金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)84

2008-12-21 09:57:38 | Weblog
 伊達政宗一行の者達は鎧兜でこそないが、いずれもが戦支度。
弓槍は勿論、鉄砲を担いでいる者もいた。
派手な色彩の身拵えが祭りを思わせるが、緊張感を秘めていた。
 政宗は見物人を意識して退くに退けなかった。
皆の期待が背中にヒタヒタと押し寄せて来るのだ。
 足軽達では埒が明かないので、その後ろの上役に声を掛けた。
「あの岩から鬼斬りを抜けば、殿下もお喜びになられる」
 しかし上役は聞こえぬふり。
伊達家は豊臣政権の一部からは嫌われていた。
「惣無事令を無視」「小田原攻め遅参」そして「葛西大崎一揆の扇動疑惑」と、
疑わしき事が多いからだ。
 「惣無事令」とは豊臣政権が全国に発令した「私戦の禁止」であった。
これを政宗は無視し、豊臣膝下の蘆名氏・二階堂氏を攻め滅ぼし、
奥州にて二百万石近い領土を得たのだ。
 さらに「小田原攻め」においては、武田信玄・上杉謙信も攻め倦んだ小田原城が、
百姓上がりの秀吉に攻め落とせるとは思えなかった。
為に、豊臣家からの参戦の催促に言質を与えず、密かに小田原北条氏と誼を通じ、
奥州を統一しようと図った。
奥州を統一し、小田原と連携して豊臣軍を撃退する心積もりであった。
 政宗が目指したのは南北朝時代の北畠顕家。
奥州の騎馬軍団を率い、途中で立ちはだかる足利尊氏軍を撃破し、
九州まで追い落とした公家武将である。
その為に伊達家の騎馬軍団は調練されていた。
 しかし、秀吉の圧倒的な動員力を聞くや、態度が一変。
ただちに小田原城攻めに駆けつけた。
が、時遅し。戦の持ち場は与えられなかった。
そして遅参を咎められ大半の領土を削られた。
 今回の政宗の上洛は「葛西大崎一揆の扇動疑惑」が原因であった。
一揆軍への武器供与や、一揆軍に伊達家中の者がいる、とかの噂が流れ、
「葛西と大崎の両氏を背後から扇動しているのは伊達家」と見られた。
それが秀吉の耳に入り、一揆鎮圧後ただちに呼び出されたのだ。
 家康等大名の見守る前で詰問されたが、それでも何とか乗り切った。
ただ、奥州にて戦い取った領土はさらに削られ、今や五十八万石。
 そこで政宗は京に滞在を続け、秀吉の機嫌を取り結ぶのに躍起であった。
下手に帰国して再び疑われる愚を避けたのだ。
連日、京の町中を騒がせ、派手好みの秀吉の耳に届くようにと策動していた。
 鬼斬りの刺さった岩は格好の見せ場であった。
大名や公家達もお忍びで見物に来ていたので、確実に秀吉の耳に届く。
そこで強引に群集を押し退け、最前列に出て、見張りの者達と交渉を始めたのだ。
 皆が政宗に注目しているのが分かるだけに、いまさら退けない。
政宗を後押しするかのように、群集から見張りの者達に罵声が飛び交う。
 それでも見張りの者達は所司代の権力を示す為に、頑として譲らない。
政宗を警戒して、休んでいた見張りの者達までが出てきた。
権力と数の力で退かせようというのだ。
 
 政宗は背後の空気が変化するのを感じた。
振り返ると、群集が左右二つに割れ、騎乗の一隊に道を開けた。
先頭の二頭に乗っているのは見知った顔。
 機を見るに敏な政宗は、駆け寄った。
「これは秀家殿、そして豪姫様」
 前田利家が小田原の一件以来なにかと親しくしてくれるので、
その縁で宇喜多家にも出入りしていた。
二人とは歳が近いせいか話が合うのだ。
 秀家が軽く会釈した。
「やはり政宗殿でしたか。声が遠くまで届いておりました」
 豪姫が秀家を見た。
「ねえ、私の申した通りでしたでしょう」
「ほんとにお豪は耳が良い」
「耳だけですか」
 と豪姫は秀家を軽く睨み、政宗に目を向けた。
「この度はとんだことでしたね」
 領地削減の事だ。
「いいえ、身から出た錆びです」
「でも案ずる事はありませんよ。あれは公の裁き」
「・・・」
「私人としての殿下は、貴方を心配しています。身を滅ぼさねばよいが、と」
 秀家が付け足した。
「そのうちに風向きも変わります」
 いつも優しい二人に政宗は心から頭を下げた。
「心配ばかりかけて、済まぬ」
「頭は上げてください。豪放磊落が売りでしょう」
「そうであった」
 と政宗は苦笑い。二人に尋ねた。
「しかし夫婦で鬼斬り見物かね」
 秀家は素直に頷いた。
「そうです。ですが、入れぬ様ですね」
 豪姫も首を傾げた。
「困りましたわね」
 この二人は権力の使い方に不器用なのだ。
そうと見た政宗はドンと胸を叩いた。
「某にお任せあれ」
 踵を返して、見張りの者達の元に引き返した。
「宇喜多秀家様と豪姫様が鬼斬りを見たいと仰せじゃ。直ちに此処を開けい」
 これには見張りの者達も所司代の権力を振り翳せない。
秀吉の猶子・宇喜多秀家と、同じく養女の豪姫が相手なのだ。
間の悪いことに、軽い仕事との考えから、機転の利く者を頭に据えていなかった。
 もたつく見張りの者達を政宗が叱り付けた。
「なにをしておる」
 そして周りの見物衆に紛れている大名達に呼びかけた。
「方々、秀家様と豪姫様の先払いと参りましょう」
 竹矢来を囲む群衆から一斉に鬨の声が上がった。
「おー」
 大名達はお忍びであるため供廻りは少なかったが、好奇心と売名から、
政宗の下に一隊に纏まった。
まるでお祭り前の喧騒。
 政宗が叫んだ。
「方々、ここでの刃物沙汰は厳禁ぞ」
 一同は「おー」と答え、素手で見張りの者達に突進した。
 こうなれば見張りの者達も武士の端くれ。
理由はどうあれ退くわけにはいかない。素手で迎え撃った。
 それを群集がヤンヤの喝采。
お祭りが始まった。拳が突き出され、脚が、身体が、宙を舞う。
そして血と汗と、怒号が飛び交った。 




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もう書くので必死。
最近では、直前でないと手が動きません。
枯れてきたのではありません。
材料が有り過ぎて、纏め切れないのです。
なるべく簡素を心掛けてはいるのですが・・・。
それに時代考証も・・・。
油濃くなったら御免なさい。

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