小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

割拠見を突破せよ

2012年08月26日 | 国際・政治

 

   天皇がかつてもっていたとされる軍事的指導者としてのカリスマ性、軍神のもつ武力的象徴性をあらわす言葉である「御稜威」(みいつ)を調べていたとき、伊藤博文のブレーンだった井上毅(こわし)の存在がすごく気になっていた。彼が事実上起草したとされる大日本帝国憲法や皇室典範、教育勅語、軍人勅諭など、井上毅の仕事ははかりしれない。

 

  彼の著作や多くの参考文献を読みこなす力は現在の私にもないだろう。ただ、井上の人間関係を調べたときに、最も気にかかる人物が同郷の友人である「横井小楠」だった。明治維新から2,3年後につまらないことで暗殺されたが、もし生きていたら井上毅以上の活躍をしたのではないかと思う。

 なぜいまそれを思いめぐらせたかといえば、取り沙汰されている日韓・日中問題であり、横井小楠の「割拠見をこえる」という考え方に新たな価値を見出したからだ。

 「割拠見」とは自分たちの利害損得だけで物事をみる思考法をあらわす朱子学的な表現であり、当時の国際事情をみるにつけ欧米でも中国、朝鮮でも諸外国がそれぞれの「割拠見」に縛られている、と横井小楠は断を下したのだった。

 それは「割拠見」があるかぎり紛争解決の手段として戦争はなくならないというもの。

そこで彼は「至公至平の天理」とか「天地公共の実理」を説くが、オランダがジャワ島を、イギリスがインドを将来的に返還せざるをえないと予想した。今にしておもえば卓見である。

 明治維新の偉人たちは例外なく大所高所のものの見方をしたが、横井小楠はちょっと違って、堅実さや大言壮語を嫌うような控えめの処し方を心得ていた。

 儒教でいうところの「仁」だろうか。

 熊本藩の思想的バックボーンはどこにあるかと調べた。もちろん徳川時代ゆえ朱子学に拠ってはいるが、中国の朱子学経由ではなく朝鮮王朝の朱子学者「李退渓」を信奉したものであった。もっとも朱子学そのものは伊藤仁斎や荻生徂徠によってかなり変節されたが・・。

 儒学そのものは朝鮮経由の朱子学が本流ともいえ、「李退渓」は現在においてもその公共哲学の観点からけっこう日本で研究されているらしい。まことに江戸思想は奥がふかい。

 さて、今回の「親書の返送」だが、どうでもいい問題だ、といったら多くの方々からお叱りをうけるだろうか。

 しかし外交上、「親書」そのものがIT全盛の現代においてどれほどの意味をもつのか。歴史認識でぎくしゃくしているとはいえ、最近では文化・芸能において緊密な友好関係を築きつつある隣国の韓国。その日韓関係、ふつうなら大きな問題の芽がでたら首相同士がじかに話し合うようなホットラインが築かれていて不思議はない。

 それも大仰な「親書」をおくるというのは何かしら小賢しい。いかにも人間の機微を弁えない若手の役人的発想だし、送る前からその内容が事前に両国民が知っているのも可笑しい。

 ましてや、現実的に日本でいう「竹島」を韓国軍が実効支配していて、わざわざそこに李明博が行くのもこれまたパフォーマンス。意味をもたない「親書」がきたら「丁重に受け賜りました」と、返信する。あるいは「野田ちゃん、わかった。こんどゆっくり話そうよ」と直電ぐらいしたら、李明博は大器なりと評価されるだろう。

 いずれにしても日韓ともにトップの人間的なレベルの低さで海外のもの笑いのタネになるしかない。

 この件で佐藤優が「日本が礼を尽くして親書を送った」と新聞に書いていたが、この「礼」とは具体的にどんな行為だったのか。事前にダダ漏れの「親書」では「礼」が尽くされたものとは私は思えない。

 さらに引用する。

衆議院と参議院が「竹島返還に関する決議」を採択したら、それぞれの院が韓国に代表団を派遣し、韓国の大統領、国会議長に決議文の韓国語訳を渡すのだ。韓国が代表団の受け入れを拒否する場合、国際的に韓国は孤立する」。そして「韓国の横暴な対応に、国家と国民が一体になって反撃しなくてはならない」

 と、佐藤はある種の引導を渡すようなニュアンスと、具体性のない「反撃」という言葉で締めくくる。「反撃」という言葉は、彼が外交官だったら使えまい。

私にはこれこそ「割拠見」としか思えない。(佐藤優は高校の後輩でご両親は立派な方々と伝え聞く)

 そういえば佐藤優がリスペクトする外務省時代の上司、東郷和彦氏はこの問題をどう考えているだろうか。「歴史と外交」という新書は示唆に富む本だった。

 (東郷和彦氏の祖父東郷茂徳は豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に島津義弘の帰国に同行(たぶん連行か)した朝鮮人陶工の子孫であり、太平洋戦争開戦時及び終戦時の日本の外務大臣をつとめた。終戦工作に尽力したにもかかわらず戦後、開戦時の外相だったがために戦争責任を問われ、A級戦犯として極東国際軍事裁判で禁錮20年の判決を受け、巣鴨拘置所に服役中に病没した)

 竹島の実効支配を見逃し、既成事実化を許したものは誰か。

 その過去の原点に戻ればすべての問題の根源がわかる。

 見ざる言わざる聞かざる的な無責任体制、他者依存的体質は日本のネーション及び選出された政治家そのものだ。そうした状況を腹の中でほくそ笑み、より次元の高い(?)「割拠見」によりパーソナル・リソースとキャピタルを貯めこむ官僚たち。日本の未来は白い。

 追記 尖閣諸島問題については8月25日のビデオニュースの無料放送で概括されていて実に面白い。いま見終わったところだが、さすが中国トップは私が想定する「割拠見」は軽々と超えているようだ。それにしても、米軍と中国軍との政治的な歩み寄り、直近に計画されている共同軍事訓練などの情報をききおよび、日本のマスメディアってなんだろうか?

 


最新の画像もっと見る