
「ひととき。」を出て、行くお店は決まっていた。往路、店の前を通過した「両国酒店」。さっきはびびっていたが、一杯ひっかけて腹をくくった。
酒店の2階部分に人影が見えた。営業はしているらしい、
階段をあがり、意を決してドアを開けた。
びびり気味だったが、なんてことはない。お客さんは誰もおらず、優しそうな女将さんがたたずんでいた。テーブル席はなく、横に長いカウンター一本。ビル自体が古く、店内も古いが清潔だ。どこに座ろうか悩んだが、店内、やや左寄りに座り、お酒の燗をお願いした。女将さんはやかんにお酒を注ぎ、燗をつけてくれた。
文字通り、コップ酒。
思わず心の中で叫びたくなる。「雁之助は〜ん」と。
一口、ちびりと飲んでみる。うわ、温かくてうまい。なんだか一瞬のうちにお店に溶け込んでしまっかのように、リラックスできた。
「今夜は寒いですね」。
と女将に話しかけた。天気予報は来週、スーパー低気圧の到来を告げていて、太平洋側も積雪するとのことだった。
女将は、「なんか、来週四国でも雪が降るって」。
「ひととき。」の女将は、いかにもおばちゃんらしい大きな声で話したが、「両国酒店」の女将は優しい小さな声だった。
思わず、仙台の「源氏」の女将を思い出した。大田和彦さん曰く、日本三大割烹着女将のお一人。「両国酒店」の女将は割烹着こそ着ていなかったが、その所作は落ち着きはらっていた。
お料理は「湯豆腐」をお願いした。寒い日と燗酒にぴったりな酒の友。
女将が作ってくれた「湯豆腐」は姿形は申し分なく、ねぎをどっさり盛って、感動的ですらあった。
「お店はもう長いんでしょうか」。
ぽつりぽつりとした会話がまた始まった。
「父が始めた酒屋さん。2階でお酒を飲めるように営業して」。そのお父さんが亡くなった後、娘である女将さんが続けたという。
「でも、もうわたしの代で終わり」。
なんだか、古い邦画の世界のシーンに自分がいるような気がしてきた。
もし、自分がこの近所に住んでいたならば、このお店に通うだろう。
一杯目のお酒を飲み干し、おかわりを。
いかん、いかん、ついお酒のピッチが早い。
この日は2軒とも女将のいるお店に行ったが、やはりお酒を飲みながら話しをするのは楽しい。N新聞のH部さんが、女将のいる店にハマるのもよく分かった。
結局、自分がいる間は誰もお客さんは来なかった。それも少し寂しい。そして自分は3杯のコップ酒をいただいた。
会計は1,000円しなかった。申し訳ないから、お釣りは置いてきた。
いつか、このお店の歴史が終わる日は来るだろう。もう一度来たい、心から、そう思わせるお店だった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます