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BASEBALL馬鹿 BLOG

オレたちの「深夜特急」~インド編 ボンベイ 4 ~

2022-01-16 21:59:26 | オレたちの「深夜特急」

コーヒーを飲み終えて、海へ行ってみようと思った。

海を見るために一足飛びにきたボンベイだった。インドというカオスに放り出され、これまで順調だった旅は一変した。人のパワーに圧倒され、この上ない暑さに疲弊し、町中に漂う匂いに戸惑い、そうして3週間が過ぎようとしていた。その間、入院し、何度も騙されそうになりながら、このインドを過ごしてきた。正直なところ、旅は快適ではなかったし、自分自身楽しんでもいなかった。けれど、海を見ればその雰囲気が変わると思っていた。いや、旅の空気が一掃されなければ、自分はこの先もう前には進めないような気がした。

「インド門はどっちですか?」。

コーヒー屋さんで、隣に腰を下ろしていた老人に尋ねると、すげなく指を指して、軽くあしらわれた。

仕方ない。その指し示す方角に行ってみるか。

ボンベイにおけるインド門はアラビア海を臨む海に位置しているときいた。インド門はすなわち海への道なのだ。デリーのインド門と同様、ムンバイのそれも戦争記念碑である。歩き出すと風か吹いてきた。気のせいか、微かに潮の匂いもする。道順は分からなくとも、風の先に海はあるだろうと思った。

歩くにつれ、少しずつ人が増えてきた。彼らも風の吹く方へ歩いていく。わたしは途中で商店に寄り、煙草と缶ビールを購入した。10本入り8ルピーの「ゴールデンフレイク」と20ルピーの「キングフィッシャー」である。店を出て、少し歩くとやがて巨大な建造物が見え始めた。褐色の石造りの門。

これがインド門か。

門の周囲には大勢の人がごった返していた。インド門はボンベイの観光のハイライトのようだ。インド門を潜り、人の波を掻き分けると眼前に海が現れた。だが、期待が大き過ぎたのか、初めて見るアラビア海にわたしは失望した。海は濁り、足元の護岸された海の一部を見ると、まるで掃き溜めのように多くのゴミが浮遊していた。気分はあがらなかった。それどころか、ますます気持ちが沈んでいくようだった。

わたしは途中の商店で買ったキングフィッシャーの缶ビールを開けて一口飲んだ。わたしの考えではリゾートまではいかないまでも、砂浜があるビーチのような海があるのだとばかり思っていた。その砂浜に座り、ビールを飲んだら気持ちがいいだろうと思ったが、空も海もどんよりとし、一向にビールは旨くなかった。

すると一人の男がわたしを見ていることに気がついた。はじめは気のせいかと思ったが、もう一度彼の方を見ると、向こうも気がつき、やがて近づいてきた。

「ビールは隠して飲んだ方がいいな」。

彼が何を言っているのか分からず、何回か聞き直すと真剣な顔つきでこう言った。

「ボンベイでは外で酒が飲めないんだ。ペナルティもあるしな」。

それでようやく理解でき、わたしはうなづいた。

「酒を飲む時は袋に入れて隠して飲め」。

そう言って彼はポケットから茶褐色の紙袋を出し、缶ビールを包んでわたしに戻した。

「ほら、こうやって飲めば、ポリスに捕まることもない」。

「ありがとう」。

「ところでジャパニ。ガンジャは要らないか?」

彼の申し出は突然だったが、反射的につい「いくらか」と訊いた。それが興味あると思わせたか、ポケットからまたもや紙袋を出し、「140ルピー」を提示した。

「そんな大金持ってない」と断ると、「明日でいいから」と執拗に言う。

「いや、要らない」と言うのだが、両替屋と同じようにその値段はみるみる下がっていった。とうとう75ルピーになったところで、彼は強引にその紙袋をわたしの手に置いたかと思うと逃げるように走り出した。そして人波の向こうで彼は振り向くと、「明日の正午に金を持ってこいよ」と言い残し、その姿は見えなくなった。

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6 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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なんという (ふりーまん)
2022-01-25 15:50:51
お人好し、ガンジャの売人というベース悪いやつのくせに。(笑)

まあ、持っていかれてもさして痛くないほど潤沢に持ってるか、効き目の薄い混ぜものガンジャなのかもしれないけど、75ルピーだと(140ルピーでも500円弱だもんなあ)安いと思って買う日本人は沢山いたんだろうねえ。

さて、師はどうしたんだろうね、なんだかんだでこの日の夜に吸ってしまって支払うパターンなのか?そのままぶっちぎるのか?はたまた返却するという大技を使うのか?

楽しみだよ。
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Unknown (熊猫)
2022-01-25 20:52:39
師よ。

今思えば、このガンジャ商人はジャパニ専門だったと思うよ。
真面目で律儀なジャパニなら、先物取り引きでも大丈夫だろうと。だから観光でわざわざ目を光らせてはジャパニを見つけて声をかけるタイミングを見計らって。師の言う通り、もし金が回収できなくても損をしない仕組みなのかもね。

けれどインドの街中で酒を飲むのは、これっきりやめたよ。日本くらいだろうね。どこでも自由にお酒が飲めるのは。
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だろうねえ (ふりーまん)
2022-01-31 14:08:34
俺もジャパニ専門だったと思う。超律儀なジャパニ以外は持ってくでしょ。だって、持ち逃げしても警察には届けられないだろうし。

まあ、持ってったやつをつけて、宿を賄賂警官と急襲するというパターンもあるだろうけどね。

しかし、インド町中で飲酒というのも豪気だったね。

バラナシだったと思うけど、酒屋の販売窓口鉄格子はまってたし、(強盗よけ。なお、店内には入れなかった。)酒買おうとするとそのへんのインドのおっちゃんとかから「酒なんか買うのやめなさい。」って叱られたもん。

ちなみに、オーストラリアでも、場所によって町中飲酒罰金地区ってあって、俺もスーパーで買って外で飲もうとして現地の友達から、「ああ、ここではそのまま飲んじゃダメダメ。」って紙袋で包まれたことあるよ。

そういうとトルコでも、レストランでこの店では酒はだめだからって包まれたことあった。(トルコのレストランは飲み物持ち込み可だった。)

そう考えると、日本、こと酒に関しては乱れまくってるなあ・・・。
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Unknown (熊猫)
2022-01-31 16:28:49
師よ。

日本の酒事情は国際基準とは全く異なるね。規制がほとんどないもん。下手すると、昔は子どもも買えたし。多くの国は公共の場で酒が飲めないはず。それを知らずに海外に行くと困ったことになるよね。

師はあまり酒を飲まないのに、そんな経験をしていたか。日本と中国くらいかな。どこでも飲めるの。あ、そういえば師は陽朔で、中国人にたかられてたね。この話題には関係ないけど。

数年前にインドに行った時も、やはり酒の販売所は鉄格子があったよ。一人で酒を買いに行くと言ったら、ボブネッシュが心配して。結果、無事にビール2本をほぼローカルプライスで買って帰ったら、「すごい」と褒めてくれたなぁ。酒の扱い方は日本とは全然違うよ。
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インドって (ふりーまん)
2022-02-08 13:17:43
酒は害悪・罪悪扱いだよねえ。

ちょっと気になって調べてみたら、ヒンドゥ教の五大罪の一つが飲酒だった・・・。そりゃ、インドで酒買おうとすると、敬虔な感じのおっちゃんに真顔で酒はやめとけって言われたり、酒屋からの帰りに顔しかめられたりされるはずだよ・・・。

パラの大会に行ったときは、山側の田舎の飯屋で、毎日のようにビール飲んでたけど、あれも現地の人からすればとんでもないろくでなしに見えたんだろうなあ。まあ、ろくでなしなのは酒飲まなくてもそうだからいいんだけど。

日本は未だ、酒の上であればしょうがないみたいな言い訳するやつが結構いるけど、国が認めてるドラッグだからってその言い訳は絶対ないなと思う。被害を受けてる人はシラフなんだし。

まあ、昔を思えば自分も人のこと言えた飲み方してなかったけれど。
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Unknown (熊猫)
2022-02-08 23:08:51
師よ。

今日もある人と同じ話しをしたけど、日本ほど飲酒に寛容な国ってないと思うよ。街中で酒を飲んでも咎められず、コロナで酒が提供休止になったら騒ぎ出す(あ、自分か)。

インドは害悪か。やっぱり宗教なのかな。日本みたいな無宗教は酒に対する教義がないから。

こないだインドに行った時、ボブネッシュ家に悪いから酒を我慢していたけど、数日後ビールが飲みたくなったから買いに行ったら、ボブネッシュもダルシャン(ボブネッシュの奥さん)もお酒が好きみたいで、その日から毎晩酒盛りするようになったよ。
少しずつインドも変わってきたと思う。
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