トキのキンちゃん (レインボーえほん)いもと ようこ岩崎書店このアイテムの詳細を見る |
人間達は、地球上の仲間である多くの生物を、自分達の都合で滅ぼしてきました。ニュージーランドのモアも、北アメリカのリョコウバトも、現在はこの世界から姿を消しました。
日本でも、昔から日本中に生息し、人々に馴染みの深かったトキが滅んで行きました。学名のニッポニア・ニッポンをいう名前を残して。
その美しい羽をとるための捕獲と、田んぼにまかれた農薬により、次々と死んでいきました。
最後の一羽の「キンちゃん」に関するお話は、いくつも書かれました。本書は、キンちゃんと宇治金太郎さんの心の交流を描いた作品で、たくさんのメッセージを含んだ本です。読者自身が、それぞれに投げかけられたメッセージを受け止めることです。
キンちゃんと呼ばれるのは、金太郎さんの名前に由来します。
ある日、田んぼで発見されたたった一羽のトキの子どもがキンちゃんでした。保護センターは、このトキを捕獲しようと試みましたが、うまくいきません。そこで、宇治金太郎さんに依頼をします。金太郎さんは、毎日同じ時間に、同じ服装で、キンちゃんのいる田んぼに出かけていきました。今まで、人間によって痛めつけられてきたトキの心を開くのは困難なことでした。でも、あきらめずに続けた行為により、キンちゃんは、金太郎さんには心を開き、金太郎さんの手から餌のドジョウを食べるようになります。やがては、金太郎さんに甘え、ひざの上で昼寝をするまでになりました。
金太郎さんの思いとは別に、保護センターでは捕獲の催促を執拗に金太郎さんに続けます。
金太郎さんは、捕獲をいつも明日へと先送りしていました。
そのうちにも、センターによる網を使った捕獲作戦が何度も行われ、キンちゃんは、ついには、金太郎さんが読んでも姿を見せなくなりました。
餌の少ない冬場、吹雪の中を金太郎さんのキンちゃんを呼ぶ声がする日が続きました。
ついに姿を現したキンちゃんは、金太郎さんの腕の中で、幸せそうに抱きしめられました。でも、今度は、キンちゃんを捕まえてセンターに渡さなければなりませんでした。心の中で、何度も詫びながら、キンちゃんをずっと抱きしめるだけでした。涙がぼろぼろ流れます。いつもと違う様子に、キンちゃんの悲しい声が田んぼ中に響き渡りました。
ケージの中で暮らすようになって、「キンちゃん」という名前が付けられたのです。
金太郎さんは、キンちゃんのために毎日神社へお参りに出かけました。
やがて金太郎さんも亡くなり、キンちゃんも、人間でいえば100歳となりました。その間に、保護されていたトキたちも次々に死んでいきました。
2001年10月10日午前6時29分。日本最後のトキ「キンちゃん」は金太郎さんのいる場所に飛び立ちました。
それまでケージの中で眠っていたキンちゃんが、突然飛び立ち、ケージの扉に衝突したのでした。何を夢見て、どこへ向かって飛翔したのでしょうか。