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[SF] SF Japan 2011 SPRING

2011-04-03 23:06:08 | SF
『SF Japan 2011 SPRING』 SF Japan 編集部/編 (徳間書店)




前回、また休刊しちゃうよ、と書いたら、本当に休刊が決まった。SF新人賞が休止ということは、そのときにもう決まっていたのかも知れないけど。

今回は日本SF大賞の発表と、休刊記念で、歴代日本SF新人賞受賞作家の大競演。

日本SF対象は森見登美彦の『ペンギン・ハイウェイ』と、長山靖生の『日本SF精神史』。

『ペンギン・ハイウェイ』は森見作品の中でも異色作だが、非常に好きな作品なので文句は無い。ただ気になるのが、選評の中に出てくる“ドーム説”とか、“宇宙船説”って、意外な解釈どころか、最初に考えて途中で否定されるもんだろ、フツー。

『日本SF精神史』は、……いずれ読みます(笑)

もうひとつの日本SF新人賞出身作家大集合は、まさに玉石混淆というか、わりと実力差がはっきり見えるような気がする。SF的な発想はありがちなものであっても、小説としてきれいにまとめていたり、SF的な発想は良くても、小説としてはいまいちだったり。両方すばらしかったり、両方ダメダメだったり。

日本SF作家新人賞出身の作家といえば、三雲岳斗くらいしかネームバリューのある作家がいない。これを作家陣の実力と見るか、編集部の責任とみるかは微妙なところ。両方の責任なんだろうけど、SF新人賞も、小松左京賞も、けっきょくブレイクするのはハヤカワでというところが、日本SF界の問題なのかもしれんね。

SF大賞を森見登美彦が受賞するぐらいの守備範囲の広さがあるのだから、『SF Japan』にもそういう幅広さを見せてもらいたかったような気がする。でも、そうなるとSF専門誌じゃなくなって、居場所が無くなっちゃうのかね。だいたい、『SF Japan』よりも『問題小説』が売れているって、個人的にはまったく信じがたい。いったい誰が読んでるんだ、あんな中途半端な小説誌(笑)



△:「結婚前夜」 三雲岳斗
現実世界(レガシー)をアナログLPへ、バーチャル世界(ロスレス)をデジタルデータへ喩えたような作品。二つの世界の分断を、娘の結婚に重ね合わせて描いた感動作ではあるが、ロスレスが魔法の国でしかないのが不満。こう言っては悪いが、SFマガジンだとリーダーズストーリーのレベル。

○:「目を探す」 青木和
震災の直後に読んだので、そのオチは無いわーと思った。世にも奇妙な物語の脚本みたいな話。

△:「大切な足枷」 杉本蓮
タイトルの足枷は電子書籍に対する本物の本。想定する未来に共感できないので、その先の回顧には、なおさら共感できない。

△:「グレゴリィ、手伝って」 谷口裕貴
ファンタジー世界の一節。長編の一部抜粋にしか思えない。

△:「逝きし世のための輪舞」 吉川良太郎
なんか懐かしくてニヤッとする。逆に言うと、デビュー以降を知らない。なんと、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』にかかわっているらしい。

△:「夢の中から」 井上剛
4次元的な動きで3次元物体を、無から有を作るかのごとく発生させるというアイディアか、と思っていたので、最後のオチが意外だった。

△:「新殖生命体メビウス その愛の墓標」 坂本康宏
ありがちな設定なのだが、読ませる。アニメや漫画の日本SFのコンテキストを背負った作品。

△:「ミレニアム・パヴェ」 三島浩司
SFマガジンで『ダイナミックフィギュア』の抄録を読んだときの感想と同じ。細かい設定が裏にあるんだろうけど、短編ではその内容がまったくわからないので、何が起こっているのかさっぱりわからない。この人、短編には向いてないと思う。

○:「一千億次元の眠り」 八杉将司
一千億次元の視点を持った男が、混乱する火星社会をどう見たのかを描いて欲しかった。眠りの理由が特異点ではお粗末すぎる。

△:「ヒッチハイク」 北國浩二
『レベルE』みたいな掌編。

△:「終わりなく、終わりなき」 片理誠
SF的な世界に惹き込まれたと思ったら、やっぱりそれかい。まさしく“終わりなき”だな。

○:「ジャック&ベティのある一日」 タタツシンイチ
アメリカ人、FUCK、FUCK、FUCK!

○:「水よりも濃い」 樺山三英
《みんな》と《誰か》の空気の怖さ。

△:「病札」 木立嶺
SF(科学)的ではなくとも、“理屈”は存在するのである。

△:「イン・ザ・ジェリーボール」 黒葉雅人
参考文献「藪の中」芥川龍之介

○:「日没までつきあって」 中里友里
映画になりそうなシーンが印象的。

△:「宇宙ver.0.978333141726β」 天野邊
あいかわらず何じゃこりゃとぶっ飛ぶ作品。ただ、いつも現行技術に引きずられすぎている気はするんだよね。

△:「宇宙への旅立ちとその現実」 杉山俊彦
前振りは何のエクスキューズなんだろう。最近の読者はこういうのが無いと理解できないってこと?

○:「冬の星のジュノー」 伊野隆之
こういうのも、ひとつの生態系とでもいうべきか。

△:「アーリーラプチャー」 山口優
仮想世界への昇天の話だとした場合、今後の聖戦が意味するものは何かということが興味深い。

※以上、日本SF新人賞作家競演※

△:「偽装結婚を粉砕せよ!」 森奈津子
なんかありがちすぎて、森奈津子にしてはインパクトが薄い。

○:「英雄蝿」 詠坂雄二
文語調がひたすら読みにくいと思っていたが、読み終わるまでには慣れた。こういう和ファンタジーもたまにはいいものだ。

×:「鏡と踊れ」 若木未生
話がわからない。読み切りじゃないんじゃね。



読み切りが20+3篇も載っているのに、◎がひとつもなし。これじゃ休刊も仕方ないかね。強いてあげれば、中里友里とか、伊野隆之の泣かせ系が上位に来る。日本SFの方向性としてはこれでいいかもしれないのだけれど、やっぱりキャンベルに当たるような編集者がいないと、SFである必然性を持った作品は、生まれて来ないような気がする。



【追記】
◎の位置づけについて、他の評価と比べて不当に低いような気もするので、もうちょっと考えてみようと思ったものの、いくつか読み返してみても、評価は下がりこそすれ上がったものがない。やっぱりこんなものだろう。



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