『ザ・ストレイン』 ギレルモ・デル・トロ&チャック・ホーガン (早川書房)
史上最凶の悪疫がすべてを壊す!
ボーイング777が着陸直後に連絡を絶ち、沈黙した。突入したレスキュー隊員が見たものは!?
という帯のおかげで、すっかり『感染列島』系の感染パニックだと思っていた(笑)
新型インフルエンザのおかげでタイムリーだしな。しかも、舞台は密室の飛行機の中かよ、そりゃ怖えー。とか。
ぜんぜん、そんな話じゃありません。
著者の一人、というか、原案はギレルモ・デル・トロ。『パンズ・ラビリンス』、『ヘルボーイ』、『ブレイド2』などの監督。
『パンズ・ラビリンス』はヒューゴー賞も獲った、美しくも悲しい、素晴らしい作品なので、未見の方はぜひ。
で、後はネタバレなので……。
吸血鬼かよ!(笑)
というか、ゾンビだよ!
バイオハザード(ゲーム)かよ!
いや、走るし。『28日後…』かよ!
しかも、三部作かよ、先に言っておけよ!!!!!
ゾンビ吸血鬼に立ち向かうヒーローたちは、CDCの疫学者=イーフ、現代のヴァンパイヤハンター=セトラキアン、都会のネズミハンター=フェット、ハイチのおばさん=ニーヴァ、などなどの面々。
この手のヴァンパイヤ物を見たり、読んだりするとき、どうしてSFファンやホラーファンでヴァンパイヤ退治に乗り出そうとする登場人物が出ないんだろうか、と思っていた。まったく信じないで死亡フラグ立てたり、必要以上に恐れてやっぱり死亡フラグ立てたりする奴らばっか。それじゃないと、話を進められないのかね。
本作品では、フェットがホラーマニアくさくていいな。ネズミ駆除業者という見地からの分析もすばらしい。体力的にも優れているし、ぜひ2巻では活躍を期待したい。
毛色は違うが、ニーヴァも窓枠にニンニクを塗ったり、水鉄砲で聖水をかけてみたり、ある意味、実証主義で対応しようとしている。がんばれハイチおばちゃん、子供たちを守れ!
イーフ、セトラキアン、フェットは合流したけど、ニーヴァは忘れ去られたのか。まだ生きているよね。ニーヴァもヴァンパイヤ殲滅戦隊に参加して欲しい。
もう一人、今作品のヒーローとして挙げたいのが、アンセル。異常を自認し、家族を守るために自らの身体を犬小屋につないだ男。アンセル△!
非常事態でも、こういう行動ができる男になりたい。
まぁ、ゾンビに首輪のシーンは『28日後・・・』へのオマージュかもしれんけど。
ところで、次回以降の展開の予想だが、主人公をCDC所属に持ってきた以上、“七番目の長老”を斃して終わりというわけでは無いだろう。それとも、原因がわかった以上、疫学者としては用済みなのか。死亡率というか、変異率100%じゃワクチン作成も難しいか。
社会の反応としては、各地で魔女狩りならぬ吸血鬼狩りが発生、光線過敏症の子供たちが血祭りに上げられ、問題化とかが、パニックの行き先として一番懸念される点だ。
そして、SFファンとしては、気になる点が。
エピローグでのセトラキアンの台詞「いや――この地球の存在ではない」「彼らはヴァンパイヤはいま……幼年期にある」。
そっちネタかい(笑)
強固な外皮膚、酸素呼吸を必要としない代謝機能などを考えると、宇宙空間での適応が考えられるのだが、なんといっても紫外線が弱点というのがネック。それだと、大気がある惑星上じゃないときついのではないか。もしくは、太陽光のほとんど届かないオールト雲の彼方とか。それならば、海底というのも考えられるんだがねぇ。もしかして、宇宙空間は“暗い”から大丈夫とかいうオチだったら馬鹿にしてあげよう。
しかし、今は風呂敷をどんどん広げている最中。たぶん、一番おもしろい時期。これを2巻目、3巻目でどのような結末へ持っていくのか、非常に興味深い。というか、すっげー続きを読みたいんですが、まだ本国でも発売前なんだ。
これだけ大々的に煽っておいて、竜頭蛇尾の尻つぼみってことは無いだろうな……。