昨日、朝日新聞が慰安婦問題に対する訂正&検証記事を掲載した。
朝日新聞Digital 2014年8月5日~6日「慰安婦問題を考える」
朝日新聞Digitalは多くの記事が有料記事で会員限定だったりするが、この記事は全文を誰もが見ることができる。今日はこの記事についてコメントしてみたい。
まず、この記事の特徴を私なりに要約すると下記の様になる。
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・慰安婦問題が国際問題化した「強制連行」の唯一の根拠である吉田清治氏の全くの虚偽の証言を誤りであると認め、16もの記事の撤回を宣言した
・記事においては、慰安婦ではなく単なる労働目的の動員である「女子挺身隊」と「慰安婦」を混同して同一のものとして扱ったことを認めた
・以上の誤りを認めた上で、他紙も当初は同様の誤りの報道を行っていたことを「独立した章」まで立てて紹介し、朝日新聞だけが悪い訳ではないとの弁解を随所に織り込んでいる
・安倍政権で行った河野談話の検証で明らかになった事実を随所に織り込み、更には慰安婦報道に批判的な現代史家の秦郁彦氏にも今回の記事に対するコメントを求め、そのコメントをそのまま掲載するなど、慰安婦問題に批判的な立場の者に対しても配慮している雰囲気を一生懸命醸し出そうとしている
・ただし一方で、この様な報道の誤り、誤認が幾らあろうが、慰安婦問題が国際社会から批判されている根柢にある「女性の人権問題」に関する日本政府の加害者責任は否定されない
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特に最後の部分が今回の朝日新聞の結論であり、二日間に渡り大々的に報じてきた割に、結論としては「途中段階で色々ミスは犯したが、最終的な結論に対しては何ら揺らぐものではない」ということになる。何ともズッコケてしまいそうな結論である。
以降は上述のポイントを中心に、幾つかコメントしたい。
(1) 議論の「前提」が変わったのに「結論」が変わらない説明がない
まず、一般論として議論を有益なものにするためには、議論の出発点を「対立する両者が納得できる共通認識」からスタートさせるのが良い。お互いが好き勝手に言い合っていては議論は発散するしかしない。今回の慰安婦問題では、多分、共通認識は下記のようなものだろう。
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証拠に基づき、実際にそこで何が起きていたのかを明らかにし、その明らかになった犯罪事実に対して相応のペナルティ、謝罪、補償を行うべきである。
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多分、この出発点に対して多くの人は異論がないだろう。この様な前提条件に立って考えるとき、両者の間で議論となりえるのは、大きく分けて(a)個別の事案を裏付ける証拠能力の有無、(b)犯罪事実に対する対応(ペナルティ、謝罪、補償など)の相応性、の2点であろう。だから朝日新聞が今回訂正した議論の前提となる部分に対し、結論が変わらないというのであれば、その理由をちゃんと論理立てて説明して頂かなければ「検証」したとは言えないのである。
例えば、朝日新聞の「最終的な結論」とは「日本政府の加害者責任」の断定と慰安婦への国家賠償の必要性であるのだが、これまでの議論の「日本政府が加害者となる犯罪事実」が何であり、今回の訂正でそれが変わったのか変わらなかったのかが検証記事の中では明らかになっていない。正確には「明らかになっていない」は正しくはない。朝日新聞の主張では、これまでは「(慰安婦の)強制連行」が犯罪事実であり、その証拠が吉田証言であった。すなわち、「国家が明に加担した強制連行」が吉田証言で明らかであるから、それ相応の対応として韓国への「べた降りの謝罪」と「国家賠償」が必要であると論じていたのだが、唯一の証拠を自ら否定したのだから、まず「犯罪事実」の見直しが必要である。実際、河野発言の検証における報告書に沿って、強制連行を示す証拠が少なくとも朝鮮半島では存在しないことを朝日新聞も今回の記事の中で認めている。インドネシアなどのケースは確かに強制連行的な行為があったが、軍司令部が終戦前に強制連行の事実に気づき、関係者の処罰と慰安所の閉鎖を決めたなどの事実があり、国家として強制連行に関与していたのではなく、逆に国家としては慰安婦制度を違法なものとして制限しようとしていたことの証拠に相当するものである。朝日新聞擁護派の吉見義明氏は、「処罰はしたが厳罰にはしていない」と主張するが、厳罰であるか否かには関係なく、強制連行することを国家ぐるみで行っているなら関係者が処罰対象になる訳がないので、あくまでも軍の意向を無視した一部の関係者が独断で行ったことは認めざるを得ないだろう。そして、朝鮮半島ではこのレベルの証拠ですら見つかっていないのである。
では、朝日新聞はこの検証記事の中で犯罪事実の見直しをどの様に行ったのか?
これは、記事の中の「強制連行 自由を奪われた強制性あった」の最後の部分に要約されている。
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■読者のみなさまへ
日本の植民地だった朝鮮や台湾では、軍の意向を受けた業者が「良い仕事がある」などとだまして多くの女性を集めることができ、軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません。一方、インドネシアなど日本軍の占領下にあった地域では、軍が現地の女性を無理やり連行したことを示す資料が確認されています。共通するのは、女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる強制性があったことです。
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つまり、少なくとも朝鮮半島では軍が関与した強制連行はなく、あくまでも「女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる」という内容の事実認定に切り替えたのである。これは、今現在でも借金のかたに風俗嬢に身を落とす人が世界中にいる訳で、当時は多くの日本人も慰安婦として働き、同様に朝鮮半島でも親に身を売られた女性が数多くいたという事実と一致する。この様な悪徳業者を取り締まり、多くの女性が被害を受けることを防げなかったというのが「犯罪事実」であるならば、当初の強制連行とは全く異なるものであるのだから、当然ながら相応の対応の内容も異なるはずである。しかし、「100円盗んだのだから、100円返済すべき!」という対応と、「人を殺したのだから、逸失利益や慰謝料の弁済と、長期に渡る牢獄での拘束」という全くレベルの異なる対応を一緒くたにして「加害責任を追及するという点で、結論に変わりはない」と主張するのはあまりにも強引である。有耶無耶にして責任を回避しようという魂胆が丸見えである。
(2)何故、誤りに気が付いてから訂正までに20年かかったかの説明がない
多くの方が指摘していることだと思うが、既に1990年代には吉田証言は全くの出鱈目で、金儲けのための作り話であることが確定されていたはずであるが、にもかかわらず、なぜ15年以上も経った今頃になってから訂正を行うに至ったのか、その説明が全くなされていない。例えば、1997年には朝日新聞は吉田氏に直接、証言が虚偽であるとの多くの報道を受けての取材を行おうとしたが、本人に拒否されて「真偽は確認できない」と記事に掲載している。一方で、今回の記事掲載に当たっては、今頃になって現地で取材を行い、高々40人の人に話を聞いただけで「強制連行を裏付ける証言はない」とあっさり結論付けている。この程度のことは17年前にもできたはずだが、何故に、こうも長い間、調べれば分かる事実を黙殺し続けたのかの検証、説明が全くない。最近では読売新聞や産経新聞から名指しで「誤報を認めろ!」と非難されていたのだから、もっと早く対応できても良かったはずである。にもかかわらずこのタイミングになった理由は何か?
私の答えは、河野談話の検証報告書の存在である。あの報告書を読めば、多くの人は朝日新聞の報道姿勢に疑問を抱くはずである。多くの読者からの突き上げがあり、購読部数の維持のために、河野談話の検証報告に沿った形で「慰安婦問題の再構築」をする必要に迫られて、仕方なしに今回の訂正記事の掲載に踏み切ったのだろうと思う。しかし、決してその様なことは言えないから、この理由を説明できないのだろう。
(3)朝日新聞の誤報と訂正を長く行わなかったことによる影響の評価がない
朝日新聞が誤報を訂正しないで日本政府を糾弾し続けることで何が起きたのか?朝日新聞ではこの点に対する言及、反省が見られない。自民党の石破幹事長をはじめ多くのかたが指摘しているが、この誤報と河野談話を基に、これまで世界では慰安婦問題に対する誤った認識が定着してしまった。国連の人権委員会で日本政府を非難する1996年のクマラスワミ報告では、この朝日新聞が訂正したはずの吉田証言を根拠とした日本の非難がなされている。その後も同様に、河野談話のさす「強制性」の中に吉田証言による「強制連行」が含まれるという解釈で様々な日本非難の決議がなされたのだから、少なくとも朝日新聞が1997年時点で訂正記事を掲載していたら、現在の日韓の関係はここまで拗れていなかった可能性は高い。にもかかわらず、この当時には訂正をしていた他紙のことを同列に語り、朝日新聞の罪は他紙の罪と同レベルと勝手に決めつけるのは横暴である。
(4)議論のすり替えについて
上述の(2)にも書いたが、朝日新聞が今回、訂正記事を掲載した目的は過ちに対する反省ではなく、河野談話の検証報告により多くの国民が真実を知ることになり、これ以上騙し続けられないとの認識から、議論の再構築を行う必要性に迫られたからである。つまり、「多くの女性が辛い目にあったのは事実だから、彼女たちを助けてやろう!」という論点にすり替え、救済されるべき側(「慰安婦」というより、その背後の「挺対協」と言った方が正しいのだが・・・)の求めるものは「国家による謝罪」と「国家賠償」だから、それに応えるのが日本政府の取るべき道であると議論をすり替えようとしているのである。しかしこれは、そもそもの出発点での共通認識である「犯罪事実に対して相応のペナルティ、謝罪、補償を行うべき」から大きく逸脱したものである。
これまでの日本政府の答えは、「相応」ではないのは承知の上(賠償責任がないという意味)で、アジア女性基金を作って「総理大臣からの手紙」で謝罪し、民間基金からの一人当たり合計で500万円の補償を行うということである。日韓基本条約により言わば示談が成立しているのだから、仏心を出して追加の補償をすると、これまでの示談の実績自体がふいになってしまう。日本政府としてはギリギリの決断であり、法的な問題との整合性を保つウルトラC的な答えをひねり出したことになる。しかし、この日本政府の対応を韓国政府も一旦は同意しながらも、韓国国内の急進的・過激勢力の扇動により、補償を受けた慰安婦狩りが行われ、結局日本政府の努力は水泡に帰した。もし問題解決につなげたいならば、朝日新聞にも「犯罪事実に対して相応のペナルティ、謝罪、補償を行うべき」の立場に立って頂き、当時の日本政府の英断ともいうべきアジア女性基金の再評価を朝日新聞から韓国国民に求めるぐらいのことをして欲しいと思う。
不思議なことに、韓国の報道では朝日新聞の今回の訂正&検証記事は非常に評価されている。それは、議論の前提がひっくり返ったにも関わらず、結論だけは強引に変えないという態度を貫いたからである。朝日新聞には若干の後ろめたさがあるのだが、どうも韓国の新聞はその微妙なニュアンスが分からないようで、朝鮮日報では「朝日新聞が安倍首相に反撃」したと完全に勘違いした記事を掲載している。つまり、議論のすり替えを韓国紙は大歓迎しているのである。決して朝日新聞の反省の色を示すものでないことは明らかである。
以上が私が考えるポイントである。ちなみに、関係者からすればこれほどの大ニュースなのに、昨日も今日も報道ステーションではこの訂正記事を黙殺している。自分に不都合なことでも報道するのが「正義」と言うものだが、彼らには「正義」は無いらしい。この辺りにも、朝日新聞、テレビ朝日系の問題意識がうかがい知れる。
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朝日新聞Digital 2014年8月5日~6日「慰安婦問題を考える」
朝日新聞Digitalは多くの記事が有料記事で会員限定だったりするが、この記事は全文を誰もが見ることができる。今日はこの記事についてコメントしてみたい。
まず、この記事の特徴を私なりに要約すると下記の様になる。
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・慰安婦問題が国際問題化した「強制連行」の唯一の根拠である吉田清治氏の全くの虚偽の証言を誤りであると認め、16もの記事の撤回を宣言した
・記事においては、慰安婦ではなく単なる労働目的の動員である「女子挺身隊」と「慰安婦」を混同して同一のものとして扱ったことを認めた
・以上の誤りを認めた上で、他紙も当初は同様の誤りの報道を行っていたことを「独立した章」まで立てて紹介し、朝日新聞だけが悪い訳ではないとの弁解を随所に織り込んでいる
・安倍政権で行った河野談話の検証で明らかになった事実を随所に織り込み、更には慰安婦報道に批判的な現代史家の秦郁彦氏にも今回の記事に対するコメントを求め、そのコメントをそのまま掲載するなど、慰安婦問題に批判的な立場の者に対しても配慮している雰囲気を一生懸命醸し出そうとしている
・ただし一方で、この様な報道の誤り、誤認が幾らあろうが、慰安婦問題が国際社会から批判されている根柢にある「女性の人権問題」に関する日本政府の加害者責任は否定されない
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特に最後の部分が今回の朝日新聞の結論であり、二日間に渡り大々的に報じてきた割に、結論としては「途中段階で色々ミスは犯したが、最終的な結論に対しては何ら揺らぐものではない」ということになる。何ともズッコケてしまいそうな結論である。
以降は上述のポイントを中心に、幾つかコメントしたい。
(1) 議論の「前提」が変わったのに「結論」が変わらない説明がない
まず、一般論として議論を有益なものにするためには、議論の出発点を「対立する両者が納得できる共通認識」からスタートさせるのが良い。お互いが好き勝手に言い合っていては議論は発散するしかしない。今回の慰安婦問題では、多分、共通認識は下記のようなものだろう。
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証拠に基づき、実際にそこで何が起きていたのかを明らかにし、その明らかになった犯罪事実に対して相応のペナルティ、謝罪、補償を行うべきである。
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多分、この出発点に対して多くの人は異論がないだろう。この様な前提条件に立って考えるとき、両者の間で議論となりえるのは、大きく分けて(a)個別の事案を裏付ける証拠能力の有無、(b)犯罪事実に対する対応(ペナルティ、謝罪、補償など)の相応性、の2点であろう。だから朝日新聞が今回訂正した議論の前提となる部分に対し、結論が変わらないというのであれば、その理由をちゃんと論理立てて説明して頂かなければ「検証」したとは言えないのである。
例えば、朝日新聞の「最終的な結論」とは「日本政府の加害者責任」の断定と慰安婦への国家賠償の必要性であるのだが、これまでの議論の「日本政府が加害者となる犯罪事実」が何であり、今回の訂正でそれが変わったのか変わらなかったのかが検証記事の中では明らかになっていない。正確には「明らかになっていない」は正しくはない。朝日新聞の主張では、これまでは「(慰安婦の)強制連行」が犯罪事実であり、その証拠が吉田証言であった。すなわち、「国家が明に加担した強制連行」が吉田証言で明らかであるから、それ相応の対応として韓国への「べた降りの謝罪」と「国家賠償」が必要であると論じていたのだが、唯一の証拠を自ら否定したのだから、まず「犯罪事実」の見直しが必要である。実際、河野発言の検証における報告書に沿って、強制連行を示す証拠が少なくとも朝鮮半島では存在しないことを朝日新聞も今回の記事の中で認めている。インドネシアなどのケースは確かに強制連行的な行為があったが、軍司令部が終戦前に強制連行の事実に気づき、関係者の処罰と慰安所の閉鎖を決めたなどの事実があり、国家として強制連行に関与していたのではなく、逆に国家としては慰安婦制度を違法なものとして制限しようとしていたことの証拠に相当するものである。朝日新聞擁護派の吉見義明氏は、「処罰はしたが厳罰にはしていない」と主張するが、厳罰であるか否かには関係なく、強制連行することを国家ぐるみで行っているなら関係者が処罰対象になる訳がないので、あくまでも軍の意向を無視した一部の関係者が独断で行ったことは認めざるを得ないだろう。そして、朝鮮半島ではこのレベルの証拠ですら見つかっていないのである。
では、朝日新聞はこの検証記事の中で犯罪事実の見直しをどの様に行ったのか?
これは、記事の中の「強制連行 自由を奪われた強制性あった」の最後の部分に要約されている。
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■読者のみなさまへ
日本の植民地だった朝鮮や台湾では、軍の意向を受けた業者が「良い仕事がある」などとだまして多くの女性を集めることができ、軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません。一方、インドネシアなど日本軍の占領下にあった地域では、軍が現地の女性を無理やり連行したことを示す資料が確認されています。共通するのは、女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる強制性があったことです。
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つまり、少なくとも朝鮮半島では軍が関与した強制連行はなく、あくまでも「女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる」という内容の事実認定に切り替えたのである。これは、今現在でも借金のかたに風俗嬢に身を落とす人が世界中にいる訳で、当時は多くの日本人も慰安婦として働き、同様に朝鮮半島でも親に身を売られた女性が数多くいたという事実と一致する。この様な悪徳業者を取り締まり、多くの女性が被害を受けることを防げなかったというのが「犯罪事実」であるならば、当初の強制連行とは全く異なるものであるのだから、当然ながら相応の対応の内容も異なるはずである。しかし、「100円盗んだのだから、100円返済すべき!」という対応と、「人を殺したのだから、逸失利益や慰謝料の弁済と、長期に渡る牢獄での拘束」という全くレベルの異なる対応を一緒くたにして「加害責任を追及するという点で、結論に変わりはない」と主張するのはあまりにも強引である。有耶無耶にして責任を回避しようという魂胆が丸見えである。
(2)何故、誤りに気が付いてから訂正までに20年かかったかの説明がない
多くの方が指摘していることだと思うが、既に1990年代には吉田証言は全くの出鱈目で、金儲けのための作り話であることが確定されていたはずであるが、にもかかわらず、なぜ15年以上も経った今頃になってから訂正を行うに至ったのか、その説明が全くなされていない。例えば、1997年には朝日新聞は吉田氏に直接、証言が虚偽であるとの多くの報道を受けての取材を行おうとしたが、本人に拒否されて「真偽は確認できない」と記事に掲載している。一方で、今回の記事掲載に当たっては、今頃になって現地で取材を行い、高々40人の人に話を聞いただけで「強制連行を裏付ける証言はない」とあっさり結論付けている。この程度のことは17年前にもできたはずだが、何故に、こうも長い間、調べれば分かる事実を黙殺し続けたのかの検証、説明が全くない。最近では読売新聞や産経新聞から名指しで「誤報を認めろ!」と非難されていたのだから、もっと早く対応できても良かったはずである。にもかかわらずこのタイミングになった理由は何か?
私の答えは、河野談話の検証報告書の存在である。あの報告書を読めば、多くの人は朝日新聞の報道姿勢に疑問を抱くはずである。多くの読者からの突き上げがあり、購読部数の維持のために、河野談話の検証報告に沿った形で「慰安婦問題の再構築」をする必要に迫られて、仕方なしに今回の訂正記事の掲載に踏み切ったのだろうと思う。しかし、決してその様なことは言えないから、この理由を説明できないのだろう。
(3)朝日新聞の誤報と訂正を長く行わなかったことによる影響の評価がない
朝日新聞が誤報を訂正しないで日本政府を糾弾し続けることで何が起きたのか?朝日新聞ではこの点に対する言及、反省が見られない。自民党の石破幹事長をはじめ多くのかたが指摘しているが、この誤報と河野談話を基に、これまで世界では慰安婦問題に対する誤った認識が定着してしまった。国連の人権委員会で日本政府を非難する1996年のクマラスワミ報告では、この朝日新聞が訂正したはずの吉田証言を根拠とした日本の非難がなされている。その後も同様に、河野談話のさす「強制性」の中に吉田証言による「強制連行」が含まれるという解釈で様々な日本非難の決議がなされたのだから、少なくとも朝日新聞が1997年時点で訂正記事を掲載していたら、現在の日韓の関係はここまで拗れていなかった可能性は高い。にもかかわらず、この当時には訂正をしていた他紙のことを同列に語り、朝日新聞の罪は他紙の罪と同レベルと勝手に決めつけるのは横暴である。
(4)議論のすり替えについて
上述の(2)にも書いたが、朝日新聞が今回、訂正記事を掲載した目的は過ちに対する反省ではなく、河野談話の検証報告により多くの国民が真実を知ることになり、これ以上騙し続けられないとの認識から、議論の再構築を行う必要性に迫られたからである。つまり、「多くの女性が辛い目にあったのは事実だから、彼女たちを助けてやろう!」という論点にすり替え、救済されるべき側(「慰安婦」というより、その背後の「挺対協」と言った方が正しいのだが・・・)の求めるものは「国家による謝罪」と「国家賠償」だから、それに応えるのが日本政府の取るべき道であると議論をすり替えようとしているのである。しかしこれは、そもそもの出発点での共通認識である「犯罪事実に対して相応のペナルティ、謝罪、補償を行うべき」から大きく逸脱したものである。
これまでの日本政府の答えは、「相応」ではないのは承知の上(賠償責任がないという意味)で、アジア女性基金を作って「総理大臣からの手紙」で謝罪し、民間基金からの一人当たり合計で500万円の補償を行うということである。日韓基本条約により言わば示談が成立しているのだから、仏心を出して追加の補償をすると、これまでの示談の実績自体がふいになってしまう。日本政府としてはギリギリの決断であり、法的な問題との整合性を保つウルトラC的な答えをひねり出したことになる。しかし、この日本政府の対応を韓国政府も一旦は同意しながらも、韓国国内の急進的・過激勢力の扇動により、補償を受けた慰安婦狩りが行われ、結局日本政府の努力は水泡に帰した。もし問題解決につなげたいならば、朝日新聞にも「犯罪事実に対して相応のペナルティ、謝罪、補償を行うべき」の立場に立って頂き、当時の日本政府の英断ともいうべきアジア女性基金の再評価を朝日新聞から韓国国民に求めるぐらいのことをして欲しいと思う。
不思議なことに、韓国の報道では朝日新聞の今回の訂正&検証記事は非常に評価されている。それは、議論の前提がひっくり返ったにも関わらず、結論だけは強引に変えないという態度を貫いたからである。朝日新聞には若干の後ろめたさがあるのだが、どうも韓国の新聞はその微妙なニュアンスが分からないようで、朝鮮日報では「朝日新聞が安倍首相に反撃」したと完全に勘違いした記事を掲載している。つまり、議論のすり替えを韓国紙は大歓迎しているのである。決して朝日新聞の反省の色を示すものでないことは明らかである。
以上が私が考えるポイントである。ちなみに、関係者からすればこれほどの大ニュースなのに、昨日も今日も報道ステーションではこの訂正記事を黙殺している。自分に不都合なことでも報道するのが「正義」と言うものだが、彼らには「正義」は無いらしい。この辺りにも、朝日新聞、テレビ朝日系の問題意識がうかがい知れる。
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