神なる冬

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[SF] 皆勤の徒

2013-12-02 23:25:25 | SF

『皆勤の徒』 酉島伝法 (創元日本SF叢書)

 

第2回創元SF短編賞受賞の表題作を含む連作集。

一言では語りつくせない異様な生態系を、ふざけているのかまじめなのかわからない言語感覚で描いた奇作。

表題作を『結晶銀河』で読んだ時には、なんだかわからないけれど凄いという感じだったのだが、他の作品と合わせると、次第に世界設定が浮かび上がってくる。

大森望さんの解説を読むと、モヤモヤしていたところまでも含めてなるほどと納得できたが、良くこれを正しく翻訳できるものだと感心した。

塵機=ナノマシン
仮粧=AR
勾玉=データキューブ

……まさにまさに。こうやって独特な言葉遣いをお馴染みのSF用語に変換してくれると、非常にわかりやすくなった。

読んでいる間に3つの物語が見えてくるのは確かなのだが、それらの結びつきがいまひとつ良くわからなかったのだ。暴走するナノマシン。外宇宙播種計画。そして、生体脳で分散実行される仮想現実。これらの関係が良くわからずにモヤモヤしていた部分は、解説を読んでだいぶすっきりした。

特に仮想現実が絡んでくると、どちらがどちらの見ている夢なのか、さらにはすべては夢だったという夢オチの可能性まで含めて世界をひも解いていかなければならない。ここが俺にとってはミスリードと混乱の元。

しかし、《禦》の話だけは解説を読んでもさっぱり理解できないけどな。どうしてここから、「皆勤の徒」の舞台が地球だとわかるのだ。まだまだ修行が足りんな。

で、解説によって、おなじみのSF用語に変換してもらえば、物語は割とすっきりする。しかしながら、この小説の魅力は、そうやって明らかにされた本格SF設定ではないだろう。

ぐっちょんぐっちょんで悍ましい異世界と、奇妙奇天烈な生命体、そして、“社長”や“従業員”、さらには“製臓会社”だの“連結胞人”だのといった寓意なのか駄洒落なのか判然としない言語感覚が誘う酩酊感を味わうべきだ。

なんてことは頭では理解しつつも、やはり世界がどうなっているのかという謎を勝手に作り上げ、その謎を追ってしまうのは読者としては良くない部類なんだろうなと自覚する。

しかし、酉島伝法氏の頭のなかはどうなっているのだろう。この世界が緻密に細かい部分まで設定されて、丸ごと入って、生きてうごめいているんじゃなかろうか。なんというか、異世界への生きているドアというか。ここで、某自動書記作家みたいに、この世界は自分が考えているのではなく、どこか別の世界に実在していて、自分はそこでの出来事を書き留めているだけなんですとか言い出すと、疑いも無く信じてしまう自信がある。

この世界はそれほどまでに異様であり、なおかつ、実際に存在するような(悍ましい)手触りや、(耐え難い)匂いがする。