俺は死臭や嘔吐の臭いを消す為に窓を全開にした。
冷たい風が頬に当たった。
何てこったい。
全く罪悪感が湧かない。
俺は人の心を失ったのだろうか。
下から来る複数の乱れた足音から現状を再認識した。
対応を一つでも間違えれば炎上してしまう案件なんだな。
ん、炎上なんだな。
切れ掛かりそうだった演技スキルを継続し、
窓際に立ったままでお偉い方々を出迎えた。
兵士の先導で公的機関の幹部連が入って来た。
カトリーヌ明石少佐と副官、護衛が二名。
名は知らぬが、国軍の大尉と副官、護衛が二名。
こちらも名は知らぬが、奉行所の与力と同心、護衛二名。
カトリーヌが室内を見回した。
全体を見て取っても表情に変化はない。
死者二名にも納得している風。
彼女が引率した者達を代表して質問した。
「佐藤伯爵殿、これは如何なる事か、説明を求めます」
俺は冷静に応じた。
「僕はここの伯爵、ホアキン高山伯爵からの召喚状を受け取りました。
それで身の危険を感じ、武装兵を伴って召喚に応じました」
ダンカンが熟れた動作で召喚状を彼女に差し出した。
カトリーヌは受け取ると、素早く目を通した。
軽く頷き、それを大尉に手渡し、俺に質問した。
「だからといって、あれは何なの」
彼女は視線を高山伯爵に向けた。
伯爵は【奴隷の首輪】を装着され、口元喉元は嘔吐まみれ。
疲れ切っている様で、ハーハーヒーヒーと呼吸が荒い。
それでも事態の変化が分かったのか、
縋る様な眼差しを公的機関の面々に向けた。
俺は落ち着いた口調で答えた。
「召喚状の理由が知りたいので、敢えて【奴隷の首輪】を装着しました」
「それで答えは得られたの」
「はい」
「得られた答えを教えて頂けるかしら」
「目下の者に横柄な人物であると分かりました」
「そう、・・・つまりは」
「同格の寄親伯爵を呼び付け、優越感に浸りたかったのでしょう」
「分かりました。
それであの首輪は」
俺は兵士に、【奴隷の首輪】を外して解放する様に指示した。
外された伯爵は安心したのか、その場に腰を下ろした。
見るからに、衰弱しきったご様子。
すると執事長が解放された伯爵に駆け寄った。
ハンカチで嘔吐を拭う。
でも、そんな小さなハンカチで拭いとるのは無理なんだな。
そこで俺は親切にも、光魔法を起動した。
ラントクリーンで伯爵の汚れを消し去った。
皆の視線が俺に向けられた。
代表してカトリーヌが質問した。
「伯爵、今のは」
「貴族の嗜みです」
「無詠唱ですよね」
「それも貴族の嗜みです」
何時でも殺せますよ、とは続けない。
俺は伯爵に通告した。
「高山伯爵、この場を収めるのは貴方です。
自分の非を認めますか」
高山伯爵は自分の執事長を見上げ、
それから公的機関の方々に視線を転じた。
味方でも探すかの様な目色。
それが無理だとは分からない様子。
俺は分かり易く告げた。
「まず僕への謝罪文を頂きます」
「・・・どう、どうして」
「お分かりの様に近衛軍、国軍、奉行所の方々が来てらっしゃいます。
なのに、何も無いでは方々の出動が無駄足になります。
分かりますよね、無駄足。
貴方の軽率な行動で方々が来られたのです。
無駄足でお帰り願うのは、貴方の爵位では足りません。
せめて公爵であれば、・・・。
よって、上に報告書が必要な案件になったのです」
全部丸ごと伯爵に押し付けた。
執事長が伯爵に何事か耳打ちした。
意に反するのか、伯爵の表情が変わった。
それでも執事長は諦めない。
執拗に耳打ちを続けた。
まるで父親と躾される子供。
ついに陥落した。
執事長が俺を見上げた。
「謝罪文で宜しいのですね」
「はい、そうです。
謝罪文は僕宛てにして下さい。
ただ、こちらの方々に提出しますので、
それ相応の書式にしてくださいね。
たぶん、最後は貴族院に回されると思いますので」
執事長は伯爵と視線を交わし、俺に頷いた。
「承知しました」
それて終わらせるつもりはない。
「謝罪文一つでは軽すぎるので、これに重みを付け足します」
「重みを、・・・」
執事長が疑問の目色。
これは伯爵も同様。
いやいや、俺以外の全員がそうだった。
ダンカンにジューン、兵士の皆も。
俺はカトリーヌを振り向いた。
「謝罪文では軽すぎて鼻息一つで吹き飛びます。
そこで重しを付けます。
賠償金です。
これで事の良し悪しが誰にも分かる筈です」
「事の良し悪しねえ、そうよね」
カトリーヌだけでなく、その群れの者達も頷いた。
流石は公的機関の方々。
この手の始末の付け方に深い理解がある様だ。
執事長が伯爵に再び耳打ちした。
他に漏れぬ様に小声で意見を交わし合う。
たぶん、二人の意見は一致しないだろう。
俺は二人に告げた。
「賠償金として伯爵を奴隷に売り払う方法もあるけど、
それだと僕が損をします。
銅貨一枚ですからね」
受けた。
カトリーヌの群れで失笑が漏れた。
僕は気にせずに続けた。
「もう一つあります。
ここで伯爵の首を落として、伯爵家に買い戻して頂く。
これでも宜しいですよ」
高山伯爵と執事長が互いに顔を見合わせた。
競う様に口を開いた。
「「賠償金で」」
俺は二人に指示をした。
「それでは執事長、伯爵様はお疲れの様だから代わりに、
謝罪と賠償を認める公式文書を書いて。
良いよね、高山伯爵。
そうそう、伯爵には最後に署名だけお願い」
頷く高山伯爵。
問う執事長。
「賠償金の金額は如何ほどですか」
「屋敷の蔵を空にしろなんて無茶は言わないよ。
まず文書がきちんとしているか、それを見てから話し合おう」
渋々ながら執務デスクに向かう執事長。
俺としては話し合う気は全く無いんだけどね。
それはそうとして、ダンカンに指示した。
「無駄を省きたいから、文書の確認を頼む」
ダンカンが良い笑顔で頷き、執事長の背後に回った。
冷たい風が頬に当たった。
何てこったい。
全く罪悪感が湧かない。
俺は人の心を失ったのだろうか。
下から来る複数の乱れた足音から現状を再認識した。
対応を一つでも間違えれば炎上してしまう案件なんだな。
ん、炎上なんだな。
切れ掛かりそうだった演技スキルを継続し、
窓際に立ったままでお偉い方々を出迎えた。
兵士の先導で公的機関の幹部連が入って来た。
カトリーヌ明石少佐と副官、護衛が二名。
名は知らぬが、国軍の大尉と副官、護衛が二名。
こちらも名は知らぬが、奉行所の与力と同心、護衛二名。
カトリーヌが室内を見回した。
全体を見て取っても表情に変化はない。
死者二名にも納得している風。
彼女が引率した者達を代表して質問した。
「佐藤伯爵殿、これは如何なる事か、説明を求めます」
俺は冷静に応じた。
「僕はここの伯爵、ホアキン高山伯爵からの召喚状を受け取りました。
それで身の危険を感じ、武装兵を伴って召喚に応じました」
ダンカンが熟れた動作で召喚状を彼女に差し出した。
カトリーヌは受け取ると、素早く目を通した。
軽く頷き、それを大尉に手渡し、俺に質問した。
「だからといって、あれは何なの」
彼女は視線を高山伯爵に向けた。
伯爵は【奴隷の首輪】を装着され、口元喉元は嘔吐まみれ。
疲れ切っている様で、ハーハーヒーヒーと呼吸が荒い。
それでも事態の変化が分かったのか、
縋る様な眼差しを公的機関の面々に向けた。
俺は落ち着いた口調で答えた。
「召喚状の理由が知りたいので、敢えて【奴隷の首輪】を装着しました」
「それで答えは得られたの」
「はい」
「得られた答えを教えて頂けるかしら」
「目下の者に横柄な人物であると分かりました」
「そう、・・・つまりは」
「同格の寄親伯爵を呼び付け、優越感に浸りたかったのでしょう」
「分かりました。
それであの首輪は」
俺は兵士に、【奴隷の首輪】を外して解放する様に指示した。
外された伯爵は安心したのか、その場に腰を下ろした。
見るからに、衰弱しきったご様子。
すると執事長が解放された伯爵に駆け寄った。
ハンカチで嘔吐を拭う。
でも、そんな小さなハンカチで拭いとるのは無理なんだな。
そこで俺は親切にも、光魔法を起動した。
ラントクリーンで伯爵の汚れを消し去った。
皆の視線が俺に向けられた。
代表してカトリーヌが質問した。
「伯爵、今のは」
「貴族の嗜みです」
「無詠唱ですよね」
「それも貴族の嗜みです」
何時でも殺せますよ、とは続けない。
俺は伯爵に通告した。
「高山伯爵、この場を収めるのは貴方です。
自分の非を認めますか」
高山伯爵は自分の執事長を見上げ、
それから公的機関の方々に視線を転じた。
味方でも探すかの様な目色。
それが無理だとは分からない様子。
俺は分かり易く告げた。
「まず僕への謝罪文を頂きます」
「・・・どう、どうして」
「お分かりの様に近衛軍、国軍、奉行所の方々が来てらっしゃいます。
なのに、何も無いでは方々の出動が無駄足になります。
分かりますよね、無駄足。
貴方の軽率な行動で方々が来られたのです。
無駄足でお帰り願うのは、貴方の爵位では足りません。
せめて公爵であれば、・・・。
よって、上に報告書が必要な案件になったのです」
全部丸ごと伯爵に押し付けた。
執事長が伯爵に何事か耳打ちした。
意に反するのか、伯爵の表情が変わった。
それでも執事長は諦めない。
執拗に耳打ちを続けた。
まるで父親と躾される子供。
ついに陥落した。
執事長が俺を見上げた。
「謝罪文で宜しいのですね」
「はい、そうです。
謝罪文は僕宛てにして下さい。
ただ、こちらの方々に提出しますので、
それ相応の書式にしてくださいね。
たぶん、最後は貴族院に回されると思いますので」
執事長は伯爵と視線を交わし、俺に頷いた。
「承知しました」
それて終わらせるつもりはない。
「謝罪文一つでは軽すぎるので、これに重みを付け足します」
「重みを、・・・」
執事長が疑問の目色。
これは伯爵も同様。
いやいや、俺以外の全員がそうだった。
ダンカンにジューン、兵士の皆も。
俺はカトリーヌを振り向いた。
「謝罪文では軽すぎて鼻息一つで吹き飛びます。
そこで重しを付けます。
賠償金です。
これで事の良し悪しが誰にも分かる筈です」
「事の良し悪しねえ、そうよね」
カトリーヌだけでなく、その群れの者達も頷いた。
流石は公的機関の方々。
この手の始末の付け方に深い理解がある様だ。
執事長が伯爵に再び耳打ちした。
他に漏れぬ様に小声で意見を交わし合う。
たぶん、二人の意見は一致しないだろう。
俺は二人に告げた。
「賠償金として伯爵を奴隷に売り払う方法もあるけど、
それだと僕が損をします。
銅貨一枚ですからね」
受けた。
カトリーヌの群れで失笑が漏れた。
僕は気にせずに続けた。
「もう一つあります。
ここで伯爵の首を落として、伯爵家に買い戻して頂く。
これでも宜しいですよ」
高山伯爵と執事長が互いに顔を見合わせた。
競う様に口を開いた。
「「賠償金で」」
俺は二人に指示をした。
「それでは執事長、伯爵様はお疲れの様だから代わりに、
謝罪と賠償を認める公式文書を書いて。
良いよね、高山伯爵。
そうそう、伯爵には最後に署名だけお願い」
頷く高山伯爵。
問う執事長。
「賠償金の金額は如何ほどですか」
「屋敷の蔵を空にしろなんて無茶は言わないよ。
まず文書がきちんとしているか、それを見てから話し合おう」
渋々ながら執務デスクに向かう執事長。
俺としては話し合う気は全く無いんだけどね。
それはそうとして、ダンカンに指示した。
「無駄を省きたいから、文書の確認を頼む」
ダンカンが良い笑顔で頷き、執事長の背後に回った。