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[SF] 動乱2100

2011-04-17 19:21:33 | SF
『動乱2100』 ロバート・A・ハインライン (ハヤカワ文庫 JA)


〈未来史〉シリーズの3巻目。形の上では最終巻なのだが、完結篇でもなんでも無い。

これまでの2冊とはうってかわって、宗教革命により退行した地上が舞台の「もしこのまま続けば」が半分以上のボリュームを占め、さらに、その宗教国家が倒れた後の社会を描いた「疎外地」が続く。最後の「不適格」は再び宇宙へ向けて乗り出した人類を雄雄しく描く……というよりは、今となっては、『メトセラの子ら』の某キャラクターの登場が描かれる、という方が重要か。

〈未来史〉シリーズは宇宙開発を中心に人類の未来を描いてきたが、2巻と3巻目の間に入るべきエピソードが書かれていないらしい。

このシリーズはもともと連作として書かれたわけではなく、ハインラインがアイディア構築のために作っていた仮想年表をキャンベルが公式に採用したものだという。おかげで、ハインラインはこの年表どおりに作品を書かざるをえなくなっていったとか。

そのため、シリーズとしてまとめられてしまうと、いささか不統一感や抜けが出てしまうのは仕方が無いのだろう。しかも、この後ろには『メトセラの子ら』が控えているとあって、最終巻だというのに、完結のカタルシスはまったく無い。

連作集じゃなくて、短編集だと思って割り切るしかないのだが、読後感のもやもやはなんともしがたい。

『メトセラの子ら』の後は、『愛に時間を』やら、最後の長編『落日の彼方に向けて』まで、さらにラザルス・ロングシリーズを書き続けるわけだから、〈未来史シリーズ〉は終わっていないとも言える。

そうは言っても、宗教革命の話が無いと、やっぱり収まりが悪いよな……。



「もしこのまま続けば」
これまでの流れを期待して読むと、いきなり中世風な話から始まるので、カバーを掛け間違っていて別な本を買ってしまったかと思うくらいの衝撃。
内容は前後でまったく別な話をくっ付けたかのよう。前半はお姫様と衛兵のかなわぬ恋を描いたかと思いきや、後半はお姫様はすっかり忘れ去られて、(物語中ではお姫様が衛兵を振ったわけだがw)宗教国家と化したアメリカで革命を起こすまでが描かれる。
内容的には凡庸と言わざるを得ないのだが、タイトルが意味深。もしこのまま、いったい何が、続けばこうなってしまうと言っているのだろう。
国家的プロパガンダによる情報統制と、宗教という否定しずらい枠組みが結びついたとき、第二次世界大戦を引き起こしたファシズム以上の悪しき国家が生まれる。
この短編が執筆された1939年は、なんと、ドイツ軍のポーランド侵攻の年である。これはファシズム国家の恐怖と、その打倒をテーマとした作品なのだろうか、それとも……。

「疎外地」
宗教国家が革命によって打倒された後のアメリカ大陸を舞台に、社会に適用できないものたちが追放される“疎外地”での物語。疎外地に形成された3つの国家が何を意図したものかは、時代背景を考えた方がいいのか悪いのか。
一方で、犯罪者に対して、自主的な精神矯正か、はたまた社会外への追放かという刑罰のあり方は、どちらも現代社会では受け入れ難いように思われ、これは時代背景抜きには解釈できないテーマかもしれない。

「不適格」
適材適所、スクールカーストのオチこぼれに対するエールとなるジュブナイル作品。ハインラインは保守系タカ派ではあるが、こういうnerd系の主人公が知恵と勇気で困難を乗り越えるという話が好きだよな。精神的にはマッチョでも、肉体的にはマッチョじゃないというか。



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