金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(テニス元年)7

2023-03-19 09:15:50 | Weblog

 俺はカトリーヌ明石少佐に促され、
一声掛けてから横付けされた馬車のドアに手を伸ばした。
「ようこそわが家へお出で下さいました」
 ゆっくり開けた。
イヴ様が真っ先に顔を出された。
「ニャ~ン」
 相変わらずだ。
両手を上げてバンザイされた。
お約束だ。
俺はその腋の下に両手を差し入れて持ち上げた。
でも今日は、流石に肩車は拙い。
他の目があるのだ。
多くは招待客の随員達。
それらが待機テント群からこちらを覗き見していた。

 俺はイヴ様を石畳にそっと下ろした。
不満顔のイヴ様。
そこで俺はご機嫌取り。
耳元に囁いた。
「美味しいスイーツをご用意しております」
「ほんとに、ほんとう」
「はい、さあこちらへ」

 場所を空けるとカトリーヌが進み出た。
白い手袋をした手をドア口に差し出した。
「王妃様、どうぞ」
 王妃様が顔を出された。
「カトリーヌ、ありがとう。
佐藤伯爵、ご苦労様ですね」
 カトリーヌの手を取れられ、俺に視線を転ぜられた。
「いいえ、恐れ多いです」
 俺は左胸元に右手を当て、頭を垂れた。
それを隣でイヴ様が真似られた。
カトリーヌが慣れた手付きで王妃様をエスコートした。
「さあ、参りましょう」

 女性騎士五名が先導した。
その後ろを俺とイヴ様。
イヴ様付きの侍女二名とメイド二名。
侍従長と侍従二名。
そして王妃様とカトリーヌ。
王妃様付きの侍女二名、メイド二名。
後尾に女性騎士五名。
 王妃様の警護の数が少ない訳ではない。
本隊の百騎とは別に、先遣隊もいた。
それらを合わせると二百騎。
ホールに入らない彼等彼女等は、
敷地内の巡回を当家の兵と共に担っていた。
更には、屋敷の外の管轄は国軍。
一個大隊がその任に就いていた
警護態勢に過不足はない。

 しかし、国王が弑されてからというもの、
王妃様と王女様は争乱の渦中にあった。
お二人を守る勢力はポール細川子爵派閥と管領派閥。
政として提携しているのは評定衆の大方。
それでも、この前の様な襲撃は未然に防げない。
そこで俺はアリスとハッピーに屋敷の警護を依頼した。
『面倒臭いな。
怪しい連中を殺せば良いのね』
『パー、殺せ殺せあむ』
 あーだこーだ言いながらも二人は引き受けてくれた。

 王や王妃が陞爵パーティに公式列席した前例はない。
他にも陞爵された者もいる手前、依怙贔屓と受け取られ兼ねないからだ。
なので今日は非公式の立ち寄りになった。
出迎えは略式でと事前に通達されていた。
だからといって、それをまともに受け取る者はいない。
 略式の指揮はカール細川男爵が執った。
佐藤伯爵家の家臣筆頭にして、美濃地方の寄親伯爵代理だ。
そのカールは玄関にいた。
彼の合図で執事見習い二名が玄関を大きく開け放った。
執事長・ダンカンが中に向けて大声で叫んだ。
「王妃様のお成りです」

 ホールは先程まで室内楽団が音楽を奏でていた。
それが即座に止んだ。
話し声も途絶えた。
残ったのは靴音と衣擦れの音のみ。
 王妃様出迎えの列が整えられたのだろう。
ダンカンがカールに頷いた。
するとカールが先導する女性騎士五名に向けて、大きく両手を広げ、
中に招き入れる仕草。

 略式なのに、この面倒臭いご入場。
嫌だ嫌だ。
まあ、何れ公式も有り得る。
それを考えると、・・・。
慣れるしかないか。
そこはカールとダンカンを頼ろう。

 俺とイヴ様は先導に導かれて奥へ奥へ。
最奥の扉は普段は閉じられているが、この日は開けらた。
そこには国王一家の臨席に備えて、玉座と貴賓席が据えられていた。
俺は階段を上がる手前で足を止めた。
すると、後ろから来た王妃様がイヴ様を抱き抱えられ、
階段を上がられた。
 王妃様は玉座にイヴ様を座らせると、その隣に立たれ、
皆を睥睨するかの様に見渡された。
その間、カトリーヌを含めた一行の全員が背後に回った。
イヴ様の両脇にはお付きの侍女二名とメイド二名。

 王妃様から言葉が発せられた。
「本日は略式じゃ、皆、楽にして良い」
 室内楽団の方を指され、指揮者にも言葉。
「楽しく頼むわよ」
 
 演奏が再開された。
これは明らかにダンスに誘う曲。
事前に仕組まれていた。
王妃様はカトリーヌを連れ、笑顔で階段を下り、ホールの真ん中へ。
ここで楽曲が誰もが知る舞踏曲に切り替えられた。
それも初歩の初歩、貴族の誰もが習うダンス曲。
途端、王妃様がカトリーヌに頷かれた。
頷き返し、リードするカトリーヌ。
男性役として王妃様の相手をした。
 これまた仕組まれていた。
見守っていた者達の中から一組、二組、即座にダンスに身を投じた。
空気を読むのも貴族の嗜み。
それが王妃様相手となると、遅れてはならじとばかり、次々に加わった。
エスコートした者の手を取り、ホール真ん中へ。
いない者は隣の異性の手を取った。
 触発されてか、指揮者が指揮棒を持たぬ手をも動かした。
楽曲を巧みに、空白を生まぬ様にして、別の曲に切り替えた。
舞踏曲のレベルを上げた。
明確に中級者向け。

 俺も事前に仕組まれていた一人。
つまり脇役。
階段を上がり、イヴ様に手を差し出した。
「そろそろスイーツの時間です」
「わかった」
 イヴ様が俺の手を掴まれ、玉座を下りられた。
侍女二名とメイド二名が笑顔で俺達に従う。
女性騎士五名が俺達の警護に就いた。
皆はホール中央のダンスに視線を向けていたので、
俺達少人数の移動には関心を寄せない。

 俺がイヴ様を案内したのはホールが見渡せる二階席。
ここは立ち入り禁止にしていたが、俺達は別。
立哨の兵が扉を開けてくれた。
イヴ様に尋ねられた。
「ここは」
「ここでスイーツを食べながら、下のダンスを見ましょう」

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