試合に勝ったシェリルが俺に気付いた。
悪い笑顔で俺を手招きした。
次の相手に所望らしい。
俺は逆にシェリルを手招きした。
隣の椅子を指し示した。
不満顔のシェリル、それでも渋々、コートを後にした。
全身汗まみれのシェリル。
手で汗を拭きながら口を尖らした。
「どうして断るの」
「順番待ちがいるんだから、その下級生に譲ろうよ。
シェリルは上級生だろう」
苦笑いの守役・ボニーから差し出されたタオルで汗を拭きながら、
「全く・・・、優等生なんだから。
糞真面目。
もっと気楽にねっ」と言い返した。
「風邪ひくよ、着替えたら」
「分かったわ」
控室で着替え終えたシェリルが戻って来た。
先程の好戦的な態度は消え、普通の女の子になっていた。
隣の椅子に腰を下ろした。
「ねえダン、アルファ商会は明後日開店でしょう。
その前に見学したいんだけど」
学校祭は明日まで。
アルファ商会のテニスショップオープンは明後日。
この学校祭でテニスの話題を盛り上げ、
ショップオープンに雪崩れ込む予定でいた。
ただし倉庫のリフォームが終わっていないので、
同じ敷地内の仮店舗での営業とした。
「仮店舗だから狭いよ」
「良いの、自分達の店だから見てみたいの」
気持ちは分かる。
商会の立ち上げ資金は皆で出し合った。
俺、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、シンシア、ルース、
シビル、この九人が株主。
持ち分は俺が二割で、他の八人は一割。
商会の口座に入金した1億ドロンは俺からの貸付金。
返済期限のない貸付金。
赤字先行だけど先行きは明るい、たぶん。
「今日は明日のプレオープンの準備中だよ。
それの邪魔にならないように。
仮にも侯爵家のお嬢なんだ、それを忘れないでくれよ」
大人達の邪魔になりそうなので俺は顔出しを控え、
シンシア達に一切を任せた。
そこにシェリルが行くと言う。
まあ、気の良い性格から問題は起こさないだろう。
守役も付いてるし。
俺はシェリルの相手をしつつ、大講堂全体を見回した。
入りは、選手の安全性を考慮して立ち見限定だが、
満席と言っても差し支えないだろう。
尚且つ、入学式や卒業式に比べると熱量が違う。
熱い熱いアチッチ。
物珍しさもあるのだろうが、皆が見入っていた。
ああ、これは売れる、増産の指示をしなくては。
そんな中、天井付近をアリスとハッピーが周回していた。
プレイ中の魔法使用を感知する機器に触れぬよう、
細心の注意を払っての飛行。
へえ、ハッピーはさておき、アリスがそれに引っ掛からぬとは解せぬ。
魔法で透明化していたが、魔波はガンガン。
俺にも念話を飛ばして来た。
『ダン、これ面白そう』
『パー、遣りたい遣りたいっぺー』
妖精のサイズに合わせるのか、大変だ。
それでも仕方がないので俺は承諾した。
『分かった。
直ぐには無理だけど、なるべく早めに作るよ』
『どうして直ぐじゃないの』
『ピー、抗議する抗議するの~』
俺は子供だけど、大人世界の事情を話した。
『伯爵になったから引っ越しするんだ。
家来が多くなるし、寄子貴族の宿舎も必要になる。
それに寄親伯爵としての体裁もあるから、今の倍位の大きさだよ』
宮廷からの拝領という形になるが、今回は選べた。
幸い近場にあった。
ただ今、商会長としてだけでなく、貴族としてもリフォーム塗れ。
絶賛、【佐藤伯爵家のリフォーム月間】。
ああ、我が家のお金にはお羽根が生えたらしい。
次々に飛び立って行く。
国都の経済を回していると言っても過言ではないだろう。
『私、聞いてないわよ』
『プー、ぷっぷー』
『今話した。
そこで新しい屋敷のリフォームを終えたら引っ越しして、
陞爵祝いのパーティーしなくちゃならない。
それで色々と忙しくなるんだ。
先に話した商会も発足したばかりで、そちらの面倒もね』
『分からないけど、分かったわ』
『ペー、ペッペー』
気付くと俺に来客。
「手が空いたので参りました」
臨時職員のトランス・アリが来た。
怪訝な表情を浮かべていた。
耳目を引きたくないので、空いていた椅子を指し示した。
「あれを隣に持って来て、座ってくれ」
伯爵と言えど所詮は子供。
それでもトランスは嫌な顔はしない。
「はい」
椅子を持って来て、隣に腰を下ろした。
「トランス、この仕事は冒険者ギルドの依頼かい」
「はい、そうです」
「明日までだけど、次の仕事は」
増々怪訝なトランス。
「まだ決めていません。
ギルドの支払いが済んでから見つけようかと」
「それじぁ、僕が君に指名依頼を出す。
受けてくれるかい」
「伯爵様が私にですか」
全く付き合いのなかった者からの依頼予定。
トランスは即答しないで考え込む。
俺はトランスに説明した。
「ねえトランス、よく聞いて欲しい。
君は今回、学校の臨時職員だけど、派遣するギルドも、
受け入れる学校も適当な人選はしない、それは知ってるだろう。
これまでの仕事振りを調べてから派遣するし、
身元を確認してから受け入れる。
その双方に認められたということは、君は選ばれたという事だ。
だから僕は安心して君に依頼が出来る。
たぶんだが、君はCクラスの冒険者で、この学校の卒業生だろう」
詳細に鑑定したので間違いはない。
トランスが目を見開いた。
ジッと俺を見詰めた。
「そういう事ですか」
敢えて、鑑定したのかとは聞かない。
出来る冒険者だ。
「そうだよ」
「分かりました」
トランスが仕事に戻ると、傍で聞いていたテリーが俺を見た。
「あれは出来る奴だよ」
「知ってるんですか」
「俺は担任ではなかったが、面白いスキルの持ち主だったのは知ってる。
それが冒険者になってたとはな。
どこかで道を踏み誤ったようだが、卿、良い奴を見つけたな」
シェリルが口を挟んだ。
「もしかして商会の仕事」
「そうだよ。
伯爵家も商会も人手不足。
代官や執事、それにシンシア達が人集めに奔走しているけど、
僕も少しは貢献しないとね」
すると守役のボニーに尋ねられた。
「ダン様、商会は大きくなると見ても宜しいですよね」
「ボールの種類を増やせば、その数だけ競技も増える。
剣士の競技、槍士の競技、魔法使いの競技という風にね」
「当家からも、いいえ、お嬢様の方からも人を入れても構いませんか」
「もしかしてシェリル個人の財布を大きくしようと」
「それは、あからさま過ぎますよ」
シェリルは長女だが、上に嫡男がいるので身分的にはその控え。
当人の志望は騎士なので、控えのまま騎士を目指していた。
ただし、当人としては侯爵家の騎士団ではなく、近衛を。
女性騎士隊を率いるカトリーヌ明石少佐を知ってからは、
その想いが増々強まった様に感じられた。
だけどボニーはそれとは別の考えらしい。
守役としては夢ではなく、現実に即した考えにならざるを得ないのだろう。
悪い笑顔で俺を手招きした。
次の相手に所望らしい。
俺は逆にシェリルを手招きした。
隣の椅子を指し示した。
不満顔のシェリル、それでも渋々、コートを後にした。
全身汗まみれのシェリル。
手で汗を拭きながら口を尖らした。
「どうして断るの」
「順番待ちがいるんだから、その下級生に譲ろうよ。
シェリルは上級生だろう」
苦笑いの守役・ボニーから差し出されたタオルで汗を拭きながら、
「全く・・・、優等生なんだから。
糞真面目。
もっと気楽にねっ」と言い返した。
「風邪ひくよ、着替えたら」
「分かったわ」
控室で着替え終えたシェリルが戻って来た。
先程の好戦的な態度は消え、普通の女の子になっていた。
隣の椅子に腰を下ろした。
「ねえダン、アルファ商会は明後日開店でしょう。
その前に見学したいんだけど」
学校祭は明日まで。
アルファ商会のテニスショップオープンは明後日。
この学校祭でテニスの話題を盛り上げ、
ショップオープンに雪崩れ込む予定でいた。
ただし倉庫のリフォームが終わっていないので、
同じ敷地内の仮店舗での営業とした。
「仮店舗だから狭いよ」
「良いの、自分達の店だから見てみたいの」
気持ちは分かる。
商会の立ち上げ資金は皆で出し合った。
俺、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、シンシア、ルース、
シビル、この九人が株主。
持ち分は俺が二割で、他の八人は一割。
商会の口座に入金した1億ドロンは俺からの貸付金。
返済期限のない貸付金。
赤字先行だけど先行きは明るい、たぶん。
「今日は明日のプレオープンの準備中だよ。
それの邪魔にならないように。
仮にも侯爵家のお嬢なんだ、それを忘れないでくれよ」
大人達の邪魔になりそうなので俺は顔出しを控え、
シンシア達に一切を任せた。
そこにシェリルが行くと言う。
まあ、気の良い性格から問題は起こさないだろう。
守役も付いてるし。
俺はシェリルの相手をしつつ、大講堂全体を見回した。
入りは、選手の安全性を考慮して立ち見限定だが、
満席と言っても差し支えないだろう。
尚且つ、入学式や卒業式に比べると熱量が違う。
熱い熱いアチッチ。
物珍しさもあるのだろうが、皆が見入っていた。
ああ、これは売れる、増産の指示をしなくては。
そんな中、天井付近をアリスとハッピーが周回していた。
プレイ中の魔法使用を感知する機器に触れぬよう、
細心の注意を払っての飛行。
へえ、ハッピーはさておき、アリスがそれに引っ掛からぬとは解せぬ。
魔法で透明化していたが、魔波はガンガン。
俺にも念話を飛ばして来た。
『ダン、これ面白そう』
『パー、遣りたい遣りたいっぺー』
妖精のサイズに合わせるのか、大変だ。
それでも仕方がないので俺は承諾した。
『分かった。
直ぐには無理だけど、なるべく早めに作るよ』
『どうして直ぐじゃないの』
『ピー、抗議する抗議するの~』
俺は子供だけど、大人世界の事情を話した。
『伯爵になったから引っ越しするんだ。
家来が多くなるし、寄子貴族の宿舎も必要になる。
それに寄親伯爵としての体裁もあるから、今の倍位の大きさだよ』
宮廷からの拝領という形になるが、今回は選べた。
幸い近場にあった。
ただ今、商会長としてだけでなく、貴族としてもリフォーム塗れ。
絶賛、【佐藤伯爵家のリフォーム月間】。
ああ、我が家のお金にはお羽根が生えたらしい。
次々に飛び立って行く。
国都の経済を回していると言っても過言ではないだろう。
『私、聞いてないわよ』
『プー、ぷっぷー』
『今話した。
そこで新しい屋敷のリフォームを終えたら引っ越しして、
陞爵祝いのパーティーしなくちゃならない。
それで色々と忙しくなるんだ。
先に話した商会も発足したばかりで、そちらの面倒もね』
『分からないけど、分かったわ』
『ペー、ペッペー』
気付くと俺に来客。
「手が空いたので参りました」
臨時職員のトランス・アリが来た。
怪訝な表情を浮かべていた。
耳目を引きたくないので、空いていた椅子を指し示した。
「あれを隣に持って来て、座ってくれ」
伯爵と言えど所詮は子供。
それでもトランスは嫌な顔はしない。
「はい」
椅子を持って来て、隣に腰を下ろした。
「トランス、この仕事は冒険者ギルドの依頼かい」
「はい、そうです」
「明日までだけど、次の仕事は」
増々怪訝なトランス。
「まだ決めていません。
ギルドの支払いが済んでから見つけようかと」
「それじぁ、僕が君に指名依頼を出す。
受けてくれるかい」
「伯爵様が私にですか」
全く付き合いのなかった者からの依頼予定。
トランスは即答しないで考え込む。
俺はトランスに説明した。
「ねえトランス、よく聞いて欲しい。
君は今回、学校の臨時職員だけど、派遣するギルドも、
受け入れる学校も適当な人選はしない、それは知ってるだろう。
これまでの仕事振りを調べてから派遣するし、
身元を確認してから受け入れる。
その双方に認められたということは、君は選ばれたという事だ。
だから僕は安心して君に依頼が出来る。
たぶんだが、君はCクラスの冒険者で、この学校の卒業生だろう」
詳細に鑑定したので間違いはない。
トランスが目を見開いた。
ジッと俺を見詰めた。
「そういう事ですか」
敢えて、鑑定したのかとは聞かない。
出来る冒険者だ。
「そうだよ」
「分かりました」
トランスが仕事に戻ると、傍で聞いていたテリーが俺を見た。
「あれは出来る奴だよ」
「知ってるんですか」
「俺は担任ではなかったが、面白いスキルの持ち主だったのは知ってる。
それが冒険者になってたとはな。
どこかで道を踏み誤ったようだが、卿、良い奴を見つけたな」
シェリルが口を挟んだ。
「もしかして商会の仕事」
「そうだよ。
伯爵家も商会も人手不足。
代官や執事、それにシンシア達が人集めに奔走しているけど、
僕も少しは貢献しないとね」
すると守役のボニーに尋ねられた。
「ダン様、商会は大きくなると見ても宜しいですよね」
「ボールの種類を増やせば、その数だけ競技も増える。
剣士の競技、槍士の競技、魔法使いの競技という風にね」
「当家からも、いいえ、お嬢様の方からも人を入れても構いませんか」
「もしかしてシェリル個人の財布を大きくしようと」
「それは、あからさま過ぎますよ」
シェリルは長女だが、上に嫡男がいるので身分的にはその控え。
当人の志望は騎士なので、控えのまま騎士を目指していた。
ただし、当人としては侯爵家の騎士団ではなく、近衛を。
女性騎士隊を率いるカトリーヌ明石少佐を知ってからは、
その想いが増々強まった様に感じられた。
だけどボニーはそれとは別の考えらしい。
守役としては夢ではなく、現実に即した考えにならざるを得ないのだろう。