金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(大乱)234

2021-09-12 09:08:20 | Weblog
 俺は噴水前のテーブルに案内された。
温水の流れを見ると色とりどりの魚が泳いでいた。
まだ煮魚にはなっていない。
よろける様子がないところを見ると、彼等にとっては適温なんだろう。
俺は椅子に腰を下ろした。
けれど案内役のカトリーヌ明石少佐は腰を下ろさない。
「私はここに案内するのが役目ですからね」
 確かにそうだ。
カトリーヌが俺に尋ねた。
「子爵様はコーヒーにしますか」
「飲んで待ってた方がいいのかな」
「たぶん、時間がかかると思います」
「それじゃ、ついでにケーキも」
 カトリーヌ少佐は遠くのカウンターに合図した。
メイドが応じた。
優雅な足取りで、こちらへ注文を取りに来た。

 注文の品が運ばれて来るのに時間は要しない。
メイドが俺の前にコーヒーとケーキを置いた。
コーヒーの香りが鼻を擽った。
良い豆を使用しているようだ。
ケーキはイチゴショート。
ど真ん中にオーガの男性器の筒先大の苺が鎮座していた。
 コーヒーにはミルクと砂糖を多めに入れた。
背後に突っ立っているカトリーヌが心配した。
「ジュースでも良かったのじゃないですか」
「だよね。
でも、王宮の今の豆を知りたくて」
「品質の良い物が納入されているのか、その辺りですか」
「そうだよ。
前と同じ品が納入されてるのなら、問題なしだね」

 俺は最初の一口に挑んだ。
熱いけど甘い、そして奥から旨味。
口内でソッと鑑定した。
産地は琉球オアシス。
反乱軍の支配下にあるオアシス都市から仕入れられていた。
 鑑定精度を上げて、採取された年を調べた。
なんと、去年ではないか。
琉球で採取、薩摩で加工、豊後の商社に卸され、
土佐経由で昨年暮れに王宮に納入された。
 遊び感覚で鑑定して意外な事を教えられた。
戦争と経済は同一歩調で動いているように見えるが、
水面下では利益優先で怪し気に蠢くもの。
権力で制御するには限界がある証だ。

 ケーキを食べていると、周囲に何気に動きが。
近衛軍の女性騎士達が複数が入って来て、店内の客達に耳打ち、
「王妃様がご来店なさいます。
皆様には申し訳御座いませんが、直ちにご退店をお願い致します。
御会計は私共が行いますので、急いで下さい」促して行く。
 拒む者は存在しない。
 
 予想していたようにベティ様が現れた。
近衛軍の女性騎士複数を従えていた。
俺はカトリーヌに確認した。
「女性騎士を増やしたの」
「そうです。
王妃様と王女様を守る為に増員しました。
当然、精鋭です」
 平民の女子も含まれていると言う意味だろう。
俺をそれを鑑定で確認はしない。
何しろ王妃様は鑑定スキル持ち。
俺よりランクが低いので見抜けないが、
万が一、ランクアップしていたら拙いので安全策を講じた。

 俺は王妃様を迎える為に立ち上がった。
臣下として跪こうとしたが、それは王妃様に手で制された。
「固い固い、省略しなさい」
 カトリーヌが引いた椅子に王妃様が腰を下ろされた。
そして手を伸ばされ、俺が残していたケーキの苺を摘ままれた。
「嫌いなら私が食べるわね」
 返事も聞かずに笑顔で口にされた。
俺は返す言葉がなかった。
呆然としていると、王妃様に手で椅子を指し示された。
「さあ、腰掛けなさい。
突っ立ったままじゃ話がし難いでしょう」
 カトリーヌが声を上げずに笑っていた。
俺が元の椅子に腰を下ろすと、そのカトリーヌがカウンターに合図した。
事前に通達されていたのか、何時もの事なのか、
素早く物が運ばれて来た。
王妃様には紅茶とチーズケーキ。
俺にはオレンチジュースとイチゴショートケーキ。

 紅茶を口にしながら王妃様が俺に質問された。
「この冬は木曽に戻ったそうね。
現状はどうなってるのかしら」
 気軽な口調で質問が重ねられた。
再開発中の木曽の様子。
隣接する地に創建される神社の進捗状況。
同じく国軍駐屯地の規模と訓練具合。
それに丁寧に答えて行くと王妃様は満足の笑みを浮かべられた。
「支障なく進められているようね」
 実際にそうだけど。

 王妃様が話題を替えられた。
「ところでセリナ松平の件では世話になったわね」
 三河から脱出して来た松平伯爵家の娘の名が出た。
「たいした事はしていません。
お伺いします。
関東反乱の噂を聞きませんが、どうなっているのですか」
「近衛の密偵、国軍からは斥候を出して確認させているわ。
今はその報告を待っているのよ。
分かり次第、当然、何らかの手を打つわ」
 動いてはいた。
「それで大丈夫なのですか」
「大丈夫よ」
 王妃様が不敵な笑みを浮かべて説明してくれた。
この時期の北陸道は降雪と凍結で軍勢が通れ難い。
東海道は季節を問わず、木曽の大樹海で通れない。
二つの理由から春になるまで関東の反乱軍は動きようがない。
その前に西を片付ける、そう断言された。

 俺は前から気になっていた事を告げた。
「関東訛りの連中が集団で、スラムに住み着いているようですが、
そちらは耳にされていますか」
 王妃様も驚いたが、それ以上にカトリーヌ少佐が喰いついて来た。
「本当か、それは本当か、信用せぬ訳ではないが・・・」
「国都を発つ前にそう言う噂を聞きました。
その時はそれほど重大には思わなかったのですが、今となると、
本当であれば、繋がっているとしか思えません」
 カトリーヌ少佐が王妃様に進言した。
「流民かも知れませんが、調べてみる必要があります。
直ちに御下命を」
「そうよね。
ただの流民であれば良し、違っていたら大変。
奉行所から、それらしい報告が上がっているかどうか調べて、
上がっていなかったら奉行所の内偵も必要ね。
・・・。
近衛のみで調べて貰いたいけど、人手は足りてるの」
 カトリーヌ少佐の顔が曇った。
「万全とは申せません。
密偵方の熟練した者達は西と東に派遣しました。
残りは些か劣ります。
それでも何もせぬよりは・・・」
 俺は口出しした。
「宜しいですか」
 二人の目が俺に向けられた。
「何か手があるのかしら」王妃様。
「近衛はスラムの悪党に手蔓はないのですか」
 ハッとした表情のカトリーヌ少佐。
「そうか、スラムにはスラムの悪党ね。
心当たりがあります、王妃様。
私に任せて頂けますか」

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