処女長編にして、ヒューゴー&ネビュラのダブルクラウンをはじめ、全7冠という驚異の評価を残した作品。
分類的には、ニュー・スペース・オペラとか、ワイド・スクリーン・バロックとかになるのかな。かつて宇宙戦艦(!)だった主人公が、宇宙を支配する皇帝アナーンダ・ミアナーイへ復讐を挑むストーリー。
SF的なネタとしては、属躰(アンシラリー)と呼ばれるものがメインだと思う。属躰はいわば働きアリのようなもので、複数の個体が単一の意志や思考を持つ群体として存在している。属躰のひとつひとつは、クローンだったり、元は普通の人間だったりする。
主人公のブレクは戦艦、および、その乗組員としての群体であったが、艦を失い、たった一人の属躰として取り残されている。そして、彼女(属躰の三人称はすべて女性系)の過去の記憶から二つの事件が断片的に語られることにより、彼女の復讐の理由が明らかになっていく。
もうひとつのネタである、ジェンダーの存在しない社会というのは、この属躰の副産物なのではないかと思う。つまり、働き蟻なのであれば、全員女性なのだろうさということ。
そういった意味では、この作品をジェンダーの方向から読むのはあんまり意味が無いと思うんだけど、どうだろうか。確かに、言語的にはすべて女性型として語ることによる混乱は異化効果をもたらし、物語的なスパイスにはなっている。しかし、やはり複数群体である皇帝アナーンダは複数の年齢のクローンを含み、そこから生まれるちょっとした混乱も読者に提示されている。
すべての三人称が彼女という設定とか、クローンの区別をつけないとか、そういう文章的試みはすべて読者を混乱させることに主眼があると思われ、ジェンダー的なテーマがあるとすれば読み手の側に内在するものではないかと。
で、自分の読み方では、ここからはブレクの外見的特長が描かれていないことからの個人的妄想なのだけれど……、実はブレクは相当魅力的な女性型をしているのではないかと考える。
もうひとりの主人公であるセイヴァーデンとのバディものとの読み方もできるのだが、このセイヴァーデンはジェンダー的にかなり男っぽい、というか、いわば麻薬で身を落としたダメンズなのである。
瀕死の状態でブレクに拾われたセイヴァーデンは、当初は心を閉ざしているものの、だんだんとブレクに惹かれていくわけだが、そこはほれ、やっぱりブレクが美少女型だったら、とたんに絵になる立派な萌え作品になるじゃないですか。
そんな感じで、なんだか叙述トリック的にいろいろな解釈が出来そうなので、何度か読み直しても楽しいかも。