
朝日新聞7月20日文化欄掲載
今回の掲載では、「井上ひさしさんお別れ会」での丸谷才一さんのお話に続いて
井上さんから大江さん宛ての最後のメモについて書かれています。
それは、小説『水死』を読んでの感想でした。
この小説の中に、主人公と息子アカリさんが仲たがいする話が出てきます。
主人公が大切にするベートーヴェンの楽譜(E・W・サイードの書き入れがある)を、アカリさんが
マジックで黒々と囲いK550と書いたのを見て、「きみは、バカだ」と大声でいった、という内容です。
井上さんは、この文章が大江親子の間に起こった事実として、
ことの経緯に対して批判します。
「小説の終わりに日常的はレベルでの親子の会話が出てくるけれど、あれは本当だろうか」
「アカリさんは音楽という『真に人間的なことがら以外では和解しない。』
音楽を通じてかれのいいたかったことをを聞き直し、謝るほかはない。
このままではきみは抑圧的にアカリさんを侮辱したままだ」
『水死』という小説を私は十分理解できてはいませんが、この親子の仲たがいは、
重要なテーマであり著者の深い苦悩だったことは推し量ることができました。
「井上ひさしさんお別れ会」で、大江さんは黒柳徹子さんから、催促を受けます。
光さんが黒柳さんをテーマに作曲した『はやくち』の楽譜をまだいただいていないと。
そして、光さん、お元気ですかとも。
帰宅後、大江さんは光さんに、黒柳さんの催促の件と、
「ひさしさんの批判にそくした長話」をし、音楽を通じての和解を進めた、と書かれています。
とても考えさせる大江さんの文章でした。