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BASEBALL馬鹿 BLOG

藤島 大 先生への手紙

2005-03-24 22:57:26 | Weblog
 拝啓
 
 ご無沙汰しております。
 先日は「2月9日、金正日総書記、平壌の招待所にて」を添削いただきましてありがとうございました。
 金正日氏の目線から見たw杯最終予選と俯瞰した試合展開の記述を両立することが難しく、結局作文全体がアンバランスになったことは反省材料です。もっともっと構成を練りこまなければいけないと感じました。
 先生がご指摘された「とことん寓話にしてもよかった」という点ですが、実は私も当初そのように構想していました。しかし、実際に書くと日本でよく言われているステレオタイプの奇人ぶりと何ら変わらない金正日像になってしまうのです。日本の物差しで創り上げた金正日像がメディアを中心に横行するなか、私は中立的な目線で総書記を描きたかったのです。しかし、実際の作文にはフィクションが大半を占めていましたから、中途半端な創作よりは大げさな寓話の方がよかったかなと今は感じています。

 先日、先生の「スポーツ発熱地図」(ポプラ社)を購入しました。
 Number誌に連載していた頃から楽しみにしていた作品だったので単行本化してほしい、と願っていましたが、ようやくまとまって刊行されたのでとても嬉しいです。
 改めて読んでみると今まで先生がおっしゃっていたことが全て凝縮されているように思います。
 特に細部へのこだわりです。ディテールを丹念に描いているからこそ、広がるイメージの厚みがまるで違うように感じます。
 「力士なき力士の里の原風景」での一節。
 『横綱、隆の里、青森県南津軽郡浪岡町出身、二子山部屋。いい響きだ』
 私も子供の頃の場内アナウンスを聞いてうっとりした覚えがあります。この抑揚の効いたアナウンスは津軽の力士だけがもつ特別な響きです。その背景には荒涼とした厳しい冬の海鳴りが聞こえてきそうな厳粛な佇まいさえ感じさせます。しかし、先生は実際に津軽の村営相撲場に行かれ、人と接し、風にあたり、匂いを嗅いで文章に託している。まるで魂を吹き込むかのように。先生の一言一句はそうした表現の可能性に挑んでいるように感じます。

 先生は以前、中国の映画「山の郵便配達」が「好きだ」と仰られていましたね。
 私もあの作品が大好きです。劇中、セリフは少ないのですが、作品に漂う空気は痛いほど伝わってきます。或いはそれを「匂い」というのかもしれません。映像と言葉の表現という違いはあるかもしれませんが、言葉にいくつもの意味を込めている先生の表現に共通の想いがあるような気がしてなりません。

 また、いく先々で訪ねる酒場も作品の醍醐味です。そこで感じる人々の温もり、店の温もり、土地の温もりを先生は時には痛みを感じさせるくらいのデリケートさで言語化しています。酔う自分と客観的な自分。酔客の自分とライターとしての自分。こうして使い分けることができる先生に感服します。そして何よりも巧みに言葉を紡いで、人々の、或いは土地の、いや信仰といったらいいのか、とにかく「熱」を伝えているのです。

 「旅」はいいものです。
 先生はあとがきに『旅をする。ただの旅ではなく、そこにスポーツがある。すると、道端の水溜りに、遠くの神社に、ペンキ屋の看板に、酒場の冷めかけた徳利をつまむ感触にさえ、みるみる意味は宿る。とたんに書くべき対象と化す』と記されています。
 全く同感です。たとえ、そこにスポーツがなくても、あらゆるものの意味を感じることでしょう。私にとっても旅はライフワークのひとつです。

 足掛け3年間議論された「乗用車の車検期間の延長問題」は現状維持のまま、決着を見ました。この間、記者の端くれとして、この問題を眺めることができたのは非常に幸運なことでしたし、また勉強にもなりました。どうやら、私も次のステップにいくときがきたようです。それがどのような形になるのか、今はまだ分かりません。

 先生は今頃テヘランでしょうか?
 いつか、先生と現場でばったり会えたら、どんなに嬉しいことでしょう。
 
 お体にお気をつけ下さい。
 それではまた。
                                       敬具
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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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文章の魅力 (たかお)
2005-03-25 12:50:03
私のような遠い彼方のBlogにTB頂きましてありがとうございます。

記事を読む限りでは、藤島さんと師弟のご関係にあるのでしょうか?

私はラグビー観戦が専門なのでラグビー以外の藤島さんの

文章を

読んだ事が無かったのですが、藤島さんがラグビー以外にもいかに

スポーツを愛しているかを感じることのできる一冊でした。



実はあの本のなかで一番好きな文章が、上記であげられたあとがきの

一文でした。藤島さんの文章にはなんともいえない魅力がありますね。
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