2020年元旦 新聞の社説を読み比べる 「人類の自由のために何ができるか」
2020.01.01(liverty web)
元旦の新聞の社説欄には、各紙の「主義・主張」が色濃く反映される。
大手紙6紙の社説を読み比べ、各紙が2020年をどのような問題意識で見通しているか、という点について見ていきたい。
保守に分類される、読売、日経、産経の3紙
読売:平和と繁栄をどう引き継ぐか
前回の東京五輪から56年。日本は、まれにみる平和と繁栄を享受している。世界に大きな戦争の兆しはない。安倍首相の長期政権下で政治は安定。米中の覇権争いはあるが、全面衝突には制御が利くのではないか。
習近平国家主席の来日は、日中対話を深める好機。問題があれば、率直にただせばよい。北朝鮮は軍事挑発を続けている。局地的な軍事衝突の可能性は排除できない。日米同盟の抑止力は欠かせない。
成長の鍵は、世界に広がる「経済のデジタル化」への対応だ。ただ、デジタル化し、AIやロボットが制御する省力化経済の社会では、新領域で知識やデータを握った勝者に利益が集中しがち。経済への正と負の影響を検証する必要がある。
民間企業には460兆円の内部留保があり、家計が保有する金融資産全体は1864兆円ある。この「眠れる資金」を掘り起こして政策に活用できないか。社会保障や福祉、少子化対策に役立てたい。
日経:次世代に持続可能な国を引き継ごう
世界景気は減速し、米中新冷戦や朝鮮半島情勢などに不透明感も漂う。日本は改革を進める年にしなければならない。
第1になすべきは、企業の変革。産業競争力を高め、生産性の引き上げ、意思決定の速度を上げるなど、競争環境の変化を先取りし、攻める分野に資源を集中する事業の棚卸しも必要だ。「働き方改革」が進めば女性は出産、育児がしやすくなる。夫も育休取得や家事参加に積極的になるだろう。
第2に、国が責任をもって少子化対策や持続可能な社会保障への転換を推進すること。年齢にかかわらず、負担能力に応じて診療代などを払う「応分負担」を徹底する。
第3に、国は、エネルギー・環境政策を一体として立案し、工程表をつくることだ。前提としている原発30基の再稼働は極めて厳しい。再生エネルギーを使いやすい電源にし、その比重を高めるイノベーションが必要だ。
産経:政権長きゆえに尊からず
東京五輪の夢に世界が酔ってくれる保証はない。今年、世界情勢が激変するのは間違いない。というより、中国の人権問題、イランを震源とする中東危機、地球温暖化対策などの懸案に何も解決策が見いだせず、昨年より事態が悪化する可能性が高い。特に、北朝鮮。朝鮮有事が起きないと誰が言えようか。
国際社会で安倍首相にかかる期待は大きい。だが、秋元衆院議員の逮捕など、足元でタガの緩みが顕在化してきた。講演会で「靖国神社を6年も参拝しないのは許せません」という意見をいただいた。(執筆者は)黙ってうなずくしかなかった。
平和の祭典を心から祝い、2度目の東京五輪を成功させるためにも首相にはやるべきことがある。
読売は網羅的に、日経は産業面から、産経は中国と歴史問題を軸に主張を展開しており、それぞれの特色が出ている。
気になるのは、読売が、国の責任を問うあまり、「大きな政府」を志向している点だ。財政が厳しい中で、民間企業や家計が持つ資産を、「社会保障や福祉、少子化対策に役立てたい」と論じている。
日経も、政府主導の「働き方改革」に期待を寄せているが、4月から始まる中小企業の残業時間の罰則付き上限規制や有給休暇の取得義務化は、ただでさえ消費増税で苦しくなっている各企業の首をさらに絞めることになるだろう。
リベラルに分類される、朝日、毎日、東京の3紙
朝日:「人類普遍」を手放さずに
国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)は、17の「普遍的な」目標を掲げている。たとえば、貧困や飢餓をなくす、質の高い教育を提供する、女性差別を撤廃する、不平等を正す、気候変動とその影響を軽減する、などだ。「誰も置き去りにしない」という精神が、目標の普遍性を端的にあらわす。
だが、今、「普遍離れ」とでもいうべき危うい傾向が、あちこちで観察される。プーチン露大統領は昨年6月、移民に厳しく対処すべきだとの立場から、「リベラルの理念は時代遅れになった。それは圧倒的な多数派の利益と対立している」と述べた。
プーチン氏は強権的なナショナリズムを推し進め、アメリカのトランプ大統領も移民を敵視し、自国第一にこだわる。欧州では、排外的な右派ポピュリズムが衰えを見せない。香港で続くデモは、自由という価値をめぐる中国共産党政権との攻防である。
国会での論戦を避けたり、報道・表現の自由を威圧する安倍政権のふるまいを見ると、「普遍離れ」という点で、世界の憂うべき潮流と軌を一にしていることはまぎれもない。
毎日:あきらめない心が必要だ
深刻なのは、民主政治の起源でもある欧米の多くの国々で、ポピュリズムが大手を振っていることだ。共通しているのは、敵か、それとも味方かの二分法で分断を深める政治手法だ。
温暖化や海洋汚染などの地球の生態系に関する問題や、核軍拡競争の懸念が深刻の度合いを増している。国家単位で答えを出すことが困難な問題がうねりを増す中で、ポピュリスト政治家は国際秩序に大きな価値を認めない。安倍首相は、このポピュリズムの潮流に沿う。
たとえ、市場経済との二人三脚が崩れたとしても、民主政治の旗を掲げることは重要だ。日本は大国ではないが、世界の中で重要なアクター(行為者)ではある。民主政治の旗を掲げ続けることによってこそ、米国に世界秩序への関与を働きかけることができる。
東京:誰も置き去りにしない
2015年、国連サミットの会議で「持続可能な開発のための2030アジェンダ(政策課題)」が採択された。貧困、教育、気候変動など17分野にわたり、世界と地球を永続させるべく取り決めた開発目標(SDGs)だ。
SDGsの合言葉は2つ。1つ目は「誰一人も置き去りにしない」。いまだに数十億の人々が貧困にあえぎ、いや増す富や権力の不均衡。採択後4年たつ今もやまぬ紛争、テロ、人道危機……。2つ目は「地球規模の協力態勢」。全ての国の人々がそれぞれ可能な分野で協力し、複数の課題を統合的に解決していくしかない。
2008年、「年越し派遣村」の村長を務めた社会活動家の湯浅誠さんが、昨年暮れ、都内で、民間の協力で運営する、全国の子ども食堂の支援の会合に出ていた。子ども食堂は、誰も置き去りにされない。多世代が頼り合う地域交流の場として必要とされ始めた。
リベラル色の強い3紙。朝日と毎日が、トランプ米大統領に象徴される政治手法を「ポピュリズム(大衆迎合主義)」と批判し、朝日と東京が「誰も置き去りにしない」という国連サミットのメッセージを軸に論じているところは興味深い。
トランプ氏は、モノの言い方に過激な面もある。だが、100万人を超えるウイグル人を強制収容所に入れている中国共産党政府を「悪」として、中国との「新冷戦」を戦っている。世界を標準化するグローバリズムが、実は各国の主権を弱め、富める者から奪い取ることを是とする悪しき共産主義であることも見抜いている。
また、「誰も置き去りにしない」という精神は普遍的な真理だが、それを実現するためにも、やはり、日本は「大きな政府」ではなく、「小さな政府」を目指すべきだ。「英国病」でも分かるように、多くの国民が政府に援助を求める社会は成り立たない。
「人類の自由のために、何ができるかを問うてほしい」
「国家があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国家のために何ができるかを問うてほしい」──。
1961年、アメリカのケネディ大統領は就任演説で、そう米国民に呼びかけた。
当時のアメリカは、ソ連を筆頭にした共産主義勢力の挑戦を受けており、翌年のキューバ危機で、核戦争が起きる一歩手前まで対立が深刻化した。
ケネディの演説には、続きがある。世界の人々に向けて、次のように呼びかけていた。
「アメリカがあなたのために何をしてくれるかではなく、われわれが人類の自由のために、一緒に何ができるかを問うてほしい」
2020年も、リバティWebは、「マスコミが言わない、次の日本。」をコンセプトに、この国の未来・危機・可能性について、「ハッ」とする情報・視点を提供していきたい。
(山下格史)
【関連書籍】
『いま求められる世界正義』
大川隆法著 幸福の科学出版
『トランポノミクス』
スティーブン・ムーア、アーサー・B・ラッファー 共著
藤井幹久 訳 幸福の科学出版
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