＜訃報＞熱田一さん９３歳＝空港反対同盟旧熱田派元代表
毎日新聞 1月13日(日)14時51分配信
成田空港（旧新東京国際空港、千葉県成田市）建設反対運動の指導者の一人だった熱田一（あつた・はじめ）さん＝三里塚・芝山連合空港反対同盟旧熱田派元代表＝が今月５日、老衰のため東京都練馬区内の自宅で死去していたことが分かった。９３歳。千葉県芝山町内で１３日開かれた旧熱田派の会合で明らかにされた。葬儀は近親者で営んだ。喪主は妻テルさん。
熱田さんは、成田市に隣接する芝山町出身の元農家。１９６６年の反対同盟結成当初から、副行動隊長として参加した。反対同盟は空港予定地内に所有する土地を数百人の支援者名義に分割し、買収を難しくする「一坪共有化運動」を展開。新東京国際空港公団（現・成田国際空港会社）による買収が進んだ８３年、再分割運動を推進する熱田さんのグループと、再分割に否定的な北原派に分裂。熱田さんは旧熱田派の代表に就任した。８７年に北原派から旧小川派が分かれ、反対運動は３分裂した。
旧熱田派が国側との話し合い解決を模索する中、熱田さんは９０年３月代表を辞任。旧熱田派は国側との交渉テーブルである空港問題シンポジウム・円卓会議（９１～９４年）に参加し、０２年に供用開始となった平行滑走路建設に向けての動きが加速した。熱田さんは０５年６月に高齢を理由に運動から引退し、０６年３月に所有地を成田国際空港会社に売却した。
同派の柳川秀夫代表世話人（６５）は「一つの時代を担ってきた人。ご冥福を祈りたい」と話した。【早川健人】
成田空港建設反対闘争である「三里塚」 のことを知っている世代はもうかなり高齢化している。
僕たちの世代は、闘争支援に駆けつけたものもそうでないものも、小川紳介監督の数本のドキュメントによって「三里塚」を見聞きしたきた。
68年の『三里塚の夏』からはじまって77年の『五月の空』まで六本が撮られている。もちろん、小川紳介監督の手法だが、その土地に入り込んで土地の生活者の視点をカメラに収めようとしている。
その後、92年から93年にかけて、漫画家の尾瀬あきらが『モーニング』誌上で、『ぼくの村の話』を連載した。もうすっかり運動は退潮していた時期だが、尾瀬あきらの風化させたくないという気持ちは本物であっただろうし、少年少女の視線からとらえた三里塚の話として一級品であったと思う。
それでももう20年も前の話だ。
もともと政府が国際空港建設の用地確保を巡って、ほとんど地元の了解も取らず、予定していた千葉県富里村から成田市三里塚に変更した。
農民の反対運動は当然のことであったが、政府や官僚の拙い対応が問題をこじれさせた。
当初は社会党、共産党が支援で入っていたが、反対派農民が政府のむごい仕打ちに「力で対抗する」という路線になったため、社共はすごすごとひいていくことになる。
そこに入り込んだのが、全共闘運動もすっかり下火になった新左翼各派であった。
当初は72年開港予定であったが、激しい反対闘争で開港は大きくずれ込み、77年に反対派のシンボルであった「鉄塔」が撤去された。
「新左翼過激派」は武力路線を強めたが、そのなかで市民勢力も距離を取るようになっていく。
80年代に入って、闘争は「一坪再共有化運動」をとるが、この路線をめぐり、中核派と第４インター派がそれぞれ北原氏、熱田氏をかつぎ分裂し、後には小川派と大きく三つに分かれたが、実際にはもっともっと複雑なものであった。
91年に有識者による円卓会議、95年に当時の村山首相の政府謝罪によってようやく闘争は終焉を迎えるようになった。
しかしながら、その後も、分裂したもの同志の内紛は続くことになる。
熱田一さんは、ひとりの農民であったが、反対派の一方のシンボルにかつぎあげられることになり、そこで数十年にわたってある立場を強いられ続けてきた。
05年に高齢理由で引退し、06年には所有地も売却した。
言うに言われぬ思いがどれほどあったろう。
闘うのは理不尽な国や官僚だけではない。
支援にかけつけ去っていった人たち。内ゲバ、テロルによる死者の亡霊。
村人たちの分裂と離反。マスコミの興味本位の取り上げ方、テロリスト呼ばわり。
市民社会の忘却と無関心・・・。
お疲れ様でした。ゆっくりお休みください・・・合掌！
