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居酒屋放浪記NO.0016 ~ここにいる誰もが『あしたのジョー』である~「大越」(千代田区内神田)

2005-05-01 20:44:45 | 居酒屋さすらい ◆東京都内
  2ヶ月にいっぺんの編集会議はたいてい居酒屋で行われる。
  夕刻頃、社長の号令によっておびき出され、いそいそと近所の居酒屋に出かけるわけだが、居酒屋会議の本当の意図は閉塞した社内で行うより、酒をいれて、ざっくばらんに名案を出し合おう、という社長の配慮、というか、戦略というか、ただ単に自分が飲みたいがためにかこつけたもの、だったりもする。

  特に行きつけの店があるわけでもなし、そのときによって会議場はコロコロ変わるのだが、議場の基本的コンセプトは大衆酒場でなければならない。注文して2分以内にオーダーしたものが運ばれてこないと社長は頗るご機嫌を損ねてしまうのだ。こうした条件をクリアして、この日選ばれた店はJR神田駅西口、ガード下にある大衆居酒屋「大越」。間違っても、最近流行のダイニング系個室付の創作居酒屋などに足を踏み入れてはいけないのである。

  勤務時間内に飲む酒というのは微妙な格別感がある。この微妙というのはただ単に目の前に気難しい社長がいて、退屈な仕事の話しをしなければいけない、ということなのだが、やっぱり陽が高いうちに飲むお酒は、学校を早退して、真昼間にウチに帰ってテレビを見る小学生のようであり、5時間目をサボって校舎の裏でタバコを吸う高校生のようで、少しだけ嬉しい。まだ、4時を少し回ったばかりなのに、店内に溢れるサラリーマンもきっと同じ気持ちなのかも。

  しかし、居酒屋「大越」の開けっ広げなまでの開放感。これが実にいい。
  店の入り口をドアで閉ざすわけでもなく、いつまでも開けっ放し。躊躇することなく店に入ることができる。誰も分け隔てなく店に迎えいれてくれるこの姿勢こそが大衆居酒屋が大衆居酒屋である所以であろう。
  だが、誰も分け隔てなく、と言いながらも店内にいるのは100%おっさんの姿のみ。しかも、ほとんどが背広組である。それはまさに「背広」と呼ぶに相応しい。決してスーツと言ってはいけない。あくまでも、背広である。そんでもって、この水墨画のように霞んでみえるモノトーンの店内には、決して若い女性がいるわけでもなし、カッコつけしぃの粋がり小僧がいるわけでもなく、淡々と「おっさん」だけなのである。ぱっと見た限りの平均年齢は54.4歳。高齢でもあるのだ。

  換言すれば、ここはおっさんにとっての「安息の場」ともいえる。誰に気兼ねすることなく、遠慮する必要もなく、気の合った連中と酒を飲む。おっさんに冷ややかな目線を浴びせる電車内化粧女もいなければ、凶暴化著しい小僧に狩られる心配もない。はたまた、階級的選民意識を振りかざし、庶民を蔑む働き者のお役人もいなければ、「金が全て」と合理的経営で武装する六本木ヒルズ的ベンチャー族もいない。
  あるものといえば100種類以上はあるか、と思われる安くてうまい肴とどんなに豪遊しても高くつかない、という安心感の酒場なのである。

  居酒屋「大越」は言ってみれば「あしたのジョー」だ。
  昔、日本赤軍がよど号をハイジャックした際、「われわれは『あしたのジョー』である」と犯行声明を出したが、言葉の意味するところは違えど、「大越」の持つ世界も「あしたのジョー」なのだ。

  神田駅西口を降りる。
  すぐにわんさとてぐすねひいて待つ消費者金融のポケットティッシュ配りに囲まれ、ティッシュを3個も4個も掴まされる。西口商店街のアーチをくぐらず、東京駅よりにガード下を戻れば、そこは昭和に逆戻りしたような酒場が何軒も目に付く。この界隈は恐らく何十年も変わっていないだろう。都市出版発行の「東京人」5月号には昭和61年の神田駅西口の写真が掲載されているが、それは今とほとんど変わっていない。

  消費者金融のサンドイッチマンが一日たちっぱなしの仕事を終えて一杯の酒の安らぎを求めて店に入ってきても、誰も何も干渉することない。例えば、丹下段平が突然入ってきて、焼酎のお湯割りと冷やしトマトを注文してもここでは別段普通の日常なのだ。その昔、売血で得た僅かな金で酒を飲んでいた輩がこの酒場にも大勢いたはずである。
  いつの時代にあっても大衆の持つ力の源泉は、こうした酒場によって生まれ、多くの者は、酔いどれながらも、それぞれの「あしたのために」を唱えるのかもしれない。

  さて、編集会議だ。
  実は、金曜日のこの時間になると、もう仕事のことなどどうでもいい。
  本当は、目の前にある熱々の鯵フライをガブリとやりながら今晩の広島カープの先発投手は誰なのか、ゆっくり考えたいところなのである。或いは、ホクホクのモツの煮込みをすすりながら、今晩締め切りのtotoを思案したいところでもある。

  100席以上はあるこの店の全ての卓が埋まってきた。
  ここ、あそこにいる人たちはみな「あしたのジョー」である。

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1 コメント

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TBどうも~ (akuro_012)
2005-05-02 23:05:23
>勤務時間内に飲む酒というのは微妙な格別感

の例えがよくわかりますなあw



野球は自分も好きなので(あまり詳しくは無いけど^^;

ちょくちょく覗かさせて頂きます~
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