神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 風の邦、星の渚

2011-08-31 21:33:26 | SF
『風の邦、星の渚 レーズスフェント興亡記』 小川一水 (ハルキ文庫)




『異星人の郷』が売れ出した頃に一緒に話題になっていた小説だが、「中世における異星人とのファーストコンタクト」というテーマ以外、おもしろいほど重なるところの無い物語。

ローマ帝国の時代に、街というものを知った水の精(実は異星人)レーズと、辺境に飛ばされた騎士ルドガーが、協力して貧しい集落を自由都市にまで発展させるというシムシティ小説。

レーズの能力はSFというよりはファンタジーで、それに頼らないと言う約束だったのに、結果的にそれに頼らざるを得ないというところもなんだかなぁ。

しかし、今にも消えそうな寒村を盛り立て、知力と勇気で街を発展させていくという物語は読者を引き込むに十分な力を持っている。

ただ、ルドガーの考え方が中世の騎士としては異常に進歩的すぎたり、さんざん脅かした揚句にあっさりとした描写で終わった黒死病エピソードなど、展開の荒さも目立つ。あとがきを読んでも、著者自身の心残りが感じられたりする。


最後に、さらっとセナーセーとかいう単語が出てきたのにはびびったけど!


[SF] MM9 -invasion-

2011-08-31 21:27:04 | SF
『MM9 ─invasion─』 山本弘 (東京創元社)




MM9と言えば、大震災をどうしても思い出してしまうのだが、MM9自体は2005年に発表された小説で、このとき、地震や台風などの自然災害を怪獣というアナロジーではなく本物の怪獣として表現するというアイディアに脱帽したものだ。

そして、今回。舞台は2012年の3月、つくば。3月という表記をみただけで、ちょっとどきどきしたが、Webミステリーズ!での連載は2011年2月までなので、311当時はすでに連載を終えていたことになる。事実は小説に追いつき、さらにこれを凌駕したか。

それはさておき、前作では科特隊ならぬ、気特対(気象庁災害対策部気象庁特異生物対策部)が怪獣退治に大活躍だったが、今作ではついにウルトラマンならぬ、ウルトラ少女が登場する。

前作の怪獣、巨大幼女が成長した巨大少女がウガウガ叫びながら赤ビキニを着ての登場だ。敵は地球侵略をもくろむ異星人。と思いきや、黒幕は地球を科学世界から神話世界へ取り戻そうとたくらむ天狗やら河童やら。

ウルトラマンといえば、ハル・クレメントの『20億の針』にインスパイアされ、地球人ハヤタに光の国からやってきたウルトラマンが憑依一心同体となって活躍する物語だが、MM9でもこれを踏襲し、巨大少女に正義の異星人が間借りするという設定。しかも、必殺技は八つ裂き光輪。赤ビキニだって、ウルトラマンの身体の模様に見えてくる(笑)

もともと神話世界の産物であるヒメを再利用することによって、巨大化や必殺技といった科学的に嘘くさいものを合理化してしまうという力技。これは科学世界と神話世界のせめぎ合いの中で、「こちら」の側にウルトラマンを登場させるには、これしかないという解決案である。おバカな設定の割りに、細かいところまで、理屈が考えられた小説だ。

読めば読むほど完全なウルトラマンパロディで、げらげら笑い転げながら読んだ。正直言って、311後に災害小説をこれだけ笑いながら読めるとは思ってみなかったくらいだ。

この後はウルトラ兄弟のように巨大少女が増殖して、AKB48になるくらいまで書いてもらえると嬉しい。しかし、もっとまじめに言うと、311をどのように消化するかということは災害小説としては避けられないテーマだと思うので、その点でも注目したい。