神なる冬

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[SF] シリンダー世界111

2011-04-03 21:08:40 | SF
『シリンダー世界111』 アダム=トロイ・カストロ (ハヤカワ文庫 SF)




「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」で一躍有名になったアダム=トロイ・カストロの日本初長編。タイトルどおりの巨大構造物にして、ハードボイルドタッチのミステリ。

読み終わってみて、ミステリとしての出来はどうかと思った。whoこそはっきりしているが、howもwhyも実は明確にされていない。そもそも、信頼の出来ない証言が多すぎて、本当にそれが真実なのかと考えてしまう。

〈AIソース〉、ないしはその一部が、ある程度思考をコントロール、というか、背中を押すことが出来るならば、実行犯はまさに実行犯でしかないわけで……。

そもそも〈AIソース〉が「実験」とか言い出した段階で、どうしてその証言を全面的に信用して、それが真実だと言えるのだろうか。そもそも、“少数派”なるものが存在するのであれば、その派閥はいくつ存在しているのか。となれば、〈AIソース〉として会話しているのは、いったい“誰”?

しかし、ミステリとして非常に評価しているブログもあるので、実は何か読み落としているのかも。

巨大構造物としての魅力もいまいち。設定ほどの大きさが無くても成り立つ話。ドラゴンの生態や、“地上”の状況まで描いて欲しかったと思う。

しかし、一方で、主人公の幼少時代のエピソードや、111に生息する知的生物〈ウデワタリ〉の生死感などは非常に興味深い。それだけでおつりがくるレベルだ。

確かに、亡霊とか半亡霊とか言われれば、どう考えても宗教的な死後の世界を創造してしまうからなぁ。あれは、なるほどと感心してしまった。

そういった意味では、宣伝にあるような巨大構造物SFでも、ハードSFミステリでもなく、異文化コミュニケーションと、心の癒しの物語と考えたほうが良いのだろう。

このシリーズはしばらく続くようなので、結局のところ、〈AIソース〉がどこまで真実を語っていたのかは今後の作品で明らかにされるのだろうと期待しよう。




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