金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(テニス元年)5

2023-03-05 08:13:05 | Weblog
 試合に勝ったシェリルが俺に気付いた。
悪い笑顔で俺を手招きした。
次の相手に所望らしい。
俺は逆にシェリルを手招きした。
隣の椅子を指し示した。
不満顔のシェリル、それでも渋々、コートを後にした。
全身汗まみれのシェリル。
手で汗を拭きながら口を尖らした。
「どうして断るの」
「順番待ちがいるんだから、その下級生に譲ろうよ。
シェリルは上級生だろう」
 苦笑いの守役・ボニーから差し出されたタオルで汗を拭きながら、
「全く・・・、優等生なんだから。
糞真面目。
もっと気楽にねっ」と言い返した。
「風邪ひくよ、着替えたら」
「分かったわ」

 控室で着替え終えたシェリルが戻って来た。
先程の好戦的な態度は消え、普通の女の子になっていた。
隣の椅子に腰を下ろした。
「ねえダン、アルファ商会は明後日開店でしょう。
その前に見学したいんだけど」
 学校祭は明日まで。
アルファ商会のテニスショップオープンは明後日。
この学校祭でテニスの話題を盛り上げ、
ショップオープンに雪崩れ込む予定でいた。
ただし倉庫のリフォームが終わっていないので、
同じ敷地内の仮店舗での営業とした。
「仮店舗だから狭いよ」
「良いの、自分達の店だから見てみたいの」
 気持ちは分かる。
商会の立ち上げ資金は皆で出し合った。
俺、キャロル、マーリン、モニカ、シェリル、ボニー、シンシア、ルース、
シビル、この九人が株主。
持ち分は俺が二割で、他の八人は一割。
商会の口座に入金した1億ドロンは俺からの貸付金。
返済期限のない貸付金。
赤字先行だけど先行きは明るい、たぶん。
「今日は明日のプレオープンの準備中だよ。
それの邪魔にならないように。
仮にも侯爵家のお嬢なんだ、それを忘れないでくれよ」
 大人達の邪魔になりそうなので俺は顔出しを控え、
シンシア達に一切を任せた。
そこにシェリルが行くと言う。
まあ、気の良い性格から問題は起こさないだろう。
守役も付いてるし。

 俺はシェリルの相手をしつつ、大講堂全体を見回した。
入りは、選手の安全性を考慮して立ち見限定だが、
満席と言っても差し支えないだろう。
尚且つ、入学式や卒業式に比べると熱量が違う。
熱い熱いアチッチ。
物珍しさもあるのだろうが、皆が見入っていた。
ああ、これは売れる、増産の指示をしなくては。

 そんな中、天井付近をアリスとハッピーが周回していた。
プレイ中の魔法使用を感知する機器に触れぬよう、
細心の注意を払っての飛行。
へえ、ハッピーはさておき、アリスがそれに引っ掛からぬとは解せぬ。
 魔法で透明化していたが、魔波はガンガン。
俺にも念話を飛ばして来た。
『ダン、これ面白そう』
『パー、遣りたい遣りたいっぺー』
 妖精のサイズに合わせるのか、大変だ。
それでも仕方がないので俺は承諾した。
『分かった。
直ぐには無理だけど、なるべく早めに作るよ』
『どうして直ぐじゃないの』
『ピー、抗議する抗議するの~』

 俺は子供だけど、大人世界の事情を話した。
『伯爵になったから引っ越しするんだ。
家来が多くなるし、寄子貴族の宿舎も必要になる。
それに寄親伯爵としての体裁もあるから、今の倍位の大きさだよ』
 宮廷からの拝領という形になるが、今回は選べた。
幸い近場にあった。
ただ今、商会長としてだけでなく、貴族としてもリフォーム塗れ。
絶賛、【佐藤伯爵家のリフォーム月間】。
ああ、我が家のお金にはお羽根が生えたらしい。
次々に飛び立って行く。
国都の経済を回していると言っても過言ではないだろう。

『私、聞いてないわよ』
『プー、ぷっぷー』
『今話した。
そこで新しい屋敷のリフォームを終えたら引っ越しして、
陞爵祝いのパーティーしなくちゃならない。
それで色々と忙しくなるんだ。
先に話した商会も発足したばかりで、そちらの面倒もね』
『分からないけど、分かったわ』
『ペー、ペッペー』

 気付くと俺に来客。
「手が空いたので参りました」
 臨時職員のトランス・アリが来た。
怪訝な表情を浮かべていた。
耳目を引きたくないので、空いていた椅子を指し示した。
「あれを隣に持って来て、座ってくれ」
 伯爵と言えど所詮は子供。
それでもトランスは嫌な顔はしない。
「はい」
 椅子を持って来て、隣に腰を下ろした。
「トランス、この仕事は冒険者ギルドの依頼かい」
「はい、そうです」
「明日までだけど、次の仕事は」
 増々怪訝なトランス。
「まだ決めていません。
ギルドの支払いが済んでから見つけようかと」
「それじぁ、僕が君に指名依頼を出す。
受けてくれるかい」
「伯爵様が私にですか」
 全く付き合いのなかった者からの依頼予定。
トランスは即答しないで考え込む。

 俺はトランスに説明した。
「ねえトランス、よく聞いて欲しい。
君は今回、学校の臨時職員だけど、派遣するギルドも、
受け入れる学校も適当な人選はしない、それは知ってるだろう。
これまでの仕事振りを調べてから派遣するし、
身元を確認してから受け入れる。
その双方に認められたということは、君は選ばれたという事だ。
だから僕は安心して君に依頼が出来る。
たぶんだが、君はCクラスの冒険者で、この学校の卒業生だろう」
 詳細に鑑定したので間違いはない。
トランスが目を見開いた。
ジッと俺を見詰めた。
「そういう事ですか」
 敢えて、鑑定したのかとは聞かない。
出来る冒険者だ。
「そうだよ」
「分かりました」

 トランスが仕事に戻ると、傍で聞いていたテリーが俺を見た。
「あれは出来る奴だよ」
「知ってるんですか」
「俺は担任ではなかったが、面白いスキルの持ち主だったのは知ってる。
それが冒険者になってたとはな。
どこかで道を踏み誤ったようだが、卿、良い奴を見つけたな」
 シェリルが口を挟んだ。
「もしかして商会の仕事」
「そうだよ。
伯爵家も商会も人手不足。
代官や執事、それにシンシア達が人集めに奔走しているけど、
僕も少しは貢献しないとね」
 すると守役のボニーに尋ねられた。
「ダン様、商会は大きくなると見ても宜しいですよね」
「ボールの種類を増やせば、その数だけ競技も増える。
剣士の競技、槍士の競技、魔法使いの競技という風にね」
「当家からも、いいえ、お嬢様の方からも人を入れても構いませんか」
「もしかしてシェリル個人の財布を大きくしようと」
「それは、あからさま過ぎますよ」
 シェリルは長女だが、上に嫡男がいるので身分的にはその控え。
当人の志望は騎士なので、控えのまま騎士を目指していた。
ただし、当人としては侯爵家の騎士団ではなく、近衛を。
女性騎士隊を率いるカトリーヌ明石少佐を知ってからは、
その想いが増々強まった様に感じられた。
だけどボニーはそれとは別の考えらしい。
守役としては夢ではなく、現実に即した考えにならざるを得ないのだろう。

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