十条の演芸場通りの人気居酒屋といえば、「田や」であるが、東に15mほど行くと、もうひとつ居酒屋があるのをご存じだろうか。
小さな提灯が店頭を飾り、濃紺の暖簾に「やきとり」と染め抜かれている。メニュー表が店頭に掲げられているが、文字が小さくて見えない。
店構えは「田や」に比べて地味である。
「鮒忠」。
時々見る居酒屋チェーン店。
いつか店に入ろうと思っていたが、ようやく好機が訪れた。
ひどい雨で、雨宿りをするためである。
店に入るとお客はまだ誰もおらず、ボクは拍子抜けした。
店内は閑散とした雰囲気だった。
お店には厨房に男性が一人、そしてオーダー係の男性が一人ずつ。
「いらっしゃい」と声をかける。
ボクはカウンターに腰かけた。
店内にBGMはかかってなく、やけに静かだ。いや、雰囲気が重苦しいと行った方がいい。
気のせいだと思うのだが、メニューを繰るボクの行動が見られているような気がする。
「失敗したか」。
少しだけ、ボクはそう思った。
「生ビール」(520円)に「鮒忠」自慢の焼き鳥を注文した。
焼き物は「もも」が200円。ねぎまが200円。
ちょっと高い。
「皮」や「ささみ」は300円もするので、ちょっと手が出ない。
さて、店に客はいっこうに入ってこない。
雨だからだろうか。
常連ならばすでに入店している時間である。この店の常連たちは遅いのだろうか。
ビールを飲み干し、「ウーロンハイ」(400円)に。
串焼きの焼き上がりまで、まだ時間がかかりそうなので、「皮つきフライドポテト」(480円)をオーダー。
しかし、480円て。
まず「皮つきフライドポテト」が運ばれてきた。
一人分ではない。
串焼きがきた。
小さくもないが、とにきり大きくもない。
これで200円か。
ここでオーダーしたものを小計してみた。
1,800円。
立ち飲みなら十分満足する金額だ。
いや、決して今の状況を満足していないわけではない。
焼き鳥はおいしいし、フライドポテトだって悪くない。
けれども、どこか虚しさがあるのは何故だろう。
「鮒忠」は戦後の居酒屋をリードしてきたことは間違いない。
しかしながら、その自負に甘んじてはいないだろうか。
大衆の実像が変化している。その変化に「鮒忠」は気付いているだろうか。
コストが高いことは悪いわけではない。
でも、それに見合うものがほしい。
居酒屋としてのワクワク感やグルーヴ感を。
小一時間ほどして、ボクは店を出た。
お通し代も入れたら、会計は2,000円を超えた。
その間、客は一人も入店しなかった。きっと、雨だけのせいではないだろう。
「田や」と明暗を分けているのは、時代の変化を読み切れていないところにあるのではないだろうか。
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