天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

小川軽舟×小澤實対談を読む

2017-09-03 14:47:03 | 紀行


『俳句』9月号は「俳句と暮らす、俳句に潜る」と題して、小川軽舟(鷹主宰)と小澤實(澤主宰)の対談を掲載している。それは今年5月20日、大阪は梅田の蔦屋書店にて行われた。
題名は両者が最近出した本の名前に由来する。すなわち小川軽舟著『俳句と暮らす』(中公新書)、中沢新一・小澤實著『俳句の海に潜る』(角川書店)による。

ぼくが鷹に入った平成2年、實さんが編集長で軽舟さんはぼくと一緒のヒラであった。いざこざがあって實さんが鷹を飛び出たときは大騒ぎであった。
「澤」を創刊して實さんがその主宰になったのが平成21年。その後編集長を経て鷹主宰に就いた軽舟さんと實さんは8年このような対談はやっていないが、なにかの機会にちょくちょく顔を合わせていた。二人とも俳句界の実力者であるから。

ぼくの知るかぎり2013年2月25日毎日俳句大賞の授賞式で二人は顔を合わせて談笑した。このときぼくも毎日新聞社から入賞して呼ばれていて二人の話に加わった記憶がある。
鷹の人たちから反感を買っていると實さんは思っていただろうが、軽舟さんにはそれはなく親近感を持ち続けていたと思う。ぼくも實さんに対していざこざの最中から悪意はそれほど持っていない。
軽舟さんの先輩に対する親愛の情は対談において「兄弟子」という表現、酒の飲み方を教えてくれた先輩という言い方によく出ている。
これに対して兄弟子の實さんは威張ることなくいまや大結社の主宰となった軽舟さんに礼を尽くす腰の低さが目立った。

二人は鷹時代の兄弟子、弟弟子のことからはじまりいろいろ話したのだが、ぼくがいちばん興味深かったのが、アニミズム俳句についてである。
人類学者、宗教学者の中沢新一氏の意見を聴いた實さんはいまアニミズムへの関心が深くこんな発言をする。

アニミズムとはいう考え方は自然という存在を深く捉える方法。
宇宙空間には流動的なスピリットが満ちていて、それが立ち止まると石が現れたり、木が現れたり、人間が現れたりするというわけですけど、全てのものが流動するスピリットの形を変えたものだという、この考えに非常に惹かれます。


實さんが取り上げたアニミズム俳句。
おおかみに螢が一つ付いていた  金子兜太
これには軽舟さんも納得するが、次の
蟋蟀が深き地中を覗き込む  山口誓子

これに軽舟さんは「アニミズムからいちばん遠い人では」と疑問を投げかける。ぼくは全体的に軽舟さんの誓子観は理解するがこの句は見たときからアニミズム性に惚れこんだものだ。ここに實さんが出してなんの異論もない。
次に實さんが出した、
秋の暮溲罅泉のこゑをなす  石田波郷

これに軽舟さんが異論を述べたがぼくも同感。秋桜子や波郷の系譜は抒情でありアニミズムから遠い気がしてならない。
これに対して實さんはアニミズムが染み込んだ抒情という。
軽舟さんが「アニミズムって土俗的なイメージでは?」というのに対して、實さんが「機関車にも機関車の車輪にもアニミズムは生きている」と大きく出る。
そんなになにもかも包んでしまっていいのか。
軽舟さんが草城より誓子のほうに何か得体の知れないところがある、というと、
實さんは、
見えぬ眼のほうの眼鏡の玉も拭く  日野草城
を挙げて「この質感はアニミズム」と展開する。これは納得できる。
ものの種にぎればいのちひしめける  日野草城

「アニミズムに見せかけてモダンだけ」という軽舟さんを實さんが「大変頭のいい句ですね」と応じる。
このへんの両者の問答でアニミズムがおおよそわかるだろう。

實さんは自分のアニミズムの代表句として
ふはふはのふくろふの子のふかれをり  小澤實
を挙げた。
軽舟さんが「神の子のような気がします」と称える。
軽舟さんが、
私はたぶん俳人として根っこにアニミズムがいちばん薄いタイプのほうではないかと思うんです。私は縄文のごてごてしたものよりは、弥生のスッキリしたものが好きですけど、そういうころは私の俳人としての弱さかもしれない。
とおっしゃったのが印象的。「弥生のスッキリしたものが好き」は鷹の選句で痛いほど感じていて納得するがアニミズムに遠いだろうか。

この対談で二人から軽舟さんのアニミズム句が出なかったからぼくが出す。
岩山の岩押しあへる朧かな  小川軽舟

軽舟さんは自身で意識しているように知的な句作りを得意とするがこの句は発表されたときからアニミズムの匂いを感じ引き込まれた。
中七の「岩押しあへる」は外へ内へ広がろうとする岩の制御不可のエネルギーを感じるすごい措辞と思った。朧と併せた壮大さも。

およそトップレベルの俳人でアニミズムを持っていない人はいないのではないか。
それほど俳句というものが、特に季語を使う有季定型俳句というものが意識するしないは別にしてアニミズムと深くかかわっているのではないかと思う。

対談のしまいに軽舟さんが「湘子もどこかで見て喜んで…」と感傷的に花を持たすようとすると實さんが、
「えー、喜んでいないんじゃない(笑)」
と返したのがおかしかった。
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1 コメント

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記述について (鷹読者)
2017-10-03 13:55:44
>「澤」を創刊して實さんがその主宰になったのが平成21年。その後編集長を経て鷹主宰に就いた軽舟さんと實さんは8年このような対談はやっていないが

とのことですが、小澤さんの「澤」創刊は平成12年ではないでしょうか。したがって8年というのも誤りかと思います。
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