『エターナル・フレイム』 グレッグ・イーガン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
『クロックワーク・ロケット』に続く〈直交宇宙〉3部作の2作目。
こことは違う宇宙にて。母なる星を救うために、直交方向(!)に巨大ロケット〈孤絶〉が飛び立って数世代後。主人公たちは曾孫世代。前巻の主人公ヤルダは伝説と化していながらも、彼らは限られた資源のために過酷な人口制限を課しながらも、世界を救う手だてを模索し続けていた。
この巻で語られるのは、物理学における光の波動性の発見と、(なんと!)反物質の発見。さらに生物学における感染と遺伝を司るしくみの発見。
とにかく、この世界は物理法則さえも“ここ”とは違う世界。主人公たる種族の生態すらも明らかではない。それでも、彼らの感情や葛藤を表す言動を読んでいると、彼らが人間ではないことを忘れてしまう。だからこそ、この世界がこの世界でないことを忘れ、ふとした描写に混乱する。
正直言って、大学院(工学系だけどさ!)まで出た身でありながら、この世界の直交数学を理解できているかというと心もとない。そうなるというんだからそうなんだろうさというレベル。それでも、ああこれはド・ブロイ波、これは波動方程式と連想できるようになっているので、なんとかついていくことができたと思う。しかしながら、量子論は上っ面しか理解していない(=理解できていない)ので、結論が正しいのかどうかはまったく分からない。いやまあ、間違っているわけはないのだけれど、頭の中の霧が晴れるような納得感は無いよね。
世界の秘密を暴いていくタイプのSF小説は好きなんだけど、こういう形で物理法則を紐解いていく(あるいは、組み立てていく)小説は初めてだ。どちらかというと、シュレーディンガーの偉人伝を読んでいるような感覚だった。
さらにそこに彼らの生物としての驚異的な発見が重なる。最初のうちは生物ロボット論的な、神経電位の発見と制御の話になるのかと思いきや、なんと彼ら生命体としてのもっと本質的な性質を暴くことになる。個人的にはこちらの発見のエピソードの方がスリリングであり、エキサイティングだった。
量子論は脇においておいても、こっちのぶったまげる生態(というか生命形態)のネタだけでも充分過ぎるので、物理学わからんという人でも楽しめそう。特に、雌が四分割で分裂という独創的な繁殖方法が生み出す社会と、その差別的構造に関しては現代ジェンダー論の立場から読んでも、いろいろと複雑で示唆に富んでいて、必読なのではないかと思った。
第2部は第1部を超える難解さとなってしまったので、第3部は、もうちょっとエンタメよりのクライマックスを迎えるらしいとはいえ、ちょっと恐れながらも期待して待とう。