小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

トランプに任せたい人々

2016年03月07日 | 国際・政治

 

 トランプ氏は「憎悪や恨みなど心の闇を引きだす。対立を煽って、自らの支持を引きだす。心の闇を引きだされた人はそうそう後には引けない」と、宮子あずさは書く(東京新聞3月7日朝刊)。

「こう思うのは、私が看護師として、患者の暴力や暴言に直面してきたからだろう。弱者とみなされる人が牙をむくと、こちらの反論はすべて権威的とみなされる。そこだけみれば、どちらが強者かわからない。」

宮子あずささんは、(多くの著作をもつ)コラムニストだが、現役の看護師。ふだんは病院や介護の現場から、医療・福祉の問題、高齢者や被介護者の心のケアなどに言及している方だ。週1回の小さなコラムだが、現場からプロの見る目で、病むこと老いることの心得、弱者としての考え方、対蹠法をわかりやすく説いてくれている。私にとっては見過せない、貴重な知見をいただいている。そうした彼女が、アメリカの大統領選挙いや、まだ共和党候補のひとりに過ぎないドナルド・トランプという男の存在に対して、ある種の畏怖を感じている。

アメリカ本国でさえ、彼はヘイト(憎悪)やビゴット(偏見)を引きだす煽情者というレッテルを貼られた。メキシコ国境に万里の長城をつくる、その建設費はメキシコ政府に払わせるだの、イスラーム移民はシャットアウトする等々。自由と民主主義を誇る国民にはあるまじき、トランプの凄まじい限りの言動は、マスコミによって世界中に流布されている。なのに、彼の勢いは落ちない。支持をひろげている。

親の遺産を相続した不動産王(彼自身は2回破産したことがあるらしい)、テレビでも人気番組をもっている。かつては民主党支持者であったが、行政の仕事はしたことはない。長老派プロテスタントに所属しているが、彼を「宗教的ではない」と思う人が60%もいる。そんな彼が、強力な共和党の第一候補に成りあがってきつつある。のように、見える。

宮子さんでなくとも、アメリカという国になんらかの関心がある人ならば、「トランプ氏」が大統領候補いや共和党の候補として選ばれるかどうか、厭がうえでも注目するのではないか。

彼女がいう「心の闇を引きだされた人々」とは・・。間違いなく、リーマンショックが起きるまで中間層にいた人たち、いまは「プアホワイト」と呼ばれる人々だろうか・・。仕事を移民たちに奪われ、将来の確かな夢を抱けない人たち。そこには、かつてのアメリカン・ライフスタイルはない。極端なはなし、食事はファストフードが関の山、という人たちが見える。

もちろんのこと、やっと法的手続きを踏んで憧れのアメリカ国民になった、数知れない移民たちも同様のおもいを持っているに違いない。

これらのうっ憤、恨み、憎しみを、「トランプ氏」が代弁してくれている。トランプに任せたら、私たちのこんな思いを晴らしてくれるのではないか・・。


ルサンチマン(怨念・妬み)を利用して政権をとるという、おぞましき政治的プロセスは、第2次世界大戦前のドイツで実証済みである。

 

一方、民主党候補争いにおいて、いま御年74歳の社会民主主義者サンダースが、若年層からの熱い支持をうけている。

アメリカでいま、何が起きているのだろうか。

自由を愛し、知的であることを自認している大学生、就職したばかりの若者たちは、現実を目の当たりしてつぶやく。「しっと」と。

馬鹿高くなってしまった学生ローンの支払いに、未来のアメリカを支える若年層の多くが四苦八苦しているという。

アメリカン・ウェイ・オブ・ライフをエンジョイすることができない。そんなことよりも、自分自身を落ち着かせる、安定した場所さえ見いだせない若者たちが多い。

格差は大きく開き、富の適正な再配分が行われていない。ヨーロッパ諸国ではごく普通の、政治的施策(教育費免除など)の恩恵に与ることもできない。オバマへの強い失望もあっただろうし、クリントンへの信頼は細っている。

そんななかサンダースが善戦しているのは奇異だが、世界で好ましく思われているのではないか。(少なくとも、私がそうだ)

その背景には、多少ニュアンスは違っても、トランプ旋風との共通点、近似項がかなり多い、と私は思う。

日本のアメリカンウォッチャーといえる人達でさえ、このトランプのぶっちぎりを読み切れた人はいない。まして本国の共和党本部でさえ、政治的伝統を逸脱したこの男にたじろぎ、今後のビジョンを決めかねているという。あのマードックが牛耳っているフォックスにしても、あんな糞野郎を大統領にしたら、アメリカは地に落ちるとして不支持を表明した。

 

ちょっと怖い見方が浮上している。

トランプが共和党の候補になった場合(この可能性はたぶんにある)。クリントンが候補になった場合(サンダースが候補になる確率はひくい)、この二者択一の選択では、トランプへの投票率が高くなるという予測。その理由は彼が経営者だという理由だ。つまり、手垢にまみれた政治家ではないということ。

硬直化し旧態依然としたアメリカの政治に、有権者は辟易している。政治家ではないむしろ異色の、実務的な経営者という人間に惹かれているというのだ。政治的なイシュー・課題は、いわゆるマネージメントとして合理的にてきぱきと処理するのではないか。優秀な経営者なら交渉にも長けているだろう。障害があっても、最適解を見出して問題を解決するのではないか・・。今は競争相手を罵倒することに能力を費やしているが、トップの責任者になれば、トランプは悪弊一掃に全力を注ぐのではないか・・。

・・などと、共和党内部では、トランプへの捻転した期待もうまれているらしい。絶対的なアンチトランプ派は、巨額の富を持つニューヨーク市長ブルームバーグに出馬を乞う、とも伝え聞く。

今後どうなるか分からない。

アメリカは現在、OECD加盟国の相対的貧困率ではメキシコに次いで2位の国。先進諸国ではトップで、わが日本も上位に位置している。

いうまでもなく、貧富の格差が広がり、中間層の減少をあらわしている証左でもある。こうした、経済状況をアメリカ発で打開するとしたら、そのトップは荒治療を断固実行するようなリーダーシップが求められる。

ただ、トランプ自身は世界に目を向けていないらしい。まして、海外で戦争してまでも覇権をめざすような権力志向はなく、内向きな現実主義者だという。でもやはり分からない。面白がっているのではない、分からないから不安なのだ。世界中の誰もが・・「心の闇を引きだされる」かもしれない。

大富豪の、トランプ自身さえそうかもしれない。

 

▲「相対的貧困」とは、所得の平均額その中央値の半分以下を占めるを人(家族)の割合。つまり、その国の所得格差を表している数字です。


▲日本の相対貧困率の推移。年間所得はGDPの約60%としてみなされている。但し、この所得は、可処分所得でないことは確かだ。




追記:最近の私は「どうかしてるぜ!」。データやグラフを使うようになってしまった。信憑性に依存するように、成り下がってしまった。

追記2:サンダース支持派の若者たちの具体的イメージをお持ちでない方がいたら、日本のTOEというバンドの、ニューヨーク公演における観客たちの盛り上がりを参考にされたい。

  http://www.restlesscities.com/2015/07/27/toe-live-at-the-regent/   

 最後の、[goodbye]へ。



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