小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

スノーデンが想像した恐怖とは

2016年06月07日 | 国際・政治

 

東大の福武ホールに行った。自由人権協会が主催する70周年プレシンポジウム「監視の今を考える」に、偶然にも参加できた。機密情報暴露の、あのスノーデンがネット経由ながら同時インタビューに応じるという企画に、まず飛びついた。しかも驚くことに、同時通訳付きで参加費無料である。後半のシンポジウムでは、スノーデンの法律アドバイザーであるベン・ワイズナー、ビデオニュースでも顔なじみの青木理、宮下紘らが登場するという。自由人権協会に直接電話したら、二人分の席が予約できたのは日頃の行いなんとやら至極運よし。


▲ロシアからのネットによる同時中継。こちらの対話者は、弁護士の金昌浩(Changho Kim)氏。ニコニコ動画に同時放送され、その視聴者と会場からの質問を適時織り込みながら、英語に堪能な金氏によるスマートな応答が冴えていた。

 

さて、エドワード・スノーデンは噂に違わず聡明な男である。まず最初、「日本語はそれほど勉強しませんでしたから・・」と実に流暢な日本語で自己紹介し、会場内の我々を笑いに誘い緊張をほぐした。(※)英語の理解力は貧弱な私だが、彼の知性的な話し方、質問には打てば響く、しかも論理的な返しが素晴らしいことは分る。また、事実関係を明確に示す言表、丁寧な受け答えには好感をもった。

両親や親戚のほとんどが政府に関係した仕事をしていて、そうした生活環境からごく自然に、NSA(米国家安全保障局)やCIAの職に就くことになったというエドワード・スノーデン。何ゆえに米国の最高機密情報を暴いたのか・・。

以下の言葉がすべてを物語っている。

発言や行動のすべて、会って話をする人すべて、そして愛情や友情の表現のすべてが記録される世界になど住みたくない       (「スノーデン・ファイル」日経BP社刊)

 

個人情報はいま、携帯・スマホなどの電話番号、SNSのアカウント情報、GPS機能などによって24時間管理、監視できる状態にある。「コレクト・イット・オール(すべてを収集する)」というNSAの目論みは、全地球的規模でカバレッジされているほどであり、最近のテロ事件によりムスリム・その関係者への監視は、この日本でも暴力的なまでのプライバシー侵害に及んでいるという。

(政府筋への監視も凄いらしいが、日本ではそれほど話題にならないのが不思議。英米だけの緊密な情報監視システムの存在が明らかになったのは、独のメルケル首相・携帯電話の盗聴や安倍首相官邸の電話盗聴などで立証された。まさにスノーデン情報、ウィキリークスからの漏えいがなければ、友好国の首脳までもスパイしているなんて、私たちは知ることができなかった。ちなみに、盗聴器は海底の光ファイバーに仕掛けるとのこと。わけわからん)

スノーデンが英国のジャーナリストに機密情報を持ち込んだのは、米英政府による個人情報の監視があまりにも凄まじく、もはや人権無視そのものの横暴なやり方を告発したかったからだ。

 

かつて監獄の囚人を一望監視するために、イギリスの功利主義哲学者・ベンサムが発想した「パノプティコン」がある。監視塔を中心にして囚人房がぐるりと円形に囲んだ監獄施設で、囚人たちはいつも監視塔から見張られているという錯覚をもつ。ミッシェル・フーコーはさらに思想的にこれを深め、「犯罪と監獄」の文化的系譜・パラダイムを分析した。今さらに考え方は敷衍され「意識的で恒久的な、権力による自動監視システム」という「パノプティック・ソート」にまで発展している。個人情報のあらゆるファクターが選別され、それを格付け、階層化してから管理・監視プログラムに組み込まれる。(そんな既視感ならぬ既知感が知らぬまに私たちを浸潤し、自らが自らを監視するという幻想に嵌る。意識のだるま状態となり、外に向かっていくという意欲さえ喪失する。SFの世界か、考えすぎか・・。)

人種、住所・電話番号にはじまり、所得・財産(隠しも含む)、婚姻歴、クレジット使用履歴、交友関係、趣味・嗜好、性的習慣まで、パノプティック・ソートされたビッグデータは近い将来、AIによりさらに緻密な階層にファイリングされ、格付けされるであろう。こうなればジョージ・オーウェルが予測した社会など、はるかに凌駕された監視ワールドだと言わざるをえない。(O・H・ガンジーJr著「個人情報と権力」は優れた著作だ)

 

▲後半のパネル・ディスカッションは、政府による個人情報の監視の実態と、人権への侵害、企業と政府の相互依存による開発、情報交換などの怖さ、違法性などが話し合われた。すべての内容をここに披瀝することはできないが、夕方5時過ぎまで濃密なディスカッションをみせていただいた。

 

来週から、イメージフォーラムで「シチズンフォー」というスノーデン主役のドキュメンタリー映画が公開される。ドキュメント部門のアカデミー賞を獲った話題作だったが、監督は英国の女性監督、ローラ・ボイトラス。スノーデンが告発する際に、最初にコンタクトしたうちの一人だ。今日、サンデー毎日の連載記事にも目を通したが、最近になってスノーデンの露出が目立っている。何かの潮目かな・・。

(※):スノーデンは子供の頃、横田基地で2,3年間ほど生活していて、 日本のアニメやゲームに親しんだらしい。そのときの経験をベースに、ハッカー的な技能を開花させたと何かで読んだことがある。

 

▲終わってから、東大構内を自転車で散策した。安田講堂は1968年のときの名残りをとどめ痛ましさを感じた。ほんのちょっと三四郎池にも足を伸ばしたが、かなりの植物が繁茂し歩きづらい。しかし、その植生は興味深いので再訪したい。

 

 

 

 

 

 


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