『SF Japan 2010 SPRING』 SF Japan編集部/編 (徳間書店)
その名のとおり、日本のSF小説オンリーのSF誌。第30回日本SF大賞、第11回日本SF新人賞の発表。
日本SF大賞も、日本SF新人賞も、選評を読むと審査員の間で票が割れているのが良くわかる。
それだけ、「SFとは何か」ということが個人によって違うのだろうということで趣き深い。
しかし、その結果、賞としての色が出ず、日本SF大賞は「内輪の箔の付け合い」と揶揄されたり、日本SF新人賞からは有望な作家が出てこないということになるのかもしれない。
思えば、昨今のSF界を動かしているのは、日本SF大賞受賞の故・伊藤計劃、その伊藤と争った上田早夕里、さらには、円城塔も小松左京賞出身(実は伊藤と円城は落選作を早川に拾ってもらった)である。
一方、日本SF新人賞受賞者でそれなりに名前が売れているのは、第1回受賞者の三雲岳斗くらいじゃないだろうか。
残念ながら、小松左京賞も、日本SF新人賞も今回で休止。そのぶん、ハヤカワSFコンテスト再開宣言が重みを持ってくるのだが、どうなったんだっけ……?
で、話がずれてしまったが、日本SF新人賞受賞者の皆様には、もっと日本のSFを引っ張っていくような作品を書いて欲しい。
なにせ、まだSF冬の時代に始まった賞だけに、こんな賞に応募するのは相当なSF好きだと思うのだけど、あんまりそういうタイプの人が見当たらないんだよね。
第2回受賞者の吉川良太郎とか、ヱヴァの脚本協力に名前が出ているわけだが、最近小説では名前を見ないしなぁ。
○:『冷たい雨』 伊野隆之(新人賞受賞第1作)
感傷的なだけのありがちな話かと思いきや、最後のひとひねりで唸らされる。
○:『アンノウン・コンクエスト』 山口優(新人賞受賞第1作)
“技融”というネタはおもしろい。これでマッドサイエンティスト系な連作が生まれそう。
その連作の発端としてはちょうどいいくらいのうまくまとまった話。
○:『記憶の断片』 我孫子武丸
イラスト先行小説。相変わらず、イラスト先行の意味がねぇ。
ワンアイディアネタの小説。まぁ、必然的にそうなるだろうという話。
△:『銀河広告ビーグル支店の日常』 神代創
これもなんだか連作ものの発端な話。
○:『未来少年』 秋口ぎぐる
『バケツ一杯の空気』系な話かと思えば……。実はSFですらなかった!くらいのラストでも良かった気が。
◎:『冬のアリ』 加地尚武
今度はマッカーシーの『ザ・ロード』系な話かと思えば……。
不都合な真実からスノーボールアースまで。皮肉ってるのか、天然なのか、なんだか凄い話。
△:『グノ族の話』 杉山俊彦
これもある意味、皮肉ってるのか、天然なのかよくわからない話。
○:『ラストソング』 片理誠
美しく滅びよ。
○:『第七女子会彷徨 番外編』 つばな
生死の危機なのにほのぼのしていて和む。
×:『猫の足跡』 中臣亮
駆け足過ぎるわ!