カイロじじいのまゃみゅむゅめも

カイロプラクティック施療で出くわす患者さんとのやり取りのあれこれ。

博士の愛した数式

2009-08-23 17:39:21 | 本日の抜粋

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博士は安楽椅子の脇にアイロン台をしつらえ、早速仕事に取り掛かった。何と彼はコードの引き出し方から、スイッチの入れ方、温度調節の仕方までをも心得ていた。テーブルクロスを広げ、数学者にふさわしくそれを十六等分し、一つ一つのブロックを順々に片付けていった。
 まず霧吹きの水を二度噴射させ、熱すぎないか手をかざして確認し、一番目のブロックにアイロンを押し当てる。把手をぎゅっと握り、生地を傷めないように慎重に、しかしあるリズムを持ってアイロンを滑らせてゆく。眉間に力を込め、小鼻をふくらませ、自分の思い通りに皺がのびているかどうか、凝視している。そこには丁寧さがあり、確信があり、愛さえもがある。アイロンは理にかなった動きをする。最小の動きで最大の効果が得られる角度とスピードが保たれている。博士のテーマである優美な証明が、その古びたアイロン台の上に実現している。
 私もルートも、博士ほどこの仕事に相応しい人はいないと認めざるを得なかった。

小川 洋子 『博士の愛した数式』より 新潮社

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久し振りに、すがすがしい、さわやかな小説を読んだ気がする。

そんなものを求めて読み出したのでもなく、この奇妙な題に惹かれて、たぶん大分昔にベストセラーになった記憶も手伝って手にしてみたのだが、、、。

徳さんはこの小説の何にやられてしまったのだろう?

イノセント、無垢な心の表現テクニックに落ちたのだと思う。このアイロンかけのように。

博士の無垢な心に寄り添う、母子共闘振りもなかなか。