日米物品貿易協定で焦点となる農業 農業軽視は国を滅ぼす?
2019.02.07(liverty web)
《本記事のポイント》
- 日米物品貿易協定の交渉の焦点の一つである農業
- 日本の食料自給率は低く、有事になれば、「飢餓作戦」を仕掛けられる恐れがある
- 日米貿易交渉を契機に、農業に国際競争力をつける
日本側は日米物品貿易協定(TAG)、アメリカ側は米日貿易協定(USJTA)と呼ぶ貿易交渉の焦点の一つは、農業になるとみられる。日本は長らく、通商政策において農業を守ってきたが、肝心の農業自体は衰退し続け、改革の必要性が高まっている。
改革すべき理由として挙げられるのは、「食料安全保障」の観点だ。人間の生命維持に関わる食料安全保障は、「食料・農業・農村基本法」に基づき、国内生産や輸入、備蓄によって支えられている。
その要とも言うべき国内生産の力を推し測るものとして、1日に必要なカロリーをベースとした「食料自給率」がある。学校でも習うように、日本の食料自給率は、1961年に78%あったにもかかわらず、2017年には38%にまで低下し、日本全体の課題となっている。
食料自給率が低ければ、有事が起き、食料供給が断たれた場合、餓死者が出る恐れが高まる。一方、農業輸出が盛んであるアメリカやフランスなどは、飢餓状態に陥るリスクが相対的に低い。
アメリカは飢餓作戦を日本に実施
「日本国民が飢餓に追い込まれるはずがない」と思いたいところだが、実は、先の大戦では、アメリカがそれを企図し、実行に移している。
アメリカは1945年に「飢餓作戦」を発動し、日本の港や航路などに1万2035発の機雷を敷設した。「海軍学術双月刊」(2015年8月版)によると、商船670隻125万トンを撃沈し、日本の輸送能力の62.5%が失われた。つまり、日本は大量の機雷によって、大損害を受けた苦しい歴史がある。そのため、「食料輸入大国」である日本は、海の航路であるシーレーンを防衛しなければならない、というわけだ。
ところが、日本の食料事情は、「平時」を想定しており、今のような食生活が続けられるという「平和ボケ」に陥っていると言える。本来、食料安全保障は、エネルギー政策と同じく、有事法制の中に組み込むべきテーマであるにもかかわらず、だ。
農業に国際競争力を
そうした中、日米の交渉でアメリカの農産品を安易に輸入すれば、その影響を受ける農家が出るのは間違いないだろう。しかし、補助金などを通じて、これまで続けてきた「守りの農業」のあり方も、失敗していることは明白。むしろ、日米交渉をきっかけに、農業自体に国際競争力をつけ、他国に輸出できる水準に成長させる施策を実施する必要がある。
農林水産省は、食料自給率の低下の理由のひとつに「日本の食生活の変化」を挙げているが、そのような"他責"を行っている時点で、農業政策を根本的に立て直すことは難しいだろう。
日本の農業環境は、有事への対応において極めて脆弱となっており、国の存亡のリスク要因となっている。万が一にも、戦時中のような配給社会に逆戻りしないために、農業の6次産業化(*)や農地の大規模集約化など、食料自給率を向上させる取り組みを、国を挙げて行うべきだ。
(*)1次・2次・3次産業を融合し、新たな産業を形成する取り組み。例えば、生産者(1次産業者)が加工(2次産業)と流通・販売(3次産業)も行い、経営の多角化を図ることなどを指す。
(山本慧)
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