敬愛する精神科臨床医にして著作家、中井久夫が亡くなりました。
次々とファンだったともいうべき著作家がこの世を去っていきます。
よく読んだし、新刊本が出ればよく買い込んでもいた作家たち。
古井由吉、吉本隆明、鶴見俊輔、そして中井久夫。皆、鬼籍に入ってしまいました。
まあ、こちらが70を超えたじいさんですから、やむを得ないことですが。
沢山の著述がありますが、私にとって最もインパクトの強かった本は
「精神科治療の覚書」。
かつて帰省先から帰途の新幹線の中にこの本を忘れてしまって、
問い合わせたものの戻ってくることもなく、買い直した本です。
この買い直した本も今回本棚を探してみると、これが見つかりません。
6年前の引っ越しの折、断捨離に紛れてしまったのでしょうか。
そんなことはないはずと思いながら、かなり残念なこと。ちょっと悔しいです。
中井が初めてヨーロッパを訪問した折、「ヨーロッパは実在したんだね。」
と名言を述べたというのは同行者山中康裕の伝えるところ。
博覧強記の驚嘆すべき知性がその高みと深さを広げているかと思えば、
その臨床においては患者の「心のうぶ毛」を察知する繊細さ。
そして見事にこころの波長を合わせていく感度のチャンネル。
「世に棲む患者」というタイトルの何とも絶妙なこと。
「看護のための精神医学」という本の冒頭にはこうあります。
「医者が治せる患者は少ない。しかし看護できない患者はいない。
息を引き取るまで、看護だけはできるのだ。」
その著作は、論文、随筆、エッセーなど多岐にわたり膨大です。
また少しずつ暇に任せて読み直していくとすれば、こちらが
そのうち中途で倒れてしまうでしょう。 ま、それもよろしいことかと。
8日、88歳。いつかはと思いながら残念なことです。
一読者、一ファンとしてご冥福を祈りいたします。(合掌)