって右側がカウンター、左側はテーブル席になっている。
お客は6人。そのうち3人はニッカボッカーをはいた労働者が、これから仕事に向かうといったいでたちでご飯を食べているという雰囲気だった。もう一人は店員と知り合い風のおじさんで、軽く1杯ひっかけているようだった。そして、もう一人のお客。テーブル席に腰掛けていたご老人はすでに何杯もの酎ハイを空けているようで目はもう完全に座っていた。
やはり、ただのそば屋ではなかった。確かに、昼間はそば屋の顔をしているのだろう。だが、夜も更けてくると、少しずつ飲み屋の顔を覗かせるのではないか。
わたしは、食券を売る販売機に近づいた。
ざっとメニューを眺めてみたが、酒類のボタンはない。とりあえず、「かき玉そば」(400円)を購入し、席に着こうと踵を返した。すると、目の前に自動販売機が立ち塞がった。街中によくある自動販売機だ。こういった体裁の店に自動販売機の姿があるのは何か異様だ。
よく見ると、販売機にはアサヒ・スーパードライ、タカラCANチューハイ、それぞれ350ml缶(各300円)と大関ワンカップ(300円)が飾られている。
なるほど、酒はここで買うんだな。
しかし、ホッピーは販売機には置いてない。中味を買う必要があるから、それは店員に言うのだな、などと勝手に解釈しながら、わたしはとりあえずスーパードライを購入して、テーブル席についた。
早速、プシュっとプルタブを開けて、スーパードライを流し込んだ。
「うめぇ!」
適度に冷えたスーパードライは野球の練習の後には最高だ。
気がつけば、「かき玉そば」が出てくる前に一本を既に飲み干してしまった。
さて、ホッピーにいくか、と思って店内を見渡すが、どこにも「ホッピー」などと書かれていない。
「地鶏のゆで卵60円」や「朝セット 6時から11時まで300円」といった貼紙はあるが、 「ホッピー」のホの字も店内にはなかった。
とりあえず、もうちょっと様子を見てみようか、と思い、もう1本ビールを購入しようと席を立った。その際、念のため販売機をもう一度確認したが、やはりホッピーの姿はそこにはなかった。
「かき玉そば」をすすりながらビールを飲む。
こりゃ、たまらん!
最近、蕎麦屋を装う立ち飲み屋なども増えていると聞く。
蕎麦は絶対的な酒の友である。それがたとえ日本酒でなくともよい。ビールでも酎ハイでも、そしてホッピーでも一向に構わないのだ。
さて、一気に缶ビールを飲み干して、いよいよ店員に「ホッピー」を頼もうか、という段になった。
すると、幾人かのお客が一斉に店内に入ってきたのである。
これから出かけようとしている夫婦やフリーター風の若者。そして、仕事に向かうサラリーマンがほぼ同時にカウンター席に着いた。
その瞬間わたしは「ホッピー」を頼むか一瞬の躊躇をした。時刻はまだ9時前である。
この時間に酒をガブ飲みするのはよくないのではないか。そんな意識に苛まれたのである。要は少し恥ずかしかったのだ。
急に店が込み始めたこともあり、スナックのママ崩れのような女性の店員も対応に追われて、わたしが言い出せるタイミングではなかったというのもあり、わたしは「ホッピー」を注文することをやめた。
わたしは、残りの「かき玉そば」をすすって店を後にした。
多分、わたしはアルコール依存症だ。
少し前に東京新聞に書かれていた記事にこんなものがあった。
それは、皇室の方がアルコール依存症をカミングアウトした記事だった。その中で記事は、「手が震える症状だけがアルコール依存症ではない」と記していた。「手が震える」のは末期の症状であって、当然ながら初期の症状もあるのだという。そして、「こんな人は予備軍です」とあり、そこには「休日は昼間から飲む」「飲むととまらなくなる」「お酒で失敗したことがある」などと、その症状を列挙していた。おおよその項目でわたしは該当しており、その話しを、妻にしたところ、「わたしは前から(あなたを軽いアルコール依存症だと)思っていた」などという。
どうやら、わたしは初期のアル中らしい。
別にそれならそれでもいいが、手が震えたらそれこそヤバイ。
さすがに、ウィークディは朝から飲みたいとも思わないが、休みの日は飲みたいと思うし、実際に飲んでいる日もある。
小原庄助さんじゃないが、やはり朝酒は楽しいのだ。
ようし!今度、野球の練習の帰りにはビールで喉を潤すのをやめて、いきなりホッピーにするぞぅ!
今度はしっかり同店のホッピーをレポートします!
休日でも午前中は飲まないモン。飲むのは午後0時をすぎてから(笑)
午後ならまだセーフだけれど、午前中はやっぱアル中でしょう。
そうして、朝に寝て、朝にお風呂に入るようになれば、立派な小原庄助さんの出来上がりです。
でも、思考停止で働いているより、こっちの方が人間らしくはないですかね~。
でも、依存症にはお互い気をつけましょう。
さて、お店の写真をもう一度よく見てください。
右端に「ホッピー」ののぼりが見えませんか。
今度は実際に飲んでみます。
しかし、今年はもう行く機会はないなぁ。