カイロじじいのまゃみゅむゅめも

カイロプラクティック施療で出くわす患者さんとのやり取りのあれこれ。

快老のスタイル

2009-08-02 19:21:58 | 本日の抜粋
 
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八十のエヒラのばあちゃん
五つの童子に逆還りさした
梅雨のしぐれる夕まぐれ
またしても ひとり
花野にまぎれこみ
紅や紫や黄の野花の花粉を
ぐっしょり濡れた衣や肌に
まぶし染めなして
ゆうらゆら さまようて おらした

とくとく燃えさかる
おのれの中の炎を消しもあえず
胸うちに隠し持った早鐘を
こんこん撞きまくり
野の藪くらを舞うように
さまようて おらした

白髪の毛先から
雨露を血のように滴らせ
右手にタオル
左手に摘んだ野花の束を握りしめ
迎えにやって来た息子のタマオさんに
皺深い笑顔を向けて言いなさった
「ご先祖さんがな、きれか花を供えてくれと言わしたけん 採りに来たとやかね」

薄暮の 濡れそぼたれた野の道
「早う帰ろう 風邪ひくよ」
ばあちゃんの手を把ったタマオさん
うつ向き加減におし黙って
ゆるゆる家路へと向かう
少し強くなった雨脚の中を
靄に包まれたふたりの背姿 影絵となって
淡く滲んで遠のいていく

   山口 宏

松永 伍一 『快老のスタイル』より 大和書房

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貧乏学生の頃、なけなしの金をはたいて、松永伍一の『日本農民詩史』全4巻を買い揃えた記憶がある。
地味な仕事で、読み進んでいくうちにだんだん退屈になった記憶がある。
よほど詩が好きな人じゃないと出来ない、根気のいる仕事だった。

その中のお気に入り、「越後瞽女口説」という詩に曲を創ってみた記憶がある。
徳さん、結構悦に入っていたが、音楽の事など何も知らないまま創ったもので、後日、音楽に詳しい人に聞いてもらったら、ゲラゲラと笑われてしまった。
まるでお経なのだそうだ。

そんな因縁の松永伍一さん。
久しぶりで手にしてみたら、農民が老人に替わっただけの、相変わらずのお仕事振り。
安心するやら、少し物足りない気持ちになるやら、、、。