『宇宙の眼』 フィリップ・K・ディック (ハヤカワ文庫 SF)
積読消化。というより、去年の10月ぐらいに、ブックカバー応募目当てに「凛々しい物語。ハヤカワ文庫の100冊フェア2015」で購入した本。だって、他のは既読ばっかりだったんだもの。
ブックカバーは見事にハズレたようですけどね……。
で、感想ですが、1957年に出版されたにしては、今読んでも普通におもしろい。さすが、P・K・ディックの出世作。
主人公たちが誰かのインナースペースに紛れ込んでしまうという設定は、現代のいろいろな物語(ほら、ハルヒとかもあれだよね)の原型と言ってもよい。
ただし、時代を感じさせる部分もあり、その最大のものがコミュニストに関する記述。アカって、当時は本当に社会の敵だったのだ。
主人公たち8人は「60億ヴォルトの陽子ビーム」を浴びて気を失い、気付いた時にはこれまでの現実とはちょっと違う世界にいた。この世界というのが主人公たちの誰かの頭の中という設定。(超絶ネタバレ)
おもしろいのは、それぞれの世界が、よくある思想を茶化したこっけいで陳腐なものになっているところ。(キリスト教ではなく、それとは明示的に異なる第2バーブ教とされているものの)聖書原理主義者、倫理的潔癖症、オカルトマニア、そして、コミュニストの世界をめぐり、それぞれの世界が実現したときの薄気味悪さや理不尽さがこれでもかと描かれる。
コミュニストはともかく、他の思想を実現しようとしている人々は今でもいるし、特にラディフェミ関連はtogetterあたりを舞台に反フェミと罵倒合戦(#まなざし村)を繰り広げていたりする。ディックが取り上げた過激思想の鬱陶しさとか、それが実現した暁のディストピア感は現代でも共感できるものだった。あの界隈は60年も変わっていないのだなと思うと、本当に感慨深い。
後年のディックは理解できない変人だけれど、やっぱり初期のディックは好きだな。