俺は噴水前のテーブルに案内された。
温水の流れを見ると色とりどりの魚が泳いでいた。
まだ煮魚にはなっていない。
よろける様子がないところを見ると、彼等にとっては適温なんだろう。
俺は椅子に腰を下ろした。
けれど案内役のカトリーヌ明石少佐は腰を下ろさない。
「私はここに案内するのが役目ですからね」
確かにそうだ。
カトリーヌが俺に尋ねた。
「子爵様はコーヒーにしますか」
「飲んで待ってた方がいいのかな」
「たぶん、時間がかかると思います」
「それじゃ、ついでにケーキも」
カトリーヌ少佐は遠くのカウンターに合図した。
メイドが応じた。
優雅な足取りで、こちらへ注文を取りに来た。
注文の品が運ばれて来るのに時間は要しない。
メイドが俺の前にコーヒーとケーキを置いた。
コーヒーの香りが鼻を擽った。
良い豆を使用しているようだ。
ケーキはイチゴショート。
ど真ん中にオーガの男性器の筒先大の苺が鎮座していた。
コーヒーにはミルクと砂糖を多めに入れた。
背後に突っ立っているカトリーヌが心配した。
「ジュースでも良かったのじゃないですか」
「だよね。
でも、王宮の今の豆を知りたくて」
「品質の良い物が納入されているのか、その辺りですか」
「そうだよ。
前と同じ品が納入されてるのなら、問題なしだね」
俺は最初の一口に挑んだ。
熱いけど甘い、そして奥から旨味。
口内でソッと鑑定した。
産地は琉球オアシス。
反乱軍の支配下にあるオアシス都市から仕入れられていた。
鑑定精度を上げて、採取された年を調べた。
なんと、去年ではないか。
琉球で採取、薩摩で加工、豊後の商社に卸され、
土佐経由で昨年暮れに王宮に納入された。
遊び感覚で鑑定して意外な事を教えられた。
戦争と経済は同一歩調で動いているように見えるが、
水面下では利益優先で怪し気に蠢くもの。
権力で制御するには限界がある証だ。
ケーキを食べていると、周囲に何気に動きが。
近衛軍の女性騎士達が複数が入って来て、店内の客達に耳打ち、
「王妃様がご来店なさいます。
皆様には申し訳御座いませんが、直ちにご退店をお願い致します。
御会計は私共が行いますので、急いで下さい」促して行く。
拒む者は存在しない。
予想していたようにベティ様が現れた。
近衛軍の女性騎士複数を従えていた。
俺はカトリーヌに確認した。
「女性騎士を増やしたの」
「そうです。
王妃様と王女様を守る為に増員しました。
当然、精鋭です」
平民の女子も含まれていると言う意味だろう。
俺をそれを鑑定で確認はしない。
何しろ王妃様は鑑定スキル持ち。
俺よりランクが低いので見抜けないが、
万が一、ランクアップしていたら拙いので安全策を講じた。
俺は王妃様を迎える為に立ち上がった。
臣下として跪こうとしたが、それは王妃様に手で制された。
「固い固い、省略しなさい」
カトリーヌが引いた椅子に王妃様が腰を下ろされた。
そして手を伸ばされ、俺が残していたケーキの苺を摘ままれた。
「嫌いなら私が食べるわね」
返事も聞かずに笑顔で口にされた。
俺は返す言葉がなかった。
呆然としていると、王妃様に手で椅子を指し示された。
「さあ、腰掛けなさい。
突っ立ったままじゃ話がし難いでしょう」
カトリーヌが声を上げずに笑っていた。
俺が元の椅子に腰を下ろすと、そのカトリーヌがカウンターに合図した。
事前に通達されていたのか、何時もの事なのか、
素早く物が運ばれて来た。
王妃様には紅茶とチーズケーキ。
俺にはオレンチジュースとイチゴショートケーキ。
紅茶を口にしながら王妃様が俺に質問された。
「この冬は木曽に戻ったそうね。
現状はどうなってるのかしら」
気軽な口調で質問が重ねられた。
再開発中の木曽の様子。
隣接する地に創建される神社の進捗状況。
同じく国軍駐屯地の規模と訓練具合。
それに丁寧に答えて行くと王妃様は満足の笑みを浮かべられた。
「支障なく進められているようね」
実際にそうだけど。
王妃様が話題を替えられた。
「ところでセリナ松平の件では世話になったわね」
三河から脱出して来た松平伯爵家の娘の名が出た。
「たいした事はしていません。
お伺いします。
関東反乱の噂を聞きませんが、どうなっているのですか」
「近衛の密偵、国軍からは斥候を出して確認させているわ。
今はその報告を待っているのよ。
分かり次第、当然、何らかの手を打つわ」
動いてはいた。
「それで大丈夫なのですか」
「大丈夫よ」
王妃様が不敵な笑みを浮かべて説明してくれた。
この時期の北陸道は降雪と凍結で軍勢が通れ難い。
東海道は季節を問わず、木曽の大樹海で通れない。
二つの理由から春になるまで関東の反乱軍は動きようがない。
その前に西を片付ける、そう断言された。
俺は前から気になっていた事を告げた。
「関東訛りの連中が集団で、スラムに住み着いているようですが、
そちらは耳にされていますか」
王妃様も驚いたが、それ以上にカトリーヌ少佐が喰いついて来た。
「本当か、それは本当か、信用せぬ訳ではないが・・・」
「国都を発つ前にそう言う噂を聞きました。
その時はそれほど重大には思わなかったのですが、今となると、
本当であれば、繋がっているとしか思えません」
カトリーヌ少佐が王妃様に進言した。
「流民かも知れませんが、調べてみる必要があります。
直ちに御下命を」
「そうよね。
ただの流民であれば良し、違っていたら大変。
奉行所から、それらしい報告が上がっているかどうか調べて、
上がっていなかったら奉行所の内偵も必要ね。
・・・。
近衛のみで調べて貰いたいけど、人手は足りてるの」
カトリーヌ少佐の顔が曇った。
「万全とは申せません。
密偵方の熟練した者達は西と東に派遣しました。
残りは些か劣ります。
それでも何もせぬよりは・・・」
俺は口出しした。
「宜しいですか」
二人の目が俺に向けられた。
「何か手があるのかしら」王妃様。
「近衛はスラムの悪党に手蔓はないのですか」
ハッとした表情のカトリーヌ少佐。
「そうか、スラムにはスラムの悪党ね。
心当たりがあります、王妃様。
私に任せて頂けますか」
温水の流れを見ると色とりどりの魚が泳いでいた。
まだ煮魚にはなっていない。
よろける様子がないところを見ると、彼等にとっては適温なんだろう。
俺は椅子に腰を下ろした。
けれど案内役のカトリーヌ明石少佐は腰を下ろさない。
「私はここに案内するのが役目ですからね」
確かにそうだ。
カトリーヌが俺に尋ねた。
「子爵様はコーヒーにしますか」
「飲んで待ってた方がいいのかな」
「たぶん、時間がかかると思います」
「それじゃ、ついでにケーキも」
カトリーヌ少佐は遠くのカウンターに合図した。
メイドが応じた。
優雅な足取りで、こちらへ注文を取りに来た。
注文の品が運ばれて来るのに時間は要しない。
メイドが俺の前にコーヒーとケーキを置いた。
コーヒーの香りが鼻を擽った。
良い豆を使用しているようだ。
ケーキはイチゴショート。
ど真ん中にオーガの男性器の筒先大の苺が鎮座していた。
コーヒーにはミルクと砂糖を多めに入れた。
背後に突っ立っているカトリーヌが心配した。
「ジュースでも良かったのじゃないですか」
「だよね。
でも、王宮の今の豆を知りたくて」
「品質の良い物が納入されているのか、その辺りですか」
「そうだよ。
前と同じ品が納入されてるのなら、問題なしだね」
俺は最初の一口に挑んだ。
熱いけど甘い、そして奥から旨味。
口内でソッと鑑定した。
産地は琉球オアシス。
反乱軍の支配下にあるオアシス都市から仕入れられていた。
鑑定精度を上げて、採取された年を調べた。
なんと、去年ではないか。
琉球で採取、薩摩で加工、豊後の商社に卸され、
土佐経由で昨年暮れに王宮に納入された。
遊び感覚で鑑定して意外な事を教えられた。
戦争と経済は同一歩調で動いているように見えるが、
水面下では利益優先で怪し気に蠢くもの。
権力で制御するには限界がある証だ。
ケーキを食べていると、周囲に何気に動きが。
近衛軍の女性騎士達が複数が入って来て、店内の客達に耳打ち、
「王妃様がご来店なさいます。
皆様には申し訳御座いませんが、直ちにご退店をお願い致します。
御会計は私共が行いますので、急いで下さい」促して行く。
拒む者は存在しない。
予想していたようにベティ様が現れた。
近衛軍の女性騎士複数を従えていた。
俺はカトリーヌに確認した。
「女性騎士を増やしたの」
「そうです。
王妃様と王女様を守る為に増員しました。
当然、精鋭です」
平民の女子も含まれていると言う意味だろう。
俺をそれを鑑定で確認はしない。
何しろ王妃様は鑑定スキル持ち。
俺よりランクが低いので見抜けないが、
万が一、ランクアップしていたら拙いので安全策を講じた。
俺は王妃様を迎える為に立ち上がった。
臣下として跪こうとしたが、それは王妃様に手で制された。
「固い固い、省略しなさい」
カトリーヌが引いた椅子に王妃様が腰を下ろされた。
そして手を伸ばされ、俺が残していたケーキの苺を摘ままれた。
「嫌いなら私が食べるわね」
返事も聞かずに笑顔で口にされた。
俺は返す言葉がなかった。
呆然としていると、王妃様に手で椅子を指し示された。
「さあ、腰掛けなさい。
突っ立ったままじゃ話がし難いでしょう」
カトリーヌが声を上げずに笑っていた。
俺が元の椅子に腰を下ろすと、そのカトリーヌがカウンターに合図した。
事前に通達されていたのか、何時もの事なのか、
素早く物が運ばれて来た。
王妃様には紅茶とチーズケーキ。
俺にはオレンチジュースとイチゴショートケーキ。
紅茶を口にしながら王妃様が俺に質問された。
「この冬は木曽に戻ったそうね。
現状はどうなってるのかしら」
気軽な口調で質問が重ねられた。
再開発中の木曽の様子。
隣接する地に創建される神社の進捗状況。
同じく国軍駐屯地の規模と訓練具合。
それに丁寧に答えて行くと王妃様は満足の笑みを浮かべられた。
「支障なく進められているようね」
実際にそうだけど。
王妃様が話題を替えられた。
「ところでセリナ松平の件では世話になったわね」
三河から脱出して来た松平伯爵家の娘の名が出た。
「たいした事はしていません。
お伺いします。
関東反乱の噂を聞きませんが、どうなっているのですか」
「近衛の密偵、国軍からは斥候を出して確認させているわ。
今はその報告を待っているのよ。
分かり次第、当然、何らかの手を打つわ」
動いてはいた。
「それで大丈夫なのですか」
「大丈夫よ」
王妃様が不敵な笑みを浮かべて説明してくれた。
この時期の北陸道は降雪と凍結で軍勢が通れ難い。
東海道は季節を問わず、木曽の大樹海で通れない。
二つの理由から春になるまで関東の反乱軍は動きようがない。
その前に西を片付ける、そう断言された。
俺は前から気になっていた事を告げた。
「関東訛りの連中が集団で、スラムに住み着いているようですが、
そちらは耳にされていますか」
王妃様も驚いたが、それ以上にカトリーヌ少佐が喰いついて来た。
「本当か、それは本当か、信用せぬ訳ではないが・・・」
「国都を発つ前にそう言う噂を聞きました。
その時はそれほど重大には思わなかったのですが、今となると、
本当であれば、繋がっているとしか思えません」
カトリーヌ少佐が王妃様に進言した。
「流民かも知れませんが、調べてみる必要があります。
直ちに御下命を」
「そうよね。
ただの流民であれば良し、違っていたら大変。
奉行所から、それらしい報告が上がっているかどうか調べて、
上がっていなかったら奉行所の内偵も必要ね。
・・・。
近衛のみで調べて貰いたいけど、人手は足りてるの」
カトリーヌ少佐の顔が曇った。
「万全とは申せません。
密偵方の熟練した者達は西と東に派遣しました。
残りは些か劣ります。
それでも何もせぬよりは・・・」
俺は口出しした。
「宜しいですか」
二人の目が俺に向けられた。
「何か手があるのかしら」王妃様。
「近衛はスラムの悪党に手蔓はないのですか」
ハッとした表情のカトリーヌ少佐。
「そうか、スラムにはスラムの悪党ね。
心当たりがあります、王妃様。
私に任せて頂けますか」