今日のうた

思いつくままに書いています

響子

2021-06-13 11:59:23 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
若い頃はあんなに眠かったのに、今は朝の5時がくるのが待ち遠しい。
時間は有り余るほどあるが、PCに向かったり読書をしたりすると
すぐに眼が疲れて頭が痛くなる。
1日が長すぎる。4時間程をどなたかにさし上げたいくらいだ。
それでいて気がつくとすぐに土曜日が来ている。

老後をどうやって過ごしたらいいのか、参考になる人が身近にいない。
母は62歳で亡くなっているが、それより9歳も長生きした私には
参考にならない。
父は若い頃から商売は母任せで、数学をしたり本を読んだり
短歌をしたりしていたので、亡くなる73歳のいつからが
老後だったのか分からない。

音楽も聴いたし何をしようか悶々としていたところ、
YOU TUBEで向田邦子のドラマを見つけた。
これが脳裏に焼き付いて離れないほど強烈なものだった。

「響子」
「向田邦子新春シリーズ」とあるのが、こんな濃厚なドラマを
TBSは新春早々家族が観ている茶の間に流せたのだろうか。
今だったら、BPO(放送倫理・番組向上機構)が黙ってはいないだろう。
脚本・筒井ともみ、監督・久世光彦(くぜてるひこ)。
石材店が舞台だが、みな石に取りつかれている。
主人公の響子は石を打つ時の音から付けられた。
響子役は田中裕子、その夫は労咳(ろうがい)で寝たきりだが、
この夫役が筒井康隆だったのには驚いた。
母は加藤治子、父方の祖父は森繁久彌、そしてアル中の職人に小林薫。

母と祖父は通じている。祖父も寝たきりで母は枕元に正座している。
その時の祖父の手の動きと目の表情、そして母の着物のしわが
やや動き、母は恍惚とした表情を浮かべる。
動きはこれだけで数分間の出来事だ。たったこれだけのことで、
永年の二人の関係を赤裸々に描いている。

田中裕子と小林薫も石に取りつかれた二人だ。
思い余って石を口に含んだ田中は、その石を小林に口移しにする。
こちらも森繁・加藤に負けず劣らず、ショッキングなシーンだ。

日常の中にひそむ情念をこのドラマは見事に描き切っている。
映画「天城越え」の田中裕子はよかったが、このドラマでも
他の追随を許さない素晴らしさだ。

田中裕子、黒木華、松坂桃李、二宮和也、自己主張をし過ぎない
美しい顔の役者は、どんな役でも様になると思った。

追記1
「岸辺のアルバム」もYOU TUBEで観られることが分かりました。
(2021年6月14日 記)

追記2
向田邦子原作、久世光彦監督・ディレクター、岸惠子主演のドラマ
「言うなかれ、君よ別れを」をYOU TUBEで観る。
こんな素晴らしいドラマをテレビで放送していたことに、ただただ驚く。
小林薫がこれまでとは違ったいい味を出していた。
状況劇場をやめるという小林を引き止めるために、唐十郎が包丁を持って
説得に行ったという逸話も頷ける。
(2021年7月3日 記)

追記3
若い頃に観たかった映画に「忍ぶ川」がある。
当時は照れがあって映画館に行けなかった。
今は便利だ。昔の映画をDVDを借りて観ることができる。
三浦哲郎原作、熊井啓監督、栗原小巻・加藤剛主演。
熊井監督だけに社会性のある作品だ。

私が小さい頃には、住処のない一家がお寺に住んでいた。
家賃の代わりに酒盛りの際、飲食を提供する手伝いをしていた。
割烹「忍ぶ川」で働く栗原の父親も病気で、故郷の神社にひとり
住まわせてもらっている。そして栗原が仕送りをしている。
当時は貧しくても、今よりも情があったように思う。

「純愛」という言葉が恥ずかしくなく言える映画だ。
シャンシャンと鈴を鳴らしながら、雪の中を馬ぞりがやってくる。
その音に障子を開けて二人で見るシーンは、想像以上に美しかった。
バレリーナを目指していたという栗原の体は、神々しくさえあった。
その後、栗原は演劇に移っていったようだが、もっと映画が観たかった。
(2021年7月28日 記)


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精神0

2021-06-09 08:43:21 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
なぜこの国では「選択的夫婦別姓」が認められないのだろう。
別姓にしたい人だけがするのに、なぜ人がすることにすら
反対する人がいるのだろう。
なぜこの国では「LGBTなど性的少数者をめぐる
『理解増進』法案」が、国会に提出されないのだろう。
なぜ人間の存在価値は生殖にあると信じているガラパゴス人間が、
いまだ政治の中枢にいるのだろう。
まるで時間が止まってしまった国のようだ。

「夫婦別姓確認訴訟」で話題になった想田和弘監督の
「精神0」を観る。
82才になる精神科医、山本昌知・芳子夫妻を撮った
ドキュメンタリー映画だ。
山本医師が引退することになり、患者にそのことを伝えることから
映画は始まる。
「ずっと先生に診てもらってきたのに、これからどうすればいいのか」、
という患者の話を、決して急かさず、はしょらず、じっと聞いている。
余計な口出しもしない。そして的確なアドバイスをする。
これほどじっくり人の話を聞いたことが、私にあっただろうか。

認知症の妻に対しても、決して怒らず、急かさず、余計な手出しはせず、
じっと見守っている。そして自分が出来ることをする。
カメラは二人をただ撮り続ける。
妻が自分の家の玄関の戸が開けられない時も、夫の疲れが極限に
達している時も、夫が日本酒の栓を開けられない時も、
カメラは静かに撮り続ける。

植木の陰にエサがそっと置かれ、野良猫がそれを食べる様子を、
駐車場で毛づくろいする様子を、カメラはじっと撮り続ける。

説明は要らない。いろいろな人の言葉や状況から様々なことが分かる。
押しつけがましい感動も要らない。二人の後姿を観ることで
いろいろな感情が心に溜まっていく。

石井裕也監督と鶴瓶さんの対話をYOU TUBEで観た。
その中で石井監督は、「分かりやすい映画は観て楽しかった、
で終わってしまう。そして1週間も経たないうちに忘れてしまう。
今は分かりやすい映画が多すぎる。
だがその時は分からなくても、ずっと心に残る映画がある」
鶴瓶さんは石井監督の「ぼくたちの家族」を絶賛していた。
確かにいい映画だった。

私は「精神0」を観た時に、石井監督の言葉を思い出した。
善意の安売り、感動のオンパレードのような映画は観たくない。
いい映画は多くを語らなくても、ゆっくりと静かに
観客の心に降りてくる。そして留(とど)まる。

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今ここにある危機とぼくの好感度について

2021-05-30 11:25:31 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
NHKドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」が終了した。
前にも書いたが、このドラマは「ジョゼと虎と魚たち」の渡辺あやが
脚本を担当している。この脚本が抜群にいい。
この脚本を採用したNHKがいい。
今、まさにこの時期に放送されるべき作品だ。
ドラマの舞台となっている帝都大学を日本国家に、帝都大が主催する
「次世代科学技術博覧会」をオリンピックに置き換えれば、
今の日本の状況にぴったりと当てはまる。

内容は、帝都大学の研究所から「サハライエカ」が逃げ出す。
この蚊が在来種と交わったことで、人間にアレルギー反応を
引き起こし、人によっては死に至らしめる蚊が発生する。
だが大学は「次世代科学技術博覧会」を控え、このことを
隠蔽しようとする。もし漏洩したら大学は最大規模の損失を出し、
評判がガタ落ち、文科省からの交付金は大幅に削減され、
大学は存続の危機に陥る、というのだ。
だからどんなに追及されようとはぐらかし、証拠を廃棄し、
すべて無かったことにしようとする。マスコミ対策も怠りない。
まさに真実は闇に葬られようとしていた。
感染者が次々と出ているのに、だ。
「次世代科学技術博覧会」が成功裡に終わりさえすれば・・・。

ここに松重豊演じる総長が、松坂桃李演じる何とも頼りない広報担当と、
あらゆる妨害を排して真実を公表する。
総長の言葉が素晴らしく、今の日本にとっても重要な言葉なので
引用させて頂きます。

「弟子が孔子に問うた。『もし先生が政治を志すとしたら
 何をなさいますか』
 孔子の答えは『必ずや名を正す』というものだった。
 俺の解釈は、
 病気を認めるしかない。  
 病名を付けなければ治せない。
 どんなに嫌でも、正しい名を付けなければ
 病気を重くするし、死にかけているなら
 まずそれを認めるしかない。
 どんなに嫌でもまず病名を知らなければ
 治療が始まらない。
 問題には正しい名を付けなければ
 それを克服することが出来ない。

 帝都大は過ちを犯した。
 ゆえにしかるべき責任を取らなければならない。
 蚊の流出が真実なら、どんなにつらくとも、それを
 証拠不十分と言い換えてはならないのだよ。
 「次世代科学技術博覧会」も人命には代えられない。  
 帝都大の尊厳、賠償、存在の危機を考慮しても  
 その名に恥じない選択をしなければならない。
 私は学者だ。誇りをもって孔子の教えに従うまでだ。
 
 我々がこのまま生き残って行けるとは、私にはどうしても思えない。
 なぜなら腐っているからだ。
 今や組織としては腐り切っている。。
 不都合な事実を隠蔽し、虚偽でその場をしのぎ、
 それを黙認し合う。
 何より深刻なのは、そんなことを繰り返すうちに
 我々はお互いを信じ合うことも、敬(うやま)い合うことも
 出来なくなっていることです。
 お互いに信頼も敬意も枯れ果てたような組織に、
 熾烈な競争を生き残っていく力はありません。

 もし本当にそれを望むなら
 我々は生まれ変わるしかない
 どんなに深い傷を負うとしても
 誠の現実に立ち向かう力
 そしてそれを乗り越える力
 本当の力を一から培(つちか)っていかなければならない。
 たった今から、おそらく長く厳しい闘いになる。
 これはその第一歩です。     (引用ここまで)


総長の言葉は、今まさに私たちが問われていることです。
決まってしまったことは変えられない、
動き始めたことは止められない、
どんなに状況が変わっても、どんなに反対が増えても、
終わった後に悲惨な結果が待ち受けていることが明白でも、
決めたことは突き進む。

「NO!」と言えない国民では、今も太平洋戦争の時と同じです。
原発しかり、リニアモーターカーしかり、辺野古埋立てしかり、
そしてオリンピックしかり・・・。このままでは将来、
日本はとんでもない国になってしまうだろう。
ドイツ在住の日本人医師が、「五輪変異株」について言及していた。
新型コロナウィルスは未知の病です。
今後、どういった変異を遂げていくのか、誰にも解らない。
高齢者で持病のある私は、「オリンピックには殺されたくない!」
という思いが、日に日に強くなってきている。

※いまだ監視されているようで、妨害が入りました。
 しばしブログをお休みします。
(2021年6月1日 記)

追記
「7/22 コロナ禍の五輪開催を考えるVol.5 なぜ私たちは
 反対の声をあげるのか #いまからでも五輪中止を」
            ↓
https://www.youtube.com/watch?v=OU5jo6FTyLk&t=8399s

 
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ロング、ロングバケーション & 春との旅

2021-05-23 17:16:42 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
コロナで死が一歩近づいたように感じるこの頃、
借りる映画も老いを扱ったものが多くなった。
だからと言って死を真正面から扱った映画は、今は観たくない。

①ロング、ロングバケーション(原題はThe Leisure Seeker)
leisureの原義は、好きなように行動する自由が認められている。
バケーションよりもleisureの方が映画に合っている。
ハリウッド映画の名優、ヘレン・ミレンとドナルド・サザーランドが
夫婦役で出ているのでアメリカ映画と思ったら、イタリア映画だった。
全身に散らばったガンを患う妻と、アルツハイマーで記憶が飛ぶ夫。
子どもたちはそれぞれに入院と施設を進めるが、そんなものくそ食らえ
とばかりにキャンピングカーで自由に生きることを選ぶ。

自由はもちろん責任が伴う。
夫はおもらしをするし、すぐに居なくなる。
妻のことも忘れるし、昔の恋人の名前で呼んだりする。
車はパンクするし、レスキューを待っていれば強盗にだって遭う。
その度に、妻は独り言のように怒りや罵りの言葉を発する。
こうすることで、気持ちを整えているのだろう。

冒険の楽しみもいっぱいだ。知らない人と自分たち家族の
昔の幻灯(8ミリ?)を観たり、夫の教え子と出会ったり、
たまにはホテルに泊まって二人でワインやダンスを楽しんだりする。
今は手を煩わす夫だが、永い年月、夫を尊敬し愛してきたのだろう。
ヘレン・ミレンの、何が起きても笑い飛ばす強さ、軽やかさ、
賢さ、逞しさ、そして愛情深さに惚れ惚れした。
笑いながら観ているうちにしっかり心に刻まれる、まさに職人芸を
見る思いだ。ジャニス・ジョプリンの曲(Me & Bobby McGee)がいい。
自由でいたけりゃ責任が伴う。このことをしっかり心に刻み付けた。

②春との旅
こちらは日本のどこにでもいる、仕事は出来ても一人では生きられない
男の物語だ。
原作・脚本・監督小林政広。仲代達矢演じるおじいさんは漁師をして
いたが、今は足が少し不自由で、二十歳の孫の世話になっている。
妻は病死、娘は自死、孫は学校が廃校になり給食の職を失う。
孫の自立を妨げるおじいさん。見ていてイライラする。
自分の面倒を看てくれる兄弟を探して、孫とおじいさんの
旅が始まる。孫役の徳永えりがいい。

メーキングビデオの中で、監督は次のように語っている。
「スタッフをはじめ、役者にやさしくしてはダメだ。
 やさしくすると役者がダメになる」
突き放し、遠くから見守る。徳永は暗闇の中、朝まで一人で海を
見ているように命じられる。
誰も助けてはくれない。頼れるのは自分だけ。
こうした環境の中で、彼女は成長していったようだ。
いい監督に出会うことは、役者冥利に尽きるだろう。

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雪のなまえ

2021-05-18 10:28:51 | ③好きな歌と句と詩とことばと
村山由佳著『雪のなまえ』を読む。
これまで読んできた村山作品とは、あまりにも違うことに驚いた。
タイトルからして美しい。

小5の主人公・雪乃は、教室でいじめられている少女と話をした、
ただそれだけで今度は雪乃が標的にされる。
陰湿ないじめ、関わると自分が標的にされることを怖れて、
誰も雪乃に近づかなくなる。そして不登校。

この間に生じる両親と雪乃の苦悩や確執を丁寧に描いている。
そして編集者の母は東京に残り、雪乃と父は曾祖父母が住む
長野で暮らすことになる。
慣れない農業、都会とは違う人間関係。
こうした中で人の力を借りて、3人は自分の居場所を
見つけていく。

一日にしていじめの標的にされる怖さを、
この小説を読みながら思い出した。
私が小6の時に、町の有力者の娘と同じクラスだった。
父親は教育長も兼ねていて、先生も他の生徒たちも
彼女には一目置いていた。
当時、教室の椅子に腰かける時に、後ろからそっと椅子を引き
ずっこけさせる遊びが流行っていた。
後ろの席である彼女が、私にこれをしたのだ。
怪我はなかったものの、非常に危険な遊び、いや遊びでは
すまされないものだ。
彼女に抗議したところ、次の日からクラスの子たちは私を
避けるようになった。
そして誰も私に話しかけてくる子はいなくなった。
この状態はいつまで続いたのだろう。
記憶はそこで途切れているので、そんなに長くは
続かなかったと思う。

コロナ禍で大人も子どもも、いつ明けるとも知れない、
重く垂れこめた梅雨空の下で暮らしている。
こんな状態では、いじめが増えているかもしれない。
今、いじめを受けている子も、いじめている子も、
見て見ぬふりをしている子も、その子のお父さん、お母さん、
おじいちゃん、おばあちゃん、そして私とは関係ないと
思っている子にも、この本を読んで欲しいと思った。

この本の帯には次の言葉がある。
この言葉に癒される人が必ずいると思う。

 つらいことから、どうして逃げちゃ いけないの?

自然から学んだ曾祖父の宝物のような言葉を吸収しながら、
雪乃は自分の尊厳を守りつつ居場所を見つけていく。
曾祖母の次の言葉に、涙がとまらなくなった。

 だから、謝ることなんかちっともねえにょ。いいだかい?
 雪ちゃんはね、ずいぶん大人になっただけど、まだ子どもだに。
 そんでもって、子どもはね、大人っから心配してもらうのが
 仕事だに。あんたの父やんだって母やんだって、きっと
 そう思ってるだわ。な?          (引用ここまで)

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岸辺のアルバム

2021-05-04 09:28:27 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
「Cats Howling」で、金平さんが「岸辺のアルバム」について語っていた。
1977年にTBSで放送された連続ドラマだが、急に観たくなった。

当時は録画機器がなく、ところどころを観ていたように思う。
印象に残っているのは、初回八千草薫がお風呂を掃除しているシーン
(今、観直すとかなりセクシーで驚く)や、一人でテレビを観ながら
鮭をおかずにお昼を食べているシーンだ。
「専業主婦って孤独だな」と、初めての子が生まれ、てんやわんやの
私には強く心に残った。

今は便利だ。1話から15話までDVDを借りることができる。
(YOU TUBEで観られます)
画質が良く、古びていないどころか内容が瑞々しい。
眼のために少しずつ借りるつもりが、面白くて次々と借りてしまった。
1974年に起きた多摩川水害が背景にあるが、その3年後に作られた。
番組の冒頭にその時のニュース映像が流れる。
そしてジャニス・イアンの「ウィル・ユー・ダンス」の曲と共に、
緑におおわれた岸辺へと変わっていく。この展開は見事だ。

原作・脚本は山田太一、プロデューサーは堀川敦厚(とんこう)。
演出は鴨下信一(2021年2月10日にお亡くなりになりました)を
はじめ3人が担当している。
川沿いに住む4人家族の物語だが、彼らの生活には常に
多摩川と小田急線がある。
川のせせらぎ、子どもたちの水遊び、釣り人、焚火をする人、
ボート遊びや土手を散策をする人。
時間により季節により、川は趣を変えてゆく。そして電車の音。
当時、私鉄沿線にマイホームを持つことは夢だった。

生活に根差した脚本が素晴らしい。手のしぐさ、視線の動き、
掃除機のコードを引っぱる時に見せる心の揺蕩(たゆた)い、
こうしたことを丁寧に描いている。
まさにドラマ作りのバイブルだと思う。
特に鴨下信一演出の時の、八千草薫の可愛らしさ、ちょっとした
仕草に垣間見える控えめな色気が好きだ。
見ているだけで爽やかな風が吹いてくるような気品。
いくつになっても若さや美貌に固執する女優もいるが、
私は八千草薫の自然体の美しさが好きだ。

その他にも24時間戦っている夫の労働環境の悪さや、会社が
立ち行かなくなると、武器の売買や人身売買のようなことにまで
手を染めようとする会社の体質。(この体質は今も変わらない。)
そして70年代は今よりも、アメリカ人による
日本人蔑視があったのだろう。
家庭内の問題だけではなく、こうした社会問題を扱っていて、
44年経った今も決して色褪せず、よくぞこんなドラマが
作れたものだと思う。

最終回は当時の多摩川本堤防決壊の映像を交え、
まるでドキュメンタリーのようで、水の力に言葉を失う。
そして渦巻く濁流の上をゆく電車。
総力をあげて本気で作ったドラマに、涙が止まらなくなった。

現在のように規律にがんじがらめにされることなく、
自由に作りたいドラマを作っているように感じた。
当時の方が、自由に良質なドラマが作れる時代だったのだろう。
人間はもしかして、退化しているのかもしれない。

最近、このドラマに出演している風吹ジュンと国広富之を観る
機会があった。風吹ジュンは映画「浅田家!」に出ていた。
この映画では黒木華が日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を
受賞しているが、もし彼女が出演していなかったら、
風吹ジュンが優秀助演女優賞を受賞したのでは、と個人的には思った。
国広富之はNHKのドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」で
気の弱い上田教授役を演じている。

鴨下信一、堀川敦厚、八千草薫、杉浦直樹、津川雅彦、竹脇無我が
お亡くなりになっている。
44年の年月を思った。              (敬称略)

追記1
「今ここにある危機とぼくの好感度について」は、「ジョゼと虎と魚たち」
の渡辺あやが脚本を担当している。
この脚本が抜群にいい。ドラマだとここまで言えるのか!と感心してしまう。
そして毎回、あの人を想像して笑ってしまう。あと2回が楽しみだ。
(2021年5月11日 記)

追記2
2023年11月29日に山田太一さんがお亡くなりになりました。
ご冥福をお祈りいたします。
これからゆっくり山田さんが遺された作品を観ていこうと思います。
(2023年12月2日 記)

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Cats Howling (ねこたちの遠吠え)

2021-04-24 09:31:13 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
私は金平茂紀(かねひらしげのり)さんの動画「Cats Howling 」を
楽しみにしている。
初回のゲスト桃井かおりさんに始まり、毎回、ゲストが素晴らしい。
5回目は、私の大好きな桐野夏生さんだ。

最近の私は何をやっても変わらないという無力感とコロナ鬱で、
何事も無難にといった、なあなあな生き方をしている。
だがお二人の会話を聴いて、頬を張り飛ばされたような思いだ。
前のページの「ライオンのおやつ」の追記は、お二人の会話から
インスパイア―されて書いたものです。
自分なりに、自分に誠実に生きていこうと思った。

Cats Howling (ねこたちの遠吠え)5回目
桐野夏生×金平茂紀 その1「今、表現の自由が危機に」
            ↓
https://www.youtube.com/watch?v=LU2p95rNZxg

桐野夏生×金平茂紀 その2「今、表現の自由が危機に」
            ↓
https://www.youtube.com/watch?v=9nVSuAOJG_k

桐野夏生×金平茂紀 その3「今、表現の自由が危機に」
            ↓
https://www.youtube.com/watch?v=1WvSI8b2z0M

2020年11月23日のブログ「日没」
         ↓
https://blog.goo.ne.jp/keichan1192/e/12b49ff540065e99bed95f817dfab4cd

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ライオンのおやつ

2021-04-22 10:28:01 | ③好きな歌と句と詩とことばと
小川糸著『ライオンのおやつ』を読む。本を開くと字が薄い。
もしかして視力が落ちたのでは、と慌てて別の本を開くと
いつもの濃さだった。
読み終わって作者の趣旨がわかった。

33歳で余命宣告を受けた女性が、瀬戸内海にあるホスピス
「ライオンの家」に移り住む。
暗い内容を想像しがちだが、小説全体がやわらかい光をまとっている
ようで、それでいて押しつけがましさはなく、満たされた気分になる。

毎日、目の前に人参をぶら下げて、それを楽しみに生きる。
主人公は朝に出るお粥や、日曜日に出るおやつを楽しみにしている。
「レモン島」というだけあって、島全体にレモンの香りがするようだ。
新型コロナで気持ちが萎えている今、読みながら心が少し軽くなった。

追記
午前中に上の文章を書いてから、何か違和感があった。
この小説は「死が怖くなくなる物語」だと言う。
新型コロナは未知の病だが、死も未知のものだ。
未知のものへの恐怖は計り知れないものがある。私は死が怖い。

この小説は全てが解りやす過ぎるのだ。
まるでハウツーもののように、死を扱っていると言えなくもない。
私がへそ曲がりなのかもしれないが、この小説には毒がない
食べやすくやわらかい、やさしい味だけで出来ている。
小豆を煮る時に塩をひとつまみ加えるように、もうひと味欲しいと思った。

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音楽とラジオは 真の友

2021-04-12 08:35:04 | ⑤エッセーと物語
眼の痛みと頭痛の原因は、眼圧が高くなったことに因るものでした。
眼圧を下げる目薬を更に追加したところ、だいぶ和らぎました。
目は大切だと思い知りました。

こうなるとラジオと音楽が真の友です。
「NEWS23」のエンディング曲が「スピッツ」の「紫の夜を越えて」に
なったということで、ボーカルの草野マサムネさんに
インタビューしていました。

「スピッツ」は娘たちが高校時代に聴いていたバンドです。
私は50歳で仕事を辞めるまで、音楽を聴く余裕はありませんでした。
それでもさびの部分は覚えています。
娘たちと一緒に音楽を楽しめなかったことが悔やまれます。
今、70年代、80年代、90年代の曲を聴きながら、
青春を取り戻しています。



※自分が撮った写真をアップしても、侵入される危険性が
 あるようなので、写真を載せるのを止めます。


追記
2021年「通販生活 盛夏号」の付録に、次の言葉があった。
「目の寿命は70年、ご存知でしたか?
 白内障や加齢黄斑変性など、失明につながる目の病気は
 70歳を超えれば8割以上の人がかかります。
 つまり、目の寿命はせいぜい70年。平均寿命よりも短い」

やっぱり! 70を超えた頃から目の疲労度が増したように感じる。
老後は読書三昧をと考えている人も、その頃には目が付いて
いかなくなるかもしれない。
もっと衝撃的だったのは「ラジオ深夜便」での眼科医の言葉だ。
「私たちが子どもの頃は、目をそんなに使わなかった。
 だが今の子どもたちは、ゲームやらスマホやらで目を酷使している。
 将来、歳をとってから失明する人が増えるかもしれない」

寝たきりになるよりも、目が見えなくなるほど辛いことはない。
目を労わらなくてはと思った。
(2021年7月5日 記)
 
  

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書きたい映画や小説はあるのですが・・・

2021-04-03 08:25:53 | ⑤エッセーと物語
書きたい映画や小説はあるのですが、目の調子が悪く、
それに伴い頭痛がするので、しばらくブログをお休みします。
こういうご時世なので、くれぐれもお体にはお気をつけください。




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母影(おもかげ)

2021-03-05 10:00:35 | ③好きな歌と句と詩とことばと
尾崎世界観著『母影(おもかげ)』を読む。
ロックバンドのヴォーカル・ギタリストであり、この作品が
芥川賞候補にもなり・・・ということで、図書館から借りた。

変態マッサージ店で働く母と、小学校の低学年と思われる
少女の日常を描いている。
学校が終わると少女は、母が働くお店に行き、カーテンで仕切られた
隣のベッドで母を待つ。
カーテン越しに母の影が映り、声が聞こえる。

家でも学校でも店でも、鍵穴から覗くようにして
徹底して少女の目線で描かれている。
世間的には異常なシチュエーションでも、少女の目を通すと
それが至極当たり前に見えてくる。
その描き方は見事だ。そして
レジ袋の可燃ごみの中に縫い針が1本入っているような、
いつ針がレジ袋を突き破って指を刺すのか、読者は
はらはらしながら読み進める。

お母さんはお客さんのこわれたところを直している、と
少女は聞かされている。
少女はカーテン越しに起きていることが気になる。
たとえばお客が「あるんでしょ?」と聞く言葉もその一つだ。

終わりに近づくにつれて、同じクラスの男の子や
そのお母さんやお爺さんが出てくると、物語は一気に
フツーの小説になってしまう。
「あるんでしょ?」という言葉の意味を、少女に探らせるために
必要だったのだろうか。
物語のつじつまを合わせるために、必要だったのだろうか。
私としては少女の目線のまま、物語を進めて欲しかった。

少女はやっとお母さんに「あるんでしょ?」と聞くことができた。
お母さんは「あるよ」と答える。
「あるんでしょ?」が意味するものは推測できるが、この会話の
少女とお母さんのやり取りがよく理解できなかった。

心に残った言葉を引用させて頂きます。

元気よくはーいって答えて、コンビニに向かった。もらった
百円を落とさないように、強くにぎって歩いた。外は小さい
雨がふってて、風がなまぬるい。
水のにおいをすいながら、あったかい雨が体にくっつくのが
楽しかった。

コンビニに入ってすぐ左がアイス売り場だ。・・・
こうやってあたりのアイスを探すときはすごくおもしろかった。
ずっとさわってたせいで痛くなって、私はアイスから手をはなした。
手が元にもどるまでのあいだ、こごえそうな冬の中に頭を
つっこんで、つめたい空気をぱくぱく食べた。

やっと決めた一つを持って、レジでお会計をした。帰り道は、
おつりといっしょにもらったレシートをぬれたほっぺたに
くっつけて歩いた。あったかくてくすぐったくて、
私はちょっと笑った。

外はもうまっ暗になってた。ただ立ってるだけで、体が黒く
汚れてしまいそうな夜だった。まだ熱い私の体を、風がふいて
ふーふーさました。それは何かが私を食べようとしてるみたいで、
私はまっ暗な夜の中にいる何かをきょろきょろ探した。
お母さんの手はすべすべしてて、にぎってもにぎっても私の手から出て
いこうとした。私はやっと両手でつかんで、もうお母さんの
手をはなさないように歩いた。

外に出るともうまっ暗で、お母さんのツメの赤はもうほとんど
見えなかった。道も自転車も水たまりも、色をなくして
元気がなかった。なまぬるい風がふくたび、私は口をしめた。
それでも心ぱいだったから、口に夜が入ってきて歯が黒く
ならないように手でかくした。      (引用ここまで)

電柱に貼ってある「いけやまよしひろ」の選挙ポスターが
物語の中で効いている。少女の目線で見ると、大人が見るのとは
違って見えるのだろうなと思った。

追記1
3月7日の「情熱大陸」に尾崎世界観が出ていた。初めて見たが、
ゆで卵みたいに顔の皮膚がつるんとしていて、真っ直ぐな印象を持った。
書き記していなかったので間違いがあるかもしれません。
以前、目つきが悪いと言われたとかで、そのせいかは知らないが
前髪が目に入るくらいに伸ばしていた。
BUMP OF CHICKENの藤原基央も以前、お父さんにそう言われたとかで、
前髪を伸ばしている。

お風呂に入らない時は、寝室に入らないと言っていた。
リビングでもなるべく寝室から遠いラグに坐る、と。
彼が憧れている柳美里に会った時に、次のように彼を語っていた。
「人が気づかないことに気づくのが、作家の才能だと思う。
 人よりいっぱい傷ついて、いっぱい吸収して成長する人だ」

彼のような繊細な神経で世界を見ると、いろいろなものが
見えてくるのだろう。
時に、見たくないものまで見えてくることもあるだろう。

この番組を観終わってからなぜか、55年前の記憶が蘇ってきた。
高校2年生の時に、入院しているクラスメートを女子全員で見舞った。
その時に何の犯罪かは忘れたが、ある犯罪者の話になった。
殺人を犯した人は、周りにはおとなしい人で通っていたと言うのだ。
武家屋敷跡に住み、田舎の高校にしてはめずらしく、周りには
お嬢様と一目置かれている人がいた。その彼女が、
「おとなしい人の方が犯罪をおかすのよね。〇〇さんなんか、一番
 危ないわよね」、と笑いながら私のことを言ったのだ。
周りの人たちは笑っていた。
高校時代の私は、人とコミュニケーションを取るのが苦手で無口だった。

彼女は次の日には言ったことさえ忘れているだろう。
だが言われた方は55年経っても、思い出す度に怒りを覚える。
「〇〇さん、あなたの予測は今のところ間違っているわよ。
 私はいまだに犯罪を犯していないのだから」と言えたら
どんなにスカッとするだろう。

自分もどれだけ多くの人を知らず知らずに傷つけてきたのだろう。
言葉は刃だ、と思った。             (敬称略)
(2021年3月8日 記)






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チィファの手紙

2021-02-25 10:05:38 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
岩井俊二原作・脚本・監督の「チィファの手紙」を観る。
この作品は同じ題材で、日本と中国とで作られている。
日本での映画のタイトルは「ラストレター」。

あらすじは、
中学時代に妹が憧れていた姉のクラスの転校生は、
お姉ちゃんのことが好きだった。
二人は大学で再会し、交際が始まる。
だが姉はならず者と結婚してしまう。そして二人の子どもをもうけるが、
夫は蒸発し、姉は自殺する。
妹は姉の代理で中学の同窓会に出席し、姉の死を報告しようとする。
だが姉と間違えられ、スピーチまですることになる。
そこで憧れの転校生と再会し、手紙を介した物語が始まる。

脚本もさることながら、妹役のジョウ・シュンが抜群にいい。
遺された二人の子どもを見守る妹家族があったかい。
妹が、姉の息子に
「もういいから 大丈夫だから
 心配ないよ きっと大丈夫だから
 そんなに苦しまないで 分かってるよ
 大丈夫だから 大丈夫だよ 一緒に帰ろう」   (引用ここまで)

妹の子(Aとする)は、姉の娘(Bとする)が心配で
しばらく泊まることになる。

A:「あたしね、好きな人ができた
  この人好きかもって 気づいたのが12月
  隣の席の男子
  やっぱり この人のことが好きだって
  気づいたのが1月
  そのまま冬休みに入って
  そのまま気持ちが膨らんで
  もうどうしようもないくらい膨らんで
  そうしたら だんだん怖くなってきて
  冬休みが終わって教室で再会したら
  絶対 顔真っ赤になる
  授業中 彼が隣にいたら
  絶対 顔真っ赤になる

B:「まさかそれが登校拒否の理由?
  そんなこと?」

A:「言わなきゃよかった」

B:「いいじゃん そんなの大丈夫よ」

A:「だからね、わたし学校に行く
  今日 睦睦(ムームー=姉の娘)の話を聞いたら
  恥ずかしくなった
  自分はちっちゃいなって思った
  だから あたしも頑張って
  学校に行こうと思った 彼に会いに」    (引用ここまで)

妹が、姉の息子に
「泣いていいのよ 泣いたらきっと楽になる
 男の子も 泣いていいの
 いい子ね 泣きなさい   (引用ここまで)

当時の姉は、中学の卒業式で挨拶をすることになっていた。
姉のことが好きな転校生は文章を書くのが上手なので(後に作家になる)、
挨拶を見てもらうことになる。
その時の様子がフラッシュバックされる。

「本日、私達は卒業の日を迎えました
 中学時代は私達にとって
 おそらく生涯忘れがたい
 かけがえのない想い出に なることでしょう

 将来の夢は? と問われたら
 私自身 まだ何も浮かびません
 でも それでいいと思います
 私達の未来には 無限の可能性があり
 数えきれないほどの人生の
 選択肢があると思います

 ここにいる卒業生 一人ひとりが
 今でも そしてこれからも
 他の誰とも違う人生を歩むのです

 夢を叶える人もいるでしょう
 叶えきれない人もいるでしょう
 つらいことがあった時
 生きているのが苦しくなった時
 きっと私達は幾度も
 この場所を思い出すのでしょう
 自分の夢や可能性が
 まだ無限に思えた この場所を
 お互いが等しく 尊く 輝いていた
 この場所を」          (引用ここまで)

こんなに素晴らしい挨拶をした姉が・・・
姉の結末が分かっているだけに、涙が出た。
心が柔らかくなるような、いい映画だ。


追記1
同じ題材で同じ監督が作った日本版「チィファの手紙」を観る。
タイトルは「ラストレター」。
「チィファの手紙」は岩井監督が伸び伸び撮った様子が窺われる。
上にも書いたが、妹役のジョウ・シュンが抜群にいい。
軽妙な演技で笑わせたり、甥をいたわるシーンなど彼女なしには
この映画は考えられないほどだ。

とかく日本映画は、内容よりも客を呼べる俳優にスポットライトを
当てがちだ。俳優を引き立たせるために作られた映画ほど
つまらないものはない。
「ラストレター」の出だしは妹役の松たか子から始まる。
声が甲高い。(歳をとると高い声が苦手になる。)
美人で明るくて素敵なお母さん、もしかして彼女のために作られた
映画なのだろうかと不安になった。
以前テレビでラグビーを題材にしたドラマを観たが、
その時は夫や息子を怒ってばかりいる役だった。
怒るにしてもそれぞれ状況が違うはずだが、ワンパターンだった。
今回は明るい役だが、明るさが独りよがりで平面的なのだ。
このままドラマは進行してしまうのだろうか。

だが脇を固める役者に救われた。
木内みどり、森七菜、豊川悦司、中山美穂。
妹の子の役の森七菜は、自然な演技が際立っている。
これは天性のものなのだろうか。
「チィファの手紙」では、ならず者の夫の肩書くらいしか語られていない。
「ラストレター」では、豊川悦司によって彼の苦悩やそうせざるをえなかった
心の内を生身で知ることができた。
中山美穂は、下に書く「ラブレター」から25年が過ぎ、堂々とした
女優に成長していた。そして
最初に感じた私の危惧を吹き飛ばすようにして、映画は終わりを迎える。
だがやはり私は、「チィファの手紙」が一番好きだ。

最後に、岩井俊二監督三部作の最初に撮られた「ラブレター」を観る。
冬山が美しく印象的だ。
初々しい中山美穂が二役を演じ、ファンにはたまらないだろう。
この映画も、中山美穂のためにあるような映画だった。
それにしても、25年前も豊川悦司は相も変わらずうまい。
岩井俊二監督には伸び伸びと、外国で映画を撮って欲しいと
個人的には思った。
(2021年3月17日 記)

追記2
私は森七菜を「ラストレター」で初めて知ったのだが、
第44回 日本アカデミー賞の新人優秀賞に選ばれていた。
おめでとうございます。これからが楽しみな役者だ。
(2021年3月20日 記)

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げいさい

2021-02-16 17:39:27 | ③好きな歌と句と詩とことばと
ツイッター上で、会田誠「げいさい」と書いてあるのを何度か
目にしたが、何のことか分からなかった。「げいさい」とは何ぞや?
図書館の新刊コーナーでそれが小説だということを知った。
会田誠著『げいさい』を読む。

会田さんの作品は、2013年に「天才でごめんなさい」を観ただけだ。
その時のことをブログに書いている。
        
「これでもかというくらい煩雑で残酷な作品にあっても、
 清浄で品のあるやさしさ、のびやかさを感じる。
 これは少女を描く時に際立つ。
 彼のやわらかい筆致や心根、そして男性ということにも拠るのだろうか」

この印象は小説を読んでも変わらない。
自分に誠実だという思いを、より強くした。
私は私小説として読んだのだが、違うかもしれない。
主人公は2浪して芸大を目指している。
1浪していた時の仲間の、「多摩美芸術祭ー通称「芸祭(げいさい)」
に加わった1986年の一日を描いている。

「行き交う人々の多くははしゃいでいる。無理もないーー年に一度の
 無礼講的なお祭りなのだ。この三日間だけは学生の自治が認められ、
 普段は地味なキャンパスが異空間に生まれ変わるのだ。
 何らかのビジュアルものを作るプロを目指す美大生なら、
 さぞや腕が鳴ることだろう」

「芸祭は・・・まさにオレたちの青春だった・・・クサいこと言っちゃう
 けどさ。それが終わっちまうってことなんだよォ!」

絵の予備校の仲間をはじめ、様々な人が出てくる。
これだけ登場人物が多いとごちゃまぜになるのだが、その一人一人が
くっきり浮かび上がってくる。そして時空を超えた展開にも、
すっと入っていける。余計な言葉を使っていないからなのか、
構成が見事なのか、気持ちよく読めるのだ。

主人公は予備校で、芸大に入るための訓練を徹底的に受ける。
だが入試の実技の課題は「自由に、絵を、描きなさい」
鎮魂のために絵を描く。

「廊下の方で試験終了の鐘が鳴り響いて、僕は我に返った。
 もはや自分の絵の良し悪しをあれこれ斟酌するような心境ではなかった。
 こうする他はなかったーーやれることはすべてやったーー
 という清々しい充実感だけがあった。こうして暫定的に描くことが
 終了した自分の絵を、僕は堂々と誇りを持って、真正面から
 見ることができた。にわかに感動がこみ上げてきて、
 落涙こそしなかったが、僕の目は涙で溢れ返った。

 こうして僕は芸大に落ちた。」     (引用ここまで)

誠実で繊細で品のあるやさしさ、あたたかさに満ちた文章は、
若い人たちが生きていく上でのマイルストーンになることだろう。
本のタイトルを、「芸祭」とせずに「げいさい」にした気持ちが
わかった気がする。

2013年4月2日のブログ「天才でごめんなさい」
           ↓
https://blog.goo.ne.jp/keichan1192/e/efdb5a424993e713b138caa6245d116f







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短歌のまとめ Ⅰ

2021-02-07 09:32:49 | ⑯第一歌集 『ふたりご』・その他
私は2004年に短歌を初め、2014年に唐突にやめてしまった。
それからの6年間は短歌とは無縁の生活を送ってきたのだが、
最近になって春日真木子さんを詠んだ歌について書いたのをきっかけに、
古いノートを引っ張り出してきた。
懐かしいと同時に、いろいろなところに歌を送っていたことに
われながら驚いた。
「NHK短歌」、「NHK全国短歌大会」、「朝日歌壇」、
朝日千葉版の「歌壇」、現代歌人協会主催「全国短歌大会」などなど。

たくさん出詠してはたくさん落とされた。
それでも時に選歌されると励みにもなった。
短歌の“た”の字もわからずに初めた私だが、選歌されることで
少しずつ短歌というものが解ってきたように思う。
それまで「百人一首」を読んだことがなかったが、市民講座で
本が1冊あまっているということなので、頂くことにした。
古文は苦手だったが、内容が解らないなりに毎日音読していると、
だんだんリズムが掴めてきた。

今後、新型コロナウィルスに感染して、この世とおさらばする日が
突然来るかもしれない。そうなる前に
選歌して頂いた歌をブログに残そうと思います。
選歌してくださった方々に感謝します。有難うございます。

(1)NHK短歌(佳作は2カ月遅れで本に載ります)

①2008年3月号 高野公彦選 佳作(怒る) 
噴門より入(い)りて幽門出(い)でゆきぬ夕べの怒りすこしこなれて

②2008年8月号 栗木京子選 佳作(抜)
大鰺(あじ)の腸(わた)を抜かむと入(い)る指が
 やはきに触れて一瞬ひるむ

③2009年4月号 川野里子選 佳作(帰る)
帰るたびグンと伸びゐる実生(みしやう)の木 
 廃家となれるふるさとの庭に

④2009年5月号 栗木京子選 佳作(左)
左手に痛む右腕さすりやる永井陽子のうた写し終へて

⑤2009年6月号 加藤治郎選 佳作(恋)
〈光の春〉を教へてくれし日は過ぎて
 ひだまりに夫(つま)は爪を切りをり

⑥2009年7月号 加藤治郎選 佳作(食べ物)
定型になると饒舌 あはび・烏賊・まぐろに海老とちらしに溢る

⑦2009年8月2日放送 今野寿美選 一席(煙)
ピシピキと薪の火はぜて煙立ついつかは終はる子と過ごす夏

今野評
一家でキャンプ。火がはぜる音を個性的に添えて楽しい場面を
浮かばせた。親子で過ごす夏は子が少年少女期のうちだけ。
母の率直な見きわめに情感が漂う。

⑧2010年1月号 東直子選 佳作(白)
人群れがわれに向かひて押し寄せる白き朝(あした)は過呼吸になる

⑨2010年1月24日放送 東直子選 一席(器)
永久凍土けふも融けゆくこの星の洗面器にてかほを洗へり

※歌集では新仮名遣いにしたが、やはり旧仮名遣いが生きる歌だと思う。

⑩2010年8月号 加藤治郎選 佳作(雨ーテーマ詠)
雨の日のわが間脳はゆるびゐてとろとろとろとろ魚のねむり

⑪2010年9月号 東直子選 佳作(宿)
鯉と鯉しづかに淡くすれちがふ死者のたましひ宿せるごとく

※これより新仮名遣いになります。

⑫2010年10月号 加藤治郎選 佳作(昭和ーテーマ詠)
横丁の文化がひとつ無くなりぬ銭湯で飲むフルーツ牛乳

⑬2010年10月号 東直子選 佳作(島)
団塊の星と呼ばるる島耕作すべて手に入れいかに老いゆく

⑭2010年10月24日 ニッポン全国短歌日和(NHKBS)100選
打っちゃりの決まったような秋の空どこまでもどこまでもこすもす

⑮2010年10月24日 ニッポン全国短歌日和 花山多佳子選(打つ)
石打ちて火を熾(おこ)したる古代人そのあつき掌(て)に触れたき夕べ

⑯2011年2月13日放送 加藤治郎選 入選(思い出ーテーマ詠)
ぎしぎしとわたしの髪を洗うのはリウマチを病む前の母の手

⑰2011年5月8日放送 花山多佳子選 入選(扉・戸)
ノックをせずに扉をあける人と居て知らぬまにわれはゆるびていたり

⑱2011年8月号 花山多佳子選 佳作(呼ぶ)
ウランちゃん、アトムと呼びし科学の子 五十年経てその姿知る

⑲2011年9月号 来嶋靖生選 佳作(山・川)
汗かきて乳房(ちぶさ)冷えゆく初夏(はつなつ)の
 山にひびかう時鳥(ホトトギス)の声
         
⑳2011年9月号 花山多佳子選 佳作(葉)
蓮の葉の漏斗(ろうと)のような窪みへときるきる雨が吸い込まれゆく

21 2011年9月号 坂井修一選 佳作(輝)
輝ける柿の若葉はいろを増しわれにこんもり木陰をつくる

22  2011年10月号 坂井修一選 佳作(戦争)
気の弱き父が一番撲(う)たれしと共に戦争に行きし人告ぐ

23 2012年3月号 佐伯裕子選 佳作(橋)
濁流の橋脚を揉む映像がいくどもいくども巻き戻される

24 2012年4月号 花山多佳子選 佳作(穴)
口だけがひとつの穴であることの止むことのなき友のおしゃべり

25 2012年6月号 坂井修一選 佳作(子)
子の内に何歳(いくつ)のわれが棲むならむ二十年のち、五十年のち

26 2012年8月号 来嶋靖生選 佳作(涙)
超音波画像に胎児と会える子の涙は枕につつっと落ちぬ

27 2012年8月号 花山多佳子選 佳作(鏡)
四十年、黒縁眼鏡に笑いいる写真一枚残さぬ人は

28 2012年12月号 坂井修一選 佳作(電車・汽車)
身長の三分の二ほどの籠を背負(しょ)い行商のおうな電車に乗りくる

29 2013年3月号 花山多佳子選 佳作(鉄)
鉄さびが轍(わだち)のごとく残りたり形見のハサミに白布裁ちて

(2)NHK全国短歌大会

①2006年1月14日 石田比呂志選 秀作(自由詠)
空砲の鳴る畑道(はたみち)をゆく朝(あした)
 やらねばならぬこと何もなし

②2006年1月14日 稲葉峯子選 秀作(題詠―光)
火屋(ひや)の母 灰となりたるその中に人工関節赤く光れり

③2006年1月14日 入選(自由詠)
風に揺れ凌霄花(のうぜんかづら)ひとつ落つ
 母に背(そむ)きし夏の思ほゆ

④2008年1月26日 入選(自由詠)
大ぶりの茶碗に飯(いひ)を食(は)みてをり
 旅に出(い)でたる君に代はりて

⑤2008年1月26日 入選(題詠―声)
北の果てノールカップにいま立つと夫(つま)の声きく午前三時に

Ⅱにつづく
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短歌のまとめ Ⅱ

2021-02-07 09:30:55 | ⑯第一歌集 『ふたりご』・その他
(3)市の広報や市の短歌大会・現代歌人協会主催「全国短歌大会」・その他

①2005年6月16日 広報
鎌首をもたげるごとく茎伸ばしアロエは初の莟(つぼみ)をつけぬ

②2005年8月16日 広報
祭りから帰る幼(をさな)の足取りは太鼓の音になほ踊りゐる

③2005年9月16日 広報
意志をもち歩き初(そ)めたる孫ちひろ
 地球を感じよその足裏(あなうら)に

④2006年1月16日 広報
ぬばたまの黒き鳥なる大鷭(おほばん)の額(ぬか)のみしろく神は創れり

⑤手賀沼短歌
手賀沼の水面(みなも)にひかり転(まろ)びゐて長雨あとの心躍らす

⑥2005年10月 市の短歌大会 池田弓子選
笑顔のみ思ひ出さるる亡き父よ生垣に咲く満天星(はくちやうげ)のごと

⑦2006年10月28日 市の短歌大会 小池光・依田仁美(よしはる)・市長選
蝉の声重なり合ひてギシギシと空を軋(きし)ます終戦記念日

⑧2007年10月28日 市の短歌大会 依田仁美選
吹きゆきし風のゆくへをたどるごとけやき青葉は波打ちてをり

⑨2011年10月22日 市の短歌大会 4位 蒔田さくら子・依田仁美・
 榊原敦子・市長選
火の見えぬファン・ヒーターに暖をとる輪郭のなき冬のいちにち

⑩2008年10月19日 明治神宮総合歌会 佳作
嫁ぎたる子より着信けふもなし初生りトマトを滴らせ食ぶ

⑪2007年9月号 短歌研究 予選通過作品
雀は鵯(ひよ)と交はることのあらざるや鵯の木のあり雀の木あり
                       鵯=ヒヨドリ

⑫2007年9月号 短歌研究 予選通過作品
エニシダは黄(きい)の光をまきちらす二度と還らぬこの一瞬を

⑬2007年11月25日 角川「短歌」 久々湊盈子選(喫茶店)
初めてのデモに終電乗りおくれ深夜喫茶に朝を待ちゐき

⑭2009年3月11日 角川全国短歌大賞 参加作品
冬空を噴き上げゐたる水ふいに止みていつきに我も落ちゆく

(4)現代歌人協会主催「全国短歌大会」

①2006年10月14日 春日真木子選 選者賞
山おほひ送電線をものぼりゆく葛とふ姓を子は嫁してもつ

②2006年10月14日 三枝昂之選 佳作
ラーメンの汁飲み干して汗ぬぐふこの煮干し味三十年ぶり

③2007年10月13日 加藤治郎選 佳作
病もつ前にタイムスリップをしたしと子のいふ七夕の夜

④2008年10月11日 松平盟子選 佳作
クリップに散(ばら)ける紙を留むるごと職退きし夫は気を使ひをり
                     退=ひ、夫=つま

⑤2009年10月3日 坂井修一選 佳作
白米がバターライスになつたやう付け睫毛ながき姪の笑顔は

⑥2009年10月3日 花山多佳子選 佳作
「すしのこ」の匂ひがするとをみなごの髪を娘は拭きてまたかぐ

⑦2010年9月23日 沖ななも選 佳作
プレミアムモルツのやうに君だけが光りつつ来るカートを押して

⑧2011年10月15日 久我田鶴子選 選者賞
葉洩れ日のなかに咲きいる柿のはな乳歯のごとき光を返す

⑨2011年10月15日 小高賢選 佳作第二席
割烹着のポケットにいつも入ってた母が拾いし輪ゴムが二、三

⑩2011年10月15日 松平盟子選 佳作
新旧の石鹸ひったり貼られおり壮年の夫をわれは知らざる
                     夫=つま

Ⅲにつづく
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