上のイラストは、長正館の道場に貼ってあったもの。
正面打ちをすると右腕は床と水平になるようにと教えている。
しかし、剣道未経験者でかつ剣術の初心者に、剣道で言う「正面打ち」をやらせると
かなりの割合で独特のフォームになることが多いことに気がついた。
当った瞬間、右拳が胸や水月まで下がり、
右腕が水平ではなく前方に大きく下がるのである。(下の図2)
(図1、正しい正面打ち)
(図2、間違った正面打ち)
図2のように竹刀が立ってしまうのは、
第1の原因として、上に振り上げた形のまま振り下げることにある。
大きく振り上げた時、横から見ると竹刀の角度は45度付近となる。
この角度のまま、肘も手首も固定されたままで振り下げてしまうのである。
剣道家は、当る直前に、肘と手首を使って剣先のスピードを上げる。
そうしないと打突部に当った時に強度と冴えが生れないからだ。
振り下ろす途中で左手が少し先行し、右手が追従して手首を使う打ちである。
結果として打突時の剣先のスピードは最大限となる。
第2の原因としては妙な思い込みである。
剣先の円運動の途中に当たる物があると、腕はそのまま円運動を続けようとするが、
障害物のために剣先の動きが止まるが腕は動きを続けることになって下がる。
結果的に図2のような形になるからだと言うのだ。
「剣道は当てる技法だから剣術とは違います」と言う剣術家もいる。
さて本当にそうだろうか。
確かに剣道の打ちは当てる事に特化しているが本来は斬るための技法である。
けっして肘や手首のスナップだけで打っているわけではない。
面ならば顎まで、小手ならば切り落とすぐらい、
胴ならば真っ二つにするぐらいの強度となるように打っている。
長さで言うと、面ならば20センチ程度、小手ならば5センチ程度、
胴ならば30センチ程度を想定して斬り込むような感じではないだろうか。
これ以上の強度は無駄になる。痛いだけ。
叩きつけるような薪割り剣道は無駄だらけということになる。
剣道は、打突部位に合わせてた必要かつ充分な強度で打つ(斬り込む)のだ。
そして打突部位に合わせ、最大のスピードになるように修練している。
※注意1
剣道で、刺し面のようなスナップだけ使った打ちもあるが、
刺し面は冴えはあるが強度が足りないので剣道本来の打ちでは無い。
※注意2
面を打つ時に右拳を上げないで、左拳のみ下げて打つ、いわゆる「てこ打ち」という
打ち方も見かけるが、これも(面打ちとしては)強度不足で剣道本来の打ちでは無い。
(ただし小手打ちでは有効だと思う)
※注意3
面を打つ時に、普通に振り上げ振り下ろすのだが、左拳が右拳よりも極端に先行し、
左拳が水月付近まで下り、竹刀が垂直に立ったところから右手だけ伸ばして面を打つ、
いわゆる「右手打ち」という打ち方も見かけるが、
円運動の円が小さく、強度不足で、冴えとのバランスも悪い。
(どこまで斬り込むかを意識しないと適切な強度と冴えが生まれない)
面を打つ場合、顎まで斬り込むように打つから強度が生まれる。
最大限の速度を得るために、適度に肘と手首のスナップが必要になる。
当った瞬間は、手の内に力を加え締めるが即座に緩める。
少し注意が必要なのは、当った瞬間の手の内は、
剣道独特の当てる技法で、巻き藁などで試し斬りをすると少し感覚が違う。
剣道は当った瞬間に緩めるが試し斬りでは緩めない。
試し斬りの場合、対象物に当たってから、充分に斬り込むまでは、
手の内を継続(と言っても瞬間に近い)させておく必要がある。
これは試し斬りを何回かやれば馴れてくる。
慣れてきても巻き藁の中に太目の竹を入れるとまた感じが変わる。
こうなると数多く斬り慣れないと手の内の修練は出来ないことになる。
以上、余談だが、当てる技法と斬る技法は若干違うという話である。
さてまた別の例で居合の技法。
居合では試し斬りをしない流派もある。
これはまた試し斬りの流派とは状況が異なる。
ここでは便宜上「形居合」とする。
形居合のみを行っている者は、この円運動を過剰に意識するあまり、
剣先を大きく(天井を掃くようにとも言う)頭上で腕を伸ばすような大きな円になる。
形を意識するせいか、さほど速度を出さないが優雅な円運動となる。
形居合の者に何かを打たせると手首も肘も伸びたまま棒状態で打ってしまう。
自分では強く打ったつもりなのに強度も冴えも無いことになる。
試し斬りでは、さほど斬れないと思うがどうだろうか。
剣道の打ちの強度と冴えは、
強度が対象物を「どれだけ斬るか」の見極め、
冴えは当たる瞬間の「最大速度の追求」では無いかと思う次第である。
私の課題は「手首の硬さ」で、
手首が硬いために速度と冴えがイマイチなのである。
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以上ここまで。
加筆訂正があるかも知れません。悪しからず。