鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

248 鏑木清方の紫陽花舎

2022-06-09 13:01:00 | 日記

鏑木清方は鎌倉の自分の画屋を紫陽花舎と呼んでいて、その跡が今の鏑木清方記念美術館になっている。

今年から鎌倉市民は常時無料になった事もあり、この隠者も買い物がてらに寄る機会が増えた。


古風な門を潜れば庵名の通り紫陽花の露地となっている。



(紫陽花舎 鏑木清方旧居 鎌倉市)

小町通りをちょっと脇に入った場所にあり、親しかった大佛次郎の旧居とは若宮大路を挟んですぐ近くだ。

鎌倉は車の入れないような狭い路地に良景が多く、私の買い物の順路もそんな小道ばかりを辿るルートになっている。

清方は戦後の情緒を失い様変わりして行く東京に愛想を尽かし、明治大正の風情が残るこの鎌倉の路地裏に越してきた。


また清方は随筆の名手で、古き良き時代の美しい暮しを絵同様の情緒溢れる筆致で書いている。



(紫陽花舎随筆 初版 鏑木清方 古瀬戸仏花器残欠 鎌倉時代)

市井の風俗や季節の行事なども美人画家らしい細やかな観察眼で描写していて、当時の良家の美的精神生活を知る参考になる。

現代都会人の四季も花鳥風月も哲学宗教も失なった暮しと比べてみると、質素ながらもよほど品位と情感に満ちた暮しだ。


最近の古書の高騰を先導したのは先ず装丁や挿絵の美しい本で、その筆頭が鏑木清方や鰭崎英朋らの木版の表紙絵や綴込み口絵だった。



(夏雲 木版 鏑木清方 緑釉小壺 漢時代 古萩茶碗 江戸時代)

明治末〜大正頃の雑誌綴込みの木版画は、以前は数千円で買えた物が今ではその10倍以上の入札で奪い合いになっている。

隠者は幸運にもまだ安いうちに12ヶ月分揃えたので毎月掛け替えて楽しんでいる。

1つの額縁で中だけ入れ替えれば良いので収蔵場所にも困らない。

12ヶ月分の絵が揃った嬉しさに詠んだ一首(前出)を御笑覧。

ーーー絵に残る大正はみな美男美女 子等は純情天地は有情ーーー


清方の絵は何と言っても気品があるので、これを飾れば自室の品も上がった気になる。

丁度今年の春から近代美術館で大規模な鏑木清方展が開催されてまた更に口絵版画の人気が上がってしまい、もうこの隠者ごときが入手出来る物では無くなってしまったのが残念だ。


©️甲士三郎