
山間にある、ひなびた温泉もいいが、海沿いにたたずむ温泉もいい。
片や閉ざされた土地、一方は開かれた場所だ。
人生、何かに行き詰ったときは、ローカル線に乗って、海沿いの街を訪ねるのがいい。そこに温泉があれば言うことなしだ。
ゆっくりした時間と優しい風、そして温かい人々、うまい酒と飯に癒される。
だだっ広い、空と海を前にして、ボクらは気付くだろう。自分らは生かされていることに。
仕事に疲れて、ボクは旅に出た。
日暮里から京成線に乗って、成田まで行き、そこからJRに。
京成線も八千代台を過ぎると、もうド田舎だ。特に臼井と佐倉の間の田園風景を見るとホッとする。
また、成田線の車窓から見える風景は京成線よりもさらに辺鄙さを増し、いよいよ旅情をかきたてる。
これはもうちょっとした旅だ。
銚子駅を降りて、次に銚子電鉄へ。
このローカル線がまたいい味を出している。
1日乗車券を買ったのだが、これには、銚子名物の「ぬれ煎」がついていた。いや、厳密に言うと、指定された駅で切符を見せると、「ぬれ煎」が1枚もられるという仕組みなのだが、なかなかユニークである。
8時に家の最寄り駅を出発して、犬吠埼の最寄り駅、外川に着いたのがちょうど12時だった。
約4時間かけて、ボクは銚子に辿り着いた。
銚子には犬吠埼という岬がある。
千葉県のマスコット、チーバくんは犬をモデルにしているが、彼の鼻の頭の部分が犬吠埼だ。
犬が吠えると書いて、「いぬぼうさき」と読む。
離島と山を除く日本の平地で、最も日の出時刻が早いのが、犬吠埼だ。
その岬が見える風呂があると聞き、ボクは駅を降りて急いだ。
「犬吠埼観光ホテル」。
平日、大人1,000円。決して安くはない。
自動券売機でチケットを購入し、いざ浴場へ。
設備は広く、8つの浴槽がボクを待っていた。
内湯から見える景色も絶景だが、ここはやっぱり露天風呂から太平洋を眺めたい。
この景色を眺めただけで、4時間もかけてきた甲斐があったというもの。また、1,000円の入湯料だって、決して高くはないことに気づく。
風呂の気持ちよさよりも、景色の壮大さに気持ちが昂揚していく。
空の青と海の青は微妙に違っているのだけれど、その境目が実はよく分からない。
あの境目の向こう側はどうなっているのか。
ついつい、景色に見惚れてしまう。
犬吠埼の岬が突きだし、白亜の灯台が美しい。こんな風景を見ながら風呂に入れる場所って、全国にもそんなにないだろう。
このロケーションの絶景は実際に見た者にしかわからない。
泉質 ナトリウム・カルシウム塩化温泉。
さすが、沿岸の温泉だけに塩が効いている天然温泉。
一人電車に揺られて手にした極上の時間。
まさに体も心も洗われる風呂と景観だった。
俺も行ってみてーよ。
以前、師とは那珂湊の温泉に行ったっけ。
海が見えて、気持ちよかったね。
いつかまた、海の見える温泉に行こうぜ。