きのうアパートのごみ置き場に明るい色の本の束が出ていた。紙類はチラシや雑誌が多く出るが書籍はあまり出ない。
かようなカラフルなものは珍しいので中身を見た。料理本である。調理指導が大石みどり。版元は「千趣会」、大阪市北区同心が所在地。聞いたことのない版元にて調べると、出版社というより小売業(通販)のようだ。一時東証一部に上場したこともある。
楽しい本ゆえ捨てないでそばにおき料理を習おうかと思う。
公共の図書館がどこも閉鎖されていて本と接する機会が激減した。こうなると誰かが捨てた本も貴重に思えてくる。どこからか恵みがやってくるというテーマの内容で出色の小説に吉村昭『破船』がある。
海辺の小さくて貧しい村。そこの住民が難破船を「お船さま」と呼んで待ちわびる人々の悲哀と、それゆえに起こる悲劇的な結末を書いた時代小説である。
海が荒れる冬の夜、村人は前浜で夜通し製塩のために火を焚き続ける。しかし製塩とは表向きで、嵐に襲われた廻船の船頭にそれを人家の灯と見間違え、荒波を避けられる入り江の存在を期待して舳先を向ける。しかしそこには暗礁が連なっていて、廻船は容赦なく座礁しまう。村人は船に殺到して積み荷を奪い、船員を口封じのため殺してしまう。こうして村は時ならぬ恵みを享受する。
めったに食べられない白米にありつくさまを作者は渾身の筆致で描く。ご飯のうまさを描いてこれほど味わいを出した文章はないと思う。
やがて村は得体の知れぬ疫病に襲われ人がどんどん死んでいく……。
海が荒れる冬の夜、村人は前浜で夜通し製塩のために火を焚き続ける。しかし製塩とは表向きで、嵐に襲われた廻船の船頭にそれを人家の灯と見間違え、荒波を避けられる入り江の存在を期待して舳先を向ける。しかしそこには暗礁が連なっていて、廻船は容赦なく座礁しまう。村人は船に殺到して積み荷を奪い、船員を口封じのため殺してしまう。こうして村は時ならぬ恵みを享受する。
めったに食べられない白米にありつくさまを作者は渾身の筆致で描く。ご飯のうまさを描いてこれほど味わいを出した文章はないと思う。
やがて村は得体の知れぬ疫病に襲われ人がどんどん死んでいく……。
恵みのあとどす黒い伝染病に見舞われるという展開は昨今の新型コロナウイルス騒動を思うとえらくリアルである。
到来するものには福と邪がある。ごみ捨て場にあるとき得体の知れぬ邪悪なものが置かれることもあるだろう。
けれどぼくはここを人と繋がる貴重な場と思っている。ごみ捨て場に蹲って作業すると世間も人もリアルに見える。作業のあとの手洗いは以前よりしっかりとはしている。