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まだ山形に勤めているころ、夏の夜どうしたことか夫婦の寝ている蚊帳の中に小さな蛇がはいっていたことがあった。ふとめざめて白川は浴衣の胸のあたりに、冷やりと水のような感じをうけた。おかしいと思って手をやるとその冷たさがするすると滑り出した。
白川が声を立てて飛び起きると、倫(とも)もおどろいて身を起こした。枕もとの行灯を引きよせて、火皿を向けると、夫の肩に黒い紐のようなものがぬらりと光ってたれていた‥‥‥。
「蛇!」
と白川が叫んだのと、倫の手がのびて夢中のその生きている紐を掴んだのと一緒だった。
倫は白川ともつれるように縁へ出て開けてあった雨戸から、庭にそれを投げた。倫の身体はふるえていたが、寝間着の衿のはだけた胸にもあらわにした手にも、いつもの倫が封じて見せまいとしている生々しさが逞しく匂っていた。強気な白川は、
「何故捨てる‥‥‥殺してやるのに‥‥‥」
と倫を叱ったが、倫の情熱を感じながら、白川にはもうそのころから倫が愛情の対象にはなりにくくなっていた。自分の強気の一枚上をゆく強さが倫にあるのが、けぶたくなじめないのだった。
円地文子『女坂』より
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いや~、この本を読むのは辛かった。
まず、新潮文庫の活字が極端に小さい。
昭和36年に発行されたとある。
1961年といえば徳さんが14歳、中学生の時である。
その頃は、だれも現在のような高齢化社会を想定できず、読者の老眼の心配を誰もしなかったろう、との推測は成り立つ。
しかし、この本の人気はしっかりとあり続け、徳さんが図書館から借りた本は46刷目とある。
今から24年前の版である。
その頃には老人がすでに繁茂していただろうに、新潮社さん、老人に愛を!
徳さんは、天眼鏡を利用しながら読んだのだぞ、、、、。
もちろん、本当に辛かったのは、この本に描かれている内容だ。
ただ今現在、マスコミ等で槍玉になっている鈴木章浩都議会議員。
尖閣諸島に上陸するといったパフォーマンスしかできないような情けない都議だが、その鈴木氏を数百倍濃縮した怪物が明治時代にはゴロゴロしてた。
それが、この小説の主人公、倫の夫である。
かの悪名高き、福島管領、三島の副官との設定である。
倫の価値観は、最終的には家を守る、しか与えられなかった。
そのためには、当時の男尊女卑の社会のもと、倫には過酷な人生が用意されていた。
家の中に妾を同居させる。
それも、二人も。
男はその人選を妻である倫に委ねる事まで平気で要求する。
これは倫にとって地獄絵でしかない。
まさに、究極のDV.
しかも、白川は息子の嫁にまで手を出す始末。
ジェンダーとしての男は、環境さえ整えば気軽にこんな世界に平気でワープするんだ!と自戒した次第。
でも、円地さん。
最後に、落とし前をつけてくれた。
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「豊子さん、おじさま(夫である白川行友のこと)のところへ行ってそう申し上げてくださいな。私が死んでも決してお葬式なんぞ出して下さいますな。死骸を品川の沖へ持って行って、海へざんぶり捨てて下されば沢山でございますって‥‥‥」
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