サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 09412「スラムドッグ$ミリオネア」★★★★★★★★☆☆

2009年10月23日 | 座布団シネマ:さ行

『トレインスポッティング』『28週後…』など多彩なジャンルで観客を魅了する、鬼才ダニー・ボイルの最高傑作といわれる感動的なヒューマン・ドラマ。インドを舞台に、テレビのクイズ番組に出演して注目を集めたある少年が、たどってきた生い立ちと運命の恋をボリウッド風の持ち味を生かしながらつづっていく。主演はこの作品でデビューし、数々の映画賞を受賞したデヴ・パテル。底知れないパワーと生命力を感じさせる人間讃歌に息をのむ。[もっと詳しく]

レンタルDVDに特典満載で、思わず得をしてしまったような。

 

この作品は映画館でみそこねて、ようやく出たレンタルDVDで観賞した物だ。
借りてから気づいたのだが、DVDは2枚収納されており、うち1枚は特典映像が特集されていた。
思わず、得したな(笑)、と。
インド人外交官ヴィカス・スワラップの「僕と1ルピーの神様」が原作になっており、日本でもランダム講談社から翻訳されているらしいが、僕は読んでいない。
脚本のサイモン・ピューフォイによって大幅に設定変更され、映画のオリジナルストーリー部分もかなりあるらしいが、この映画のパンフレットも読んでいないし、批評もみていないので、あまりよく分析できない。



しかし、このDVD特典で、かなり未公開映像が収録されており、それがとても理解の助けになったのだ。
スタッフ&キャストのコメントやメイキングもかなり丁寧に収録されているのだが、ともあれこのダニー・ボイル監督はとても精力的な御仁らしい。
世界最大のスラム地区とされる人口が2000万人に近い大都市ムンベイ(ボンベイ)のダーラーヴィー地区。
貧困と汚濁に満ちたけれども最高にエネルギーと人間臭さが集積したこの地区に、どうやらイギリス映画界の職人的なスタッフたちは、すっかり魅了されたらしい。
たとえば、撮影でもあっという間に数千人の野次馬が集まってきて、1日中ガヤガヤしながらたちんぼしている。
この地区での撮影など、とてもとても統制なんてできないのだ、と。
「今日撮影したところに、翌日行ってみると、いきなり壁ができてるんだからね」
そうした様子が特典映像からよく伝わってくる。



冒頭、スラムのこどもたちが歓声をあげながら木の棒とボールで野球の真似事のような遊びをしている。
私有地のため、警備員がコラ!と追いかけてくる。
こどもたちは、笑いながら、ゴミ山をのぼり、路地を縦横無尽に駆け巡り、屋根をつたい、乱雑な屋台の間をすり抜けながら、警備員をからかうように逃げまくる。
このシーンを撮影するために、小型のデジタル撮影機を工夫してつくりあげ、スタッフたちも走り回っている。
もうこのシーンだけで、僕たちはこのスラム地区のおおよその空気をつかめてしまうのだ。
あるいは、最貧の地区に隣接して、映画スターなどの超富豪の豪邸地域が存在する。
富豪たちはそこに自家用飛行機や、高級自動車で、移動するのだ。
スラム地域にはほとんど衛生的な公衆トイレがなく、海にのびた桟橋に仮設のトイレを造作して、金持ち相手に小遣い稼ぎをしている。
ここも、このお話しの中で、重要なそしてとてもユーモラスなシーンのひとつとなるところだが、ロケスタッフが探し当ててきたロケーションだという。



ダニー・ボイル監督は、脚本にはきわめて忠実だが、撮影シーンはともあれ精力的に取りまくったようだ。
時間的制約の中で、編集段階でかなりスリムにしたのだろうが、そうした映像の一部が、特典の未公開映像で見ることが出来る。
この映画制作にあたっての制作予算は、きわめてミニマムであったようだ。
もちろん、インドは世界最大の製作本数と映画館観客動員数をほこる映画大国である。
けれど、一部の社会派映画をのぞいては、あくまでインド系民族に対する娯楽・娯楽・娯楽である。
撮影がよく行われるボンベイとハリウッドをかけてホリウッド映画といわれるが、通常は3時間ほどの大作であり、マサラムービーといわれるが、いきなり筋書を飛び越えるように、歌えや、踊れやのミュージカルシーンが挿入されるのが、まあホリウッド映画のお約束のひとつなのだ。
ということはもともと、今回の映画は、インド国内向けに作られたわけではない。
トロント映画祭で初上映されて、観客が驚愕して「トロント映画祭観客優秀賞」に。噂が噂を呼んで、全米では10館でのミニミニ公開の予定が600館上映へ。
そして、08年のあらゆる映画賞を総なめして、英国制作であるにかかわらず、とうとう第81回アカデミー賞で、作品・監督・歌曲・作曲・編集・録音・撮影・脚色の8部門で、オスカーを獲得してしまったのである。
これは、やはり快挙である。



「クイズ&ミリオネア(邦題だが)」というイギリス発祥の四択クイズで世界80カ国で人気の超有名なクイズショー番組を構成軸にしているところが、まことにわかりやすい。
その一攫千金のクイズショーに、挑戦するスラム育ちで無学の主人公。大学教授や作家であっても、最終(ミリオネア)まではいかないのに、とうとうこの18歳のコールセンターのお茶出しアシスタント青年が、最終問題まで来てしまった。
「インチキをしているに違いない!」
熱狂する視聴者の興奮をよそに、警察で拷問まがいの取調べを受ける。その取調べの中で、なぜ、正解を言い当てたのか、主人公が説明する。
その説明が、スラム地区で生まれ、幼い時から金銭の魔力にとりつかれ裏社会にも通じてしまった兄と、両親もいず住むところもない可愛い少女との10年間の遍歴(体験)となっている。
息詰まるミリオネアを狙う一攫千金のクイズショーのハラハラする展開と、正解を続ける主人公と取調べ官との重苦しい訊問と、その訊問によって明らかにされる主人公たちの波乱万丈の10年間と、それらを支えるインドの激動するエネルギッシュな熱気が、とても上手に構成されて、この映画の魅力となっている。
どのシーンをとっても「目が離せない」のだ。
娯楽作品としても一級だし、もちろん、主人公たちの「運命」にさまざまな普遍かつアクチュアルなテーマがさりげなく織り込まれている。



特典映像の未公開シーンを観て、筋書きとしてなるほどな、と会得したもっとも重要な箇所は、結局、警部の取調べはどうなったんだろうか、ということだ。
もちろん、最後は釈放されるのだから、訊問によってなぜ正解できたのか、警部にも納得できた、という解釈でもよいのだが。
けれど、特典映像では、主人公の兄が犯してしまった殺人に立ち会っていたという別事件を洗い出し、別件で収監されることがほぼ警部の判断であったことが強調されている。
しかし、貧困層を中心とした大衆がいまやこの主人公を奇跡のヒーローと見なしていること、そして主人公が誠実に正直に過去を物語っていること、とくに「運命の人」である少女とこの青年をもういちど会わせてあげたいと言った親切心のようなものが、警部に芽生えたあたりが映像的には収録されている。
けれど、こうした映像は、未公開となっている。
それはそれで、単に時間の尺の問題なのか、観客の想像に任せようということなのか、あるいは説明過剰になることを嫌ったのかわからないが、DVDの特典映像を観るチャンスのある人には、是非ともチェックしてもらいたい箇所だ。


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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (悠雅)
2009-10-25 10:26:20
こんにちは。
普通、レンタルでは特典映像が観られないことが多いのに、
本当にそれはお得でしたね。
劇場公開を観てしまうと、余程のことがない限りレンタルしないし、
再見してもWOWOWなどだったりするので、観ないまま終わる映像が、案外多いのかもしれません。
これは、改めてレンタルして観る価値あり、のようですね。
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悠雅さん (kimion20002000)
2009-10-25 12:08:47
こんにちは。

よくスペシャルプレミアムboxとかありますよね。
ちょっと値段を高くしてもいいから、そういうのもレンタルしてくれればいいのになあ、と思いますね。
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特典映像 (しゅぺる&こぼる)
2009-10-25 19:17:55
お得感あるんですね。
これは劇場で見たんですが、もう1度見てみたいなあと思いました。
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しゅべる&こぼるさん (kimion20002000)
2009-10-25 21:18:22
こんにちは。

たまにはね。
予告編だけで、特典映像と称してるのが、ほとんどだからさ(笑)
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こんばんは~。 (ryoko)
2009-10-25 23:05:19
映画館で見たのでレンタルする気はなかったのですが、見てみたくなりました。
以前友人から借りた「パイレーツ・オブ・カリビアン」の特典映像が本編より長くって・・・そこまで長くなくていいけれど、未公開シーンなどがあると監督たちの苦労や思いが伝わってきて一層楽しめますね。
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ryokoさん (kimion20002000)
2009-10-26 00:01:43
こんにちは。

僕はパンフレットも買わないし、DVDも購入しないし、映画関係の雑誌も買わないからさ、たくさん見ているけど、案外、疎いんですよ(笑)
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出ましたね! (maru♪)
2009-10-26 00:27:18
こんばんわ♪
TBありがとうございました。

やっとDVD発売&レンタル開始になりましたね!
ずっと待ってました。
特典映像が充実しているみたいで楽しみです。
しかも未公開シーンでより理解が深まるんですね!
ディレクターズカット版とか出して欲しいです。
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maru♪さん (kimion20002000)
2009-10-26 02:40:09
こんにちは。

評判は聞いていたんですけどね。
映画館に行きそびれちゃって。

これから、インドで撮影する海外映画が、多くなりそうな気配がありますね。
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TBありがとうございました。 (sakurai)
2009-10-26 08:37:54
こうやってTBいただいて、その後の情報を得れるというのが、ブログの恩恵ですね。
ありがとうございます。
あの爽快感と、疾走感!また見たくなってきました。
これは買い・・かな。
この本の原作者が、ニュースに出てて、確か大使として、日本に来てるという内容だったと思います。

先日、当地で行われた国際ドキュメンタリー映画祭の中で、やはりインドですが、貧困層ながら・・・それも盲目の夫婦の間に生まれた子供の姿・・・力強く、本当にたくましく生きていく姿を撮った映画を見まして、愕然としました。
人間、ちょとやそっとじゃ、大丈夫だ!と感じた次第です。
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sakuraiさん (kimion20002000)
2009-10-26 11:55:23
こんにちは。

インド映画祭も、やられているらしいですね。
昔は、インド映画というと、ミュージカル仕立てはやはり苦手なので、岩波ホールとかでまじめなドキュメントタッチのものを時々見ました。

この頃は、もうすこし、欧米資本も入った映画が、増えてきていますね。

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