金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(テニス元年)29

2023-08-20 04:43:10 | Weblog
 俺は死臭や嘔吐の臭いを消す為に窓を全開にした。
冷たい風が頬に当たった。
何てこったい。
全く罪悪感が湧かない。
俺は人の心を失ったのだろうか。
 下から来る複数の乱れた足音から現状を再認識した。
対応を一つでも間違えれば炎上してしまう案件なんだな。
ん、炎上なんだな。
切れ掛かりそうだった演技スキルを継続し、
窓際に立ったままでお偉い方々を出迎えた。
兵士の先導で公的機関の幹部連が入って来た。
カトリーヌ明石少佐と副官、護衛が二名。
名は知らぬが、国軍の大尉と副官、護衛が二名。
こちらも名は知らぬが、奉行所の与力と同心、護衛二名。

 カトリーヌが室内を見回した。
全体を見て取っても表情に変化はない。
死者二名にも納得している風。
彼女が引率した者達を代表して質問した。
「佐藤伯爵殿、これは如何なる事か、説明を求めます」
 俺は冷静に応じた。
「僕はここの伯爵、ホアキン高山伯爵からの召喚状を受け取りました。
それで身の危険を感じ、武装兵を伴って召喚に応じました」
 ダンカンが熟れた動作で召喚状を彼女に差し出した。
カトリーヌは受け取ると、素早く目を通した。
軽く頷き、それを大尉に手渡し、俺に質問した。
「だからといって、あれは何なの」
 彼女は視線を高山伯爵に向けた。

 伯爵は【奴隷の首輪】を装着され、口元喉元は嘔吐まみれ。
疲れ切っている様で、ハーハーヒーヒーと呼吸が荒い。
それでも事態の変化が分かったのか、
縋る様な眼差しを公的機関の面々に向けた。
俺は落ち着いた口調で答えた。
「召喚状の理由が知りたいので、敢えて【奴隷の首輪】を装着しました」
「それで答えは得られたの」
「はい」
「得られた答えを教えて頂けるかしら」
「目下の者に横柄な人物であると分かりました」
「そう、・・・つまりは」
「同格の寄親伯爵を呼び付け、優越感に浸りたかったのでしょう」
「分かりました。
それであの首輪は」

 俺は兵士に、【奴隷の首輪】を外して解放する様に指示した。
外された伯爵は安心したのか、その場に腰を下ろした。
見るからに、衰弱しきったご様子。
すると執事長が解放された伯爵に駆け寄った。
ハンカチで嘔吐を拭う。
でも、そんな小さなハンカチで拭いとるのは無理なんだな。
そこで俺は親切にも、光魔法を起動した。
ラントクリーンで伯爵の汚れを消し去った。
皆の視線が俺に向けられた。
代表してカトリーヌが質問した。
「伯爵、今のは」
「貴族の嗜みです」
「無詠唱ですよね」
「それも貴族の嗜みです」
 何時でも殺せますよ、とは続けない。

 俺は伯爵に通告した。
「高山伯爵、この場を収めるのは貴方です。
自分の非を認めますか」
 高山伯爵は自分の執事長を見上げ、
それから公的機関の方々に視線を転じた。
味方でも探すかの様な目色。
それが無理だとは分からない様子。
俺は分かり易く告げた。
「まず僕への謝罪文を頂きます」
「・・・どう、どうして」
「お分かりの様に近衛軍、国軍、奉行所の方々が来てらっしゃいます。
なのに、何も無いでは方々の出動が無駄足になります。
分かりますよね、無駄足。
貴方の軽率な行動で方々が来られたのです。
無駄足でお帰り願うのは、貴方の爵位では足りません。
せめて公爵であれば、・・・。
よって、上に報告書が必要な案件になったのです」
 全部丸ごと伯爵に押し付けた。

 執事長が伯爵に何事か耳打ちした。
意に反するのか、伯爵の表情が変わった。
それでも執事長は諦めない。
執拗に耳打ちを続けた。
まるで父親と躾される子供。
ついに陥落した。
執事長が俺を見上げた。
「謝罪文で宜しいのですね」
「はい、そうです。
謝罪文は僕宛てにして下さい。
ただ、こちらの方々に提出しますので、
それ相応の書式にしてくださいね。
たぶん、最後は貴族院に回されると思いますので」
 執事長は伯爵と視線を交わし、俺に頷いた。
「承知しました」
 それて終わらせるつもりはない。
「謝罪文一つでは軽すぎるので、これに重みを付け足します」
「重みを、・・・」
 執事長が疑問の目色。
これは伯爵も同様。
いやいや、俺以外の全員がそうだった。
ダンカンにジューン、兵士の皆も。

 俺はカトリーヌを振り向いた。
「謝罪文では軽すぎて鼻息一つで吹き飛びます。
そこで重しを付けます。
賠償金です。
これで事の良し悪しが誰にも分かる筈です」
「事の良し悪しねえ、そうよね」
 カトリーヌだけでなく、その群れの者達も頷いた。
流石は公的機関の方々。
この手の始末の付け方に深い理解がある様だ。

 執事長が伯爵に再び耳打ちした。
他に漏れぬ様に小声で意見を交わし合う。
たぶん、二人の意見は一致しないだろう。
俺は二人に告げた。
「賠償金として伯爵を奴隷に売り払う方法もあるけど、
それだと僕が損をします。
銅貨一枚ですからね」
 受けた。
カトリーヌの群れで失笑が漏れた。
僕は気にせずに続けた。
「もう一つあります。
ここで伯爵の首を落として、伯爵家に買い戻して頂く。
これでも宜しいですよ」

 高山伯爵と執事長が互いに顔を見合わせた。
競う様に口を開いた。
「「賠償金で」」
 俺は二人に指示をした。
「それでは執事長、伯爵様はお疲れの様だから代わりに、
謝罪と賠償を認める公式文書を書いて。
良いよね、高山伯爵。
そうそう、伯爵には最後に署名だけお願い」
 頷く高山伯爵。
問う執事長。
「賠償金の金額は如何ほどですか」
「屋敷の蔵を空にしろなんて無茶は言わないよ。
まず文書がきちんとしているか、それを見てから話し合おう」
 渋々ながら執務デスクに向かう執事長。
俺としては話し合う気は全く無いんだけどね。
それはそうとして、ダンカンに指示した。
「無駄を省きたいから、文書の確認を頼む」
 ダンカンが良い笑顔で頷き、執事長の背後に回った。

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