ダンカンが問う。
「魔物狩りより街中の仕事と申されていますが、
現に貴女方は魔物を狩っておられる。
そこには如何なる理由が・・・」
「簡単な事です。
女の子達の家庭教師とパーティの警護、
この二つで結構な報酬になるのです。
これは断れません。
そしてもう一つ。
ダンに有ります。
彼は魔物の引き運が強いのです。
ダンジョンに潜る分けでなし、森に入る分けでなし、
ただ平地で薬草採取するだけなのに、必ず魔物に遭遇するんです」
言い終えるとシンシアは俺に視線を転じた。
そう言われても・・・。
仲間達に助けを求めた。
すると仲間達の視線は全て俺に向けられていた。
目色から判断すると、みんな同じ考えのようだ。
まさかな・・・。
取り敢えず過去を振り返ってみた。
あっ、直ぐに思い至った。
何時も何時も魔物に彩られていた。
シンシアが言う。
「ダンは勘が鋭いのでしょう。
的確に来る方向と数を知らせてくれます。
そして得意の弓で半数近くを倒します。
全部ではありませんよ。
必ず女の子達の経験になるように、適度な数を残してくれるのですよ。
表現が間違っているかもしれませんが、敢えて言います。
ダンは誰よりも頼りになる弟分です。
一緒しない分けがないでしょう」
これに仲間達が深く頷いた。
叙爵・陞爵の〆が来た。
お世話になった方への御礼言上だ。
折を見て、ポール細川子爵邸を訪れた。
勿論、手ぶらではない。
実家から送られて来た品々を持参した。
三河大湿原で狩ったミカワワニにミカワサイなどを用いて、
村の職人が工夫した民芸品の数々だ。
それを見てポール殿が目を丸くした。
「これはこれは、大変なものだ。
美しいだけでなく、実用的だ」
「それを聞けば村の者達が喜びます」
「馬車といい、この民芸品といい、ご実家は何を目指しておられるのだ」
「片田舎でひっそりと生きて、しかも余裕のある生活でしょうか」
「なんと贅沢ですな」
月が替わると物事が動き出した。
領軍が領地に向けて進発したのだ。
俺はそれを見送る為に街道に出た。
一行の先触れとして国軍の一個大隊が現れた。
騎馬隊、幌馬車隊、歩兵。
国旗と軍旗を並走させて粛々と進む。
彼等は領軍に随伴し、領地に隣接する新駐屯地に入るそうだ。
次は奴隷の群れ。
大半は用意された幌馬車に乗っていたが、人数が多過ぎて、
屈強そうな大人達は歩かされていた。
俺に気付いた大人が反対側に唾を吐き、ジッと睨みつけて来た。
まあ、そうなるだろう。
代官として任地に赴くカールから事前に聞かされていた。
「奴隷は連座が適用された者達ばかりで、凶悪犯は一人もいません」
連座は犯罪者の家族親族に適用される罪状だ。
「それは助かる。
凶悪犯がいないと扱いが楽だよね」
「そうとばかりは言えません。
連座なので、ほとんどが家族丸ごとです。
子供もいれば、身体の不自由な老人もいる。
なかには乳幼児も」
「あっ、そうか。
連座だから容赦なしか」
「そうです。
余計な費用が嵩むと思われます」
怪我とか病気は雇用主持ちで治さねばならない。
奴隷には奴隷の人権があり、それを怠ると雇用主が罰せられる。
「分かった。
ところでその連座の刑期は長いの」
「長くても十年前後です」
「そうだと子供が不憫だね、・・・んーと。
ねえ、カール、子供達に教育を施す事はできないかい」
「教育ですか」
「領地の多くの村は壊滅したと聞いている。
だったら刑期が終えた彼等を迎え入れて良いんじゃない」
カールは安請け合いはしない。
「それは頭に入れて置きます。
現地での作業の進捗状況次第ですね」
幌馬車から乳幼児らしき泣き声が聞こえて来た。
罪を犯した当人達は、この光景をどう見るのだろう。
後尾は領軍が務めていた。
この領軍は当初、中隊規模であったのが、予想を超えて膨らんだ。
ポール殿とは縁のない貴族の余剰子弟が家臣の余剰子弟を連れて、入隊を望んだからだ。
進発する頃合いには二個中隊に。
それで中隊長のアドルフを大隊長に昇進させた。
この兵力なら大樹海の魔物の間引きも余裕だろう。
嬉しい誤算だ。
最後尾にいた二騎が俺の方へ寄せて来た。
前にいのは代官・カール。
もう一騎はカールの背中に隠れて見えないが、たぶん、副官だろう。
カールが流麗な敬礼をした。
「それでは領地に向かいます。
私がいないからと言って、無茶はしないで下さい」
俺は答礼した。
「勿論だよ。
心配しないで」
カールの背後の顔が見えた。
見知った顔。
獣人・イライザ。
八百屋マルコムの娘のイライザだ。
俺と視線が合うと、しまったと言う表情になった。
俺は声をかけた。
「イライザ、何してるのかな」
カールが場をイライザに譲った。
イライザは諦めたのか、背筋を伸ばして敬礼した。
「はい、カール様の副官に任じられました」
「へえー、・・・成人したの」
「一年前倒しで、成人しました」
周知の慣習なので、批判はできない。
おそらくイライザの気持ちを知っている母・オルガの入れ知恵だろう。
これだけではない。
入隊から副官までもそうだろう。
オルガは細川子爵邸のメイドをしていたので、伝手がある。
ポール殿は関与してなくても、執事を動かせば副官までなら任じられる。
俺は溜息しかでない。
「カールを宜しく頼むね」
「任されました」
屈託のないイライザの表情。
反対にカールは、ヤレヤレ感。
尾張の実家から使者が次々に来た。
「伊勢侵攻の尾張軍が壊滅した。
伯爵様のご子息二人は捕えられた」
「後詰される予定だった伯爵様が取りやめられた。
伊勢方と交渉されるそうだ」
「伊勢方との交渉が進展しない。
このままでは交渉決裂もありうる」
「魔物狩りより街中の仕事と申されていますが、
現に貴女方は魔物を狩っておられる。
そこには如何なる理由が・・・」
「簡単な事です。
女の子達の家庭教師とパーティの警護、
この二つで結構な報酬になるのです。
これは断れません。
そしてもう一つ。
ダンに有ります。
彼は魔物の引き運が強いのです。
ダンジョンに潜る分けでなし、森に入る分けでなし、
ただ平地で薬草採取するだけなのに、必ず魔物に遭遇するんです」
言い終えるとシンシアは俺に視線を転じた。
そう言われても・・・。
仲間達に助けを求めた。
すると仲間達の視線は全て俺に向けられていた。
目色から判断すると、みんな同じ考えのようだ。
まさかな・・・。
取り敢えず過去を振り返ってみた。
あっ、直ぐに思い至った。
何時も何時も魔物に彩られていた。
シンシアが言う。
「ダンは勘が鋭いのでしょう。
的確に来る方向と数を知らせてくれます。
そして得意の弓で半数近くを倒します。
全部ではありませんよ。
必ず女の子達の経験になるように、適度な数を残してくれるのですよ。
表現が間違っているかもしれませんが、敢えて言います。
ダンは誰よりも頼りになる弟分です。
一緒しない分けがないでしょう」
これに仲間達が深く頷いた。
叙爵・陞爵の〆が来た。
お世話になった方への御礼言上だ。
折を見て、ポール細川子爵邸を訪れた。
勿論、手ぶらではない。
実家から送られて来た品々を持参した。
三河大湿原で狩ったミカワワニにミカワサイなどを用いて、
村の職人が工夫した民芸品の数々だ。
それを見てポール殿が目を丸くした。
「これはこれは、大変なものだ。
美しいだけでなく、実用的だ」
「それを聞けば村の者達が喜びます」
「馬車といい、この民芸品といい、ご実家は何を目指しておられるのだ」
「片田舎でひっそりと生きて、しかも余裕のある生活でしょうか」
「なんと贅沢ですな」
月が替わると物事が動き出した。
領軍が領地に向けて進発したのだ。
俺はそれを見送る為に街道に出た。
一行の先触れとして国軍の一個大隊が現れた。
騎馬隊、幌馬車隊、歩兵。
国旗と軍旗を並走させて粛々と進む。
彼等は領軍に随伴し、領地に隣接する新駐屯地に入るそうだ。
次は奴隷の群れ。
大半は用意された幌馬車に乗っていたが、人数が多過ぎて、
屈強そうな大人達は歩かされていた。
俺に気付いた大人が反対側に唾を吐き、ジッと睨みつけて来た。
まあ、そうなるだろう。
代官として任地に赴くカールから事前に聞かされていた。
「奴隷は連座が適用された者達ばかりで、凶悪犯は一人もいません」
連座は犯罪者の家族親族に適用される罪状だ。
「それは助かる。
凶悪犯がいないと扱いが楽だよね」
「そうとばかりは言えません。
連座なので、ほとんどが家族丸ごとです。
子供もいれば、身体の不自由な老人もいる。
なかには乳幼児も」
「あっ、そうか。
連座だから容赦なしか」
「そうです。
余計な費用が嵩むと思われます」
怪我とか病気は雇用主持ちで治さねばならない。
奴隷には奴隷の人権があり、それを怠ると雇用主が罰せられる。
「分かった。
ところでその連座の刑期は長いの」
「長くても十年前後です」
「そうだと子供が不憫だね、・・・んーと。
ねえ、カール、子供達に教育を施す事はできないかい」
「教育ですか」
「領地の多くの村は壊滅したと聞いている。
だったら刑期が終えた彼等を迎え入れて良いんじゃない」
カールは安請け合いはしない。
「それは頭に入れて置きます。
現地での作業の進捗状況次第ですね」
幌馬車から乳幼児らしき泣き声が聞こえて来た。
罪を犯した当人達は、この光景をどう見るのだろう。
後尾は領軍が務めていた。
この領軍は当初、中隊規模であったのが、予想を超えて膨らんだ。
ポール殿とは縁のない貴族の余剰子弟が家臣の余剰子弟を連れて、入隊を望んだからだ。
進発する頃合いには二個中隊に。
それで中隊長のアドルフを大隊長に昇進させた。
この兵力なら大樹海の魔物の間引きも余裕だろう。
嬉しい誤算だ。
最後尾にいた二騎が俺の方へ寄せて来た。
前にいのは代官・カール。
もう一騎はカールの背中に隠れて見えないが、たぶん、副官だろう。
カールが流麗な敬礼をした。
「それでは領地に向かいます。
私がいないからと言って、無茶はしないで下さい」
俺は答礼した。
「勿論だよ。
心配しないで」
カールの背後の顔が見えた。
見知った顔。
獣人・イライザ。
八百屋マルコムの娘のイライザだ。
俺と視線が合うと、しまったと言う表情になった。
俺は声をかけた。
「イライザ、何してるのかな」
カールが場をイライザに譲った。
イライザは諦めたのか、背筋を伸ばして敬礼した。
「はい、カール様の副官に任じられました」
「へえー、・・・成人したの」
「一年前倒しで、成人しました」
周知の慣習なので、批判はできない。
おそらくイライザの気持ちを知っている母・オルガの入れ知恵だろう。
これだけではない。
入隊から副官までもそうだろう。
オルガは細川子爵邸のメイドをしていたので、伝手がある。
ポール殿は関与してなくても、執事を動かせば副官までなら任じられる。
俺は溜息しかでない。
「カールを宜しく頼むね」
「任されました」
屈託のないイライザの表情。
反対にカールは、ヤレヤレ感。
尾張の実家から使者が次々に来た。
「伊勢侵攻の尾張軍が壊滅した。
伯爵様のご子息二人は捕えられた」
「後詰される予定だった伯爵様が取りやめられた。
伊勢方と交渉されるそうだ」
「伊勢方との交渉が進展しない。
このままでは交渉決裂もありうる」