
アキバのUDXビル裏側。ここだけ、時間の流れが途絶えた一角がある。
「かんだ食堂」、そして喫茶店の「タニマ」。多分、この両店の風景は30年前も変わっていないかもしれない。
中二階にある「タニマ」は、1階が思いっきりアキバチック。確か、ヒーロー、ヒロインもののコスプレ屋さん。だが、2階の階段に上がっていくと、そこはもういきなりの純喫茶。その落差に、思わずタイムスリップをしたのかと目を疑う。
まず、たたずむ空気が違う。革張りの椅子、4人掛けのテーブルにはチェックのクロス。煙草の匂いが染みついた店内。そして、おじいさん。これぞ、喫茶の王道。
そうそう、書き忘れたが、1階にある店のショーウィンドー。もう何十年も掃除すらされていないのだろう。メニューだけがガラスの中に置き去りにされている。一見して、ダメな店舗と分かる。
時間が止まっている。外の喧騒とは裏腹に。
いや、メイド喫茶やJKカフェ、いやいやAKBカフェや猫カフェなど、カフェのるつぼとも言われるアキバにおいて、この店の希少性といったら。
まさに絶滅危惧種。
いや、そうしたストレンジなカフェが全盛であればあるほど、この喫茶店も光り輝いているように見える。
敢えていえば、昭和純喫茶。
アキバのカフェでは「おかえりなさいご主人さま」が当たり前だが、この喫茶店では、おじいさんが無言で現れ、水を置いていく。これは演出ではない。天然だ。
壁には絵すら飾られず、音楽もなし。店に何かを飾るわけでもなく、店主の主張は一切ない。こういう喫茶店も今や珍しい。
ボクはカレーを頼んだ。食後にはコーヒーがついてくるという。
その間、交わした言葉は一言だけ。「カレーね」。
リアル。だけどある意味仮想世界。もう現実が何なのか分からない。
メイドカフェは確実にフィクションの世界だ。束の間の空想世界を楽しむもの。だが、タニマは違う。
全てがノンフィクションのはずなのだが、少しずつ虚構と現実の境が分からなくなってしまう。これがカフェの本来の姿である。
あえて言えばスターウォーズのような世界観。それはひとつの曼荼羅。ミクロの世界にマクロを見る。いや、マクロの中にボクらの姿を映し出しているように。
カレーは確実においしいものだった。
そして、食後のコーヒーも。キーコーヒーから仕入れるブレンドコーヒー。
最近のボクは会社の昼休みをまるまる喫茶店の滞在に使う。この日もそうだった。
いざ、会計をしようと思ったのだが、くだんのおじいさんが見えない。しばらく、たたずんでいたが、現れない。
これもこの「タニマ」のマジックである。
時間の概念が違うのかもしれない。
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