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BASEBALL馬鹿 BLOG

オレたちの「深夜特急」~ラオス編  フェイサイ~

2010-01-27 12:30:11 | オレたちの「深夜特急」
 ラオス側の国境はフェイサイといった。
 ここもチェンコンと似たような寂れた町だった。
 だが、フェイサイのほうがもっと貧しいように見えた。

 国境を越えて、景観は劇的に変わったようには見えなかった。
 少なくとも、中国からヴェトナムに入国したときのドラスティックな変化はなかった。
 ラオスの人の面差しもタイ人のそれと大差がないようにも見えた。

 わたしは、係員に促されて、入国手続きを行なった。
 手続きはヴェトナム、カンボジアと比べて簡素だった。
 社会主義国の特徴としてこうした権力を持つ公務員はほぼ必ず賄賂をねだるというのがお約束だが、ラオスの国境はそんなそぶりも見せず、すんなりと入国のスタンプをパスポートに押してくれたのだった。

 この町に留まるバックパッカーはほとんどいない。
 大抵のバックパッカーはここから船に乗り、メコン川を下って世界遺産の古都ルアンパバンへと向う。
 中にはバスを使ってラオスの北部へと向う者もいるようだが、わたしが国境を越えた日はそのルートを目指す者はおらず、3人の日本人と一人のフランス人はイミグレーションから北にあるスローボート乗り場へと向った。

 ルアンパバンに行くには2種類の船があった。
 スローボートとスピードボートである。
 読んで字の如く、特急か鈍行か、という代物だ。バックパッカーならほとんどのも者がスローボートをチョイスした。
 値段はスピードボートが25,600キップ、スローボートは15,000キップで、断然スローボートのほうが安価だった。

 9時半出航のスローボート乗り場について、いざ乗りこもうとすると、船員のひとりに呼び止められた。
 「お前はキップを持っているか?」
 おや、この船員はわざわざ日本語を使って聞いてくるのか?と思い、わたしは船員にこう返した。
 「切符か?」
 「そうだそうだ」と彼は頷く。
 「まだ持ってない」
と言うと、「それではチケットを買えない」という。
 そこで、初めて気がついた。

 彼が言う「キップ」とはラオスのお金のことを言っていたのだ。
 だが、実際のところ、わたしはお金を両替していなかった。
 「バーツでは?」
 と訊ねると、船員はニッと笑って「ダメだ」と二度首を振った。
 
 わたしは、うっかり両替をするのを忘れていたのだ。
 いや、忘れていたというよりも、こうした国境の町では国境を接する国の通貨も使えていたので、わたしは両替をしなくてもいいと勝手に考えていたのだ。

 だが、船員は頑としてそれを受け付けなかった。
 しかし、もう船は出航の時間を整えているとみえ、船長と思しき、人物は船のデッキから我々の様子をうかがっている。

 「両替はどこだ?」
 とわたしが聞くと、「イミグレーションの隣にある」とわたしよりもたどたどしい英語で返してくる。
 また、もと来た道を引き換えすのもうんざりだった。

 だが、金を両替しなければいけないことは確かだった。
 たとえ、船に乗らなくとも、ここで宿に泊まらなければならず、いずれにしろ金は必要だった。
 だが、頑として受け付けない船員の態度もまた癪だった。
 出航までの時間を尋ねると、彼は「あと10分だ」という。

 急げばとかなるかな、と思い、わたしはもと来た道を引き換えした。

 両替はなかなか厄介なものだった。
 行く先々でレートが全然違うのである。
 したがって、国境の町に着いたら、まず必要最低限の金を小額両替し、後で町に着いたときに、情報などを頼りに比較的条件のいい両替屋を探して金を交換することにしていた。

 だが、今回は旅の慣れがあったのだろう。
 つい、両替を忘れてしまったのである。

 イミグレーションまではたっぷり10分くらいを費やして歩いてきた。したがって、往路だけで、10分が経過してしまう計算だ。
 もはや絶望的と思い、わたしはあまり急がずイミグレーション横の両替屋で金を交換した。

 ラオスの通貨はキップと言った。
 1ドルがおおよそ900キップ。
 10ドルも交換すると厚い札束のような紙幣を出してくれる。
 ボート代はざっと28ドルといったところだろうか。
 当時のレートで2,500円。
 かなりの高額である。

 とりあえず、わたしは30ドルを両替して、再びボート乗り場に急いだのである。
 戻ってみると、意外なことに船はまだそこにあった。

 そして、狭い甲板にいた乗組員や国境越えを共にしたバックパッカーらが、わたしの姿を発見すると、大きく手を振って「お~い」と叫んでいた。

 船は待っててくれたのである。
 こうして、メコンを下る旅が始まった。


※当コーナーは、親愛なる友人、ふらいんぐふりーまん師と同時進行形式で書き綴っています。並行して語られる物語として鬼飛(おにとび)ブログと合わせて読むと2度おいしいです。
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2 コメント

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中々 (ふらいんぐふりーまん)
2010-02-03 17:11:36
アジアらしいエピソードだね。待っててくれたとは。

いい人達だなあ。

しかし、スローボート28ドルはちょっと高いね。共産圏名物!?外人価格だったのかな?

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メコン (熊猫刑事)
2010-02-03 23:49:32
待っててくれたことで、その後の工程が!

川を下っての旅もいいもんだね。

運賃は高いと思ったけど、今や普通でしょ。
返信する

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