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作家 井上香織 Official Blog

せつない純愛小説、やさしい目線で描かれたエッセイで人気の作家 井上香織が贈る癒しの空間 

☆きらきら日記☆ PART4 ベッド転落事件

2019-09-28 | ☆きらきら日記☆

 PART4 ベッド転落事件 

 

 引っ越しをしたその日。

 キララの飼い主は、私の荷物の運び入れが終わった午後、

マックのグラコロ・バーガーの差し入れで、「大変だったな」とねぎらってくれた。

 しかし、その遅いランチでエネルギーをチャージした私が荷解きをはじめたのを見計らい、

「ちょっと仕事があるから」と、もごもご言い訳をして車でどこかへ出かけてしまった。

 それきり、なんの連絡もない。


 本格的に同居をはじめた当日なのだから、

飼い主に電話かメールで「今、どこにいるの?」「帰りは何時になるの?」

問いただすべきだったのかもしれないが、

そのときの私には、そんな気力も体力も残っていなかった。

 よくよく考えれば、あの差し入れのグラコロ以降、なにも口にしていなかったが、

疲労のあまり、食欲もない。


 髪を乾かし終えた私が、半開きになっていた寝室のドアを開けたのは深夜だった。

 きちんと整えておいたはずのベッドは、見事なまでにくしゃくしゃになっており、

その真ん中に茶色の大きな体が横たわっていた。

 たぷたぷのお腹が呼吸にあわせ、規則正しく動いている。

下着の一件を問いただし、注意しておかなければと思ったが、私は言葉を飲み込んだ。


 この子になにを言ったところで、結局、理解してもらえないに決まっている。

それよりなにより、とにかく私は引越しで疲れ果てていた。

 昨夜は一人暮らしをしていたアパートの荷物梱包に追われ、一睡もしていなかったのだ。

無言のままベッドの片隅に潜り込むやいなや、私は深い眠りに引き込まれた。


 夢を見ていた。

 切り立った崖から何者かに突き落とされる、そんな鬼気迫る物騒な夢だ。

 月明かりだけの荒涼とした崖っぷち。

「やめて!!」と叫びながら、私は岩陰から枝を伸ばしている木にしがみついた。

 これは夢でしょう。だったら早く醒めて。

 どこか冷静にそう思いながらも、とりあえず必死に枝につかまる私に゛何者か゛は容赦なく迫りくる。

 眼下には荒い波が打ち寄せる黒々とした海が見える。

 ここから落ちれば、命はないだろう。私は身震いした。

 
 もともと私は腕の力が弱く、斜め懸垂だって数回しかできない。

こんな状態で持ちこたえられるはずもない。

 夢だとしても、冬の荒海に落ちるのはごめんだ。

 
 早く・・早く目を醒まさなければ。

 しかし、疲労と睡眠不足を伴い濃度の濃い眠気が意識をくもらせている。

 かろうじて寝返りをうとうとして、やっと私は気づいた。

 夢ではなく、現実の世界で゛何者か゛がものすごい力で、

私の体をベッドから蹴り落とそうとしていることに。

 犯人はキララだった。


「えっ!?」

 起き上がろうとした私の体を彼の脚は強引に押しやる。

 その脚力たるやすさまじく、結局私はベッドの下に蹴り落とされてしまった。


「ねえ・・・なんでこんなことするの?」

 呆然と冷たい床にぺたんと座り込んだまま、私は彼に抗議した。

 引越しの荷ほどきで忙しい最中、夕方お散歩にも連れて行ったし

(お気に入りの散歩コースをかなりショートカットはしたが)

晩御飯だって、ちゃんとあげた。

靴下のことも下着の件もあえて責めたりしなかった。

 せめて、朝までゆっくり眠らせてくれてもいいではないか。

 キララは何事もなかったかのように両脚をまるめ、ベッドの真ん中で寝たふりをしている。

話しかけると、閉じたまぶたがぴくぴくするので、すぐに寝たふりだとバレてしまう。

 しかも、私が愛用している羽毛枕にちょこんと頭を預けたりしているのが、また小憎らしい。

「お願い、眠らせて」

 口調を変え懇願してみたが、彼は素知らぬふりを決め込んでいる。

つい昨日まで使っていたシングルベッドは、処分してしまったので、私が眠る場所はそこしかない。


 真冬の深夜。

 部屋の空気は冷えきっている。

エアコンの温度設定を高くした私は、そろりそろりとベッドの隅に居場所を求めた。

「ああ寒い」

 私は、くしゃくしゃになった毛布をかき寄せ、凍えそうな体をくるんだ。

「ほんと、性格悪いんじゃない!?」

 背中越しに捨て台詞を吐くと、キララはふんっと鼻を鳴らした。

 

 これは後に動物病院へ連れて行ったとき判明することなのだが。

 当時、三歳半だったキララの体重は四十五キロもあった。


 ゴールデン・レトリバー成人男子の平均体重は三十キロ前半なので、かなりの肥満体だ。

のみならず、長い間、お風呂に入れてもらっていなかったのか、

触ると油染みた嫌な感触がてのひらにまとわりついた。

おまけに、誰に愛情を求めたらいいのか探るような、猜疑心をにじませた目つきをしていた。

 とはいえ、なにかおねだりしたいときだけ、愛らしいしぐさをみせたりする。

 つまり、私の同居人は難アリのルックスの上、捻じ曲がった性格の犬だったのだ。

 

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母の庭の花々~シュウメイギク

2019-09-25 | ★母の庭の花々★

お彼岸ということもあり、また実家へ行ってまいりました 


こちらは母の庭の シュウメイギク


私がほかの場所の草取りをしている間に、

母が、お墓参り用にと、見頃の花を切ってしまったので、

映っているのは、蕾ばかりで、残念・・・ 

 

追伸

現在、この井上香織のブログにて連載中の☆きらきら日記☆

応援いただき、ありがとうございます 


初回は、データ化したキララくんの写真を奇跡的に発見することができ、

それを掲載したのですが。


やはり、文章だけだと、ちょっと淋しいかな・・・

けれど、手元にあるほかの写真は紙焼きしたもののみだし、

以前、愛用していたスキャナー付きのプリンターは故障したので、

処分してしまったし・・・


そう思っていたところ、友人のМくんが、

キララの写真をスキャンしたデータを送ってくださいました 


Mくん、ありがとうございました 


次回から、キララの写真を掲載できるかと思います。


☆きらきら日記☆

今現在は、キララとの出逢い編ですが、

今後、彼との関係がより密接になってゆく中での出来事・・・

「お散歩の掟」「動物病院」などなど・・描いていく予定です 


どうぞお楽しみに 

 

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☆きらきら日記☆ PART3 下着泥棒

2019-09-21 | ☆きらきら日記☆

PART3  下着泥棒

 

 引っ越し当日の昼下がり。

 業者の人たちが、空になった2tトラックと共に引き上げていったあと、

部屋に残されたのは、かろうじて人が通れるほどのスペースを残し

見事に積み上げられた段ボールの山だった。


 実家を出て一人暮らしをはじめ十年近くもなると、

お店で一目惚れしてしまい、つい衝動買いしてしまう食器類や雑貨…….

とにかく荷物が多くなる。

 それまで住んでいた部屋は、収納スペースがふんだんにあったので、

「とりあえず」と押し込んでいたものが、一気に溢れ出すと、

それは自己嫌悪に陥るほど圧巻だった。

 

 加えて、職業柄おびただしい数の本や資料もある。

 いったいどれほどの時間と労力を費やせば片づくのかと思うと、

気が遠くなりそうだった。

 

 しかし、ため息ばかりついていても、なんの解決にもならない。

 私は、きりりと髪を結び、片手にカッターという勇ましい姿で

段ボールの解体作業にとりかかった。

 

 一方、キララはといえば…….。

 段ボールの山脈の隙間をもの珍しそうに歩き回っていた。

 おとなしくお昼寝でもしていてほしいところなのだが、

一変した部屋の風景に好奇心がうずき、意識が冴え冴えとしているらしい。

 けれど、黙々と片づけに励んでいた私にとって、

彼の好奇心は迷惑以外のなにものでもなかった。

 空いた段ボールを外に出そうとすると、山脈の通路をうろつく彼と鉢合わせしてしまい、

そのたびに私は段ボールを頭上に抱えあげ、すれ違わなければならなかった。

なにかの拍子に段ボール山脈がキララの上に崩れたらと思うと気が気ではない。


「ねえ、キララちゃん」

 箱から取り出した衣類を手早く箪笥にしまいながら私は彼に声をかけた。

(その頃、私は彼を゛キララちゃん゛と呼んでいた)


「ここ危ないから、ベッドの部屋に行っていてくれないかな~っ」

 今の状況でかろうじて安全そうな場所は寝室しかなかったのだ。

「そうしてもらえると、すご~く助かるんだけど。ねえ、聞こえた?」

 しかし、なんの反応もない。

 そういえば、やけに静かだけれど、どうしたのだろう。

 心配になった私は手を止め、キララを探しに行った。


 山脈の間をくぐり抜けた先、テーブルの下に彼はうずくまっていた。

 その口にはジャガード編みの靴下がくわえられていた。

 
 靴下をクローゼットの引き出しにしまったとき、今夜、お風呂上りにはこうと、

それだけ段ボールの上に置いておいたのだが。

「いつのまに持ってきたの? 返して」

 私が靴下を引っ張ると、むきになってキララも歯をくいしばる。

 靴下は彼のよだれでねとねとに湿っており、ぴりぴりと音をたてて編み目が裂けはじめた。

これ以上、無理に取り上げようとしても被害が大きくなるばかりだ。

 いや、もはや再起不能かもしれない。


「もういい」

 あきらめて私は手を離した。

 そのとき、犬という生き物が、〚引っ張りっこ〛が大好きだということすら知らなかった私は、

「この靴下、お気に入りだったのに」

 キララをにらみつけた。

 

 それが発覚したのは、私がお風呂から上ったときだった。

 荷物の搬入が終った晩は、ゆっくりお風呂に入って眠りにつく、

というのがここ数日、引っ越し騒動で睡眠不足だった私のささやかな希望の光だった。

 
 バスタブは膝を90度近く曲げなければならないほどちいさかったが、

それでも、ハーブの香りの入浴剤で体があたたまると少し明るい気分にもなる。

「明日、また片づけ頑張らなくちゃ」

 若草色のお湯の中、私は独り言をつぶやいた。

 そして、湯船から上がり、バスタオルを取ろうと手を伸ばした。

 しかし、そこにタオルはなかった。

 
 その部屋のお風呂まわりはトイレと洗面台が極めてコンパクトにまとめられていたため、

着替えを置くスペースがなかった。

 仕方なく私は洗面台の上にバスタオルと下着を置いたつもりだったのだが。

 私はひどい近眼なので、メガネかコンタクトレンズのお世話にならないと、

ぼんやりとしかものが見えない。

 目を凝らすと、床にバスタオルが落ちているのがかろうじてわかった。

 拾い上げたタオルで体を包み、とりあえずメガネをかける。

 一瞬、視界はクリアーになったが、またすぐに熱気でレンズが曇ってしまう。

一度はずしたメガネをバスタオルの端で拭いて、またかける。

 あたりを見回してみたが、なぜか下着が見当たらない。

 疲れていたせいで、思い違いをしていたのかもしれない。

 私は体にバスタオルを巻きつけたままの姿で、段ボールだらけの部屋へ下着を取りに行った。

 
 寒い夜だった。

 スエットを着た上に厚手のカーディガンを羽織り、髪を乾かすため、

再び洗面所に戻ろうとした私の目に、椅子の下にまるまったピンク色の塊が映った。

 洗い髪を拭きながら手に取ると、それは紛れもなく私の探していたものだった。

ジャガード織りの靴下同様、ねっとりとした湿り気を帯びている。


 広げてみると、レースをあしらった淡いピンク色の下着には、

無残にも無数の穴が開いていた。

 私が狭い浴槽で、束の間、引越しの疲れを癒していたとき、

彼は洗面台に忍び寄り、そこに置いておいた着替えの中から

下着だけを選びだし、かじっていたのだ。

 

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母の庭の花々~ポーチュラカ

2019-09-17 | ★母の庭の花々★

以前にも、何度かご紹介した花 ポーチュラカ

和名は ハナスベリヒユ

 

植え付けは、今年の3月ころ・・だったでしょうか。

5月の連休前後から、たくさんの芽を伸ばしはじめ、

母がその芽を摘み取り、さし芽にしたところ、何株にも増え、

今も元気に咲いてくれています 

 

私もこの花は大好きで、以前は毎年、春から秋口にかけ、

欠かさず育てていたのですが。

忙しく、目を配ってあげられなかったとき、

アブラムシにやられてしまい・・

それ以来、ちょっと遠ざかっております。


でも。

そろそろ、ポーチュラカも終わりかな・・・

もう少し秋が深まってきたら、

来年の春に向け、ビオラを植え付ける予定です  

 

 

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☆きらきら日記☆ PART2 同居にまつわるエトセトラ

2019-09-12 | ☆きらきら日記☆

PART2   同居にまつわるエトセトラ

 

 三年ぶりに逢った彼は、見覚えのない膝丈のダウンコートを着こんでいた。

 かつて彼と親密な時間を過ごしていたとき、私は彼のワードローブのほぼすべてを掌握していた。

コートはもちろん、下着や靴下にいたるまで。

 数年前の春まだ浅い頃、福岡への赴任が決まったと唐突に聞かされたときは、かなりの衝撃を受けた。


「最低でも三年はあっちで暮らさなくちゃいけないみたいなんだ。

もちろん、こっちでの仕事もあるから、時々は帰ってくるけど。一緒に来てくれないかな」


 プロポーズめいたことを言われてはいたが、仕事がある東京を離れる覚悟ができなかった私は、

その返事を先延ばしにしていた。


 そして三月の末。

 私は福岡に単身赴任する彼の引越しにつきあった。

 こうした関係は、単純にいうと遠距離恋愛と呼ばれるものなのかもしれない。

 逢いたくても逢えない……だからこそ、逢える日を心待ちにし、

夜ごとメールや電話で淋しさを埋めあう。

そんなせつない時間が愛を育むカップルは少なくない。

 しかし、それは私たちにはあてはまらなかった。


 その年のお盆休み。

 私は再び福岡空港に降り立った。

 三月に訪れてから四か月というのに、彼の部屋にはほかの女性の影がそここに残されていた。

 
 たとえば、冷蔵庫の野菜室の片隅にきちんとラップでくるまれた人参のかけら。

(彼は使い残しの野菜をラップして保存するほど几帳面な性格ではなかった。

そもそも仮に彼が自宅で料理でもするかと思い、スーパーに立ち寄ることがあったとしても、

絶対に人参など、買い物かごに入れたりはしない)


 たとえば、バスルームに整然と並べてあるヘアー・トリートメントと洗顔フォーム。

 たとえば、寝室のサイドテーブルに置いてあったラメ入りのヘアークリップ……。


 東京にいるときから、女性関係には奔放だった彼が、

身近な女性にぬくもりを求めるのは仕方のないことだったのかもしれない。

 いずれにしても、その夏以来、私は心の中で彼をシャットアウトすることにした。

 それから……約三年の時が流れた。

 

 歩み寄る私に目をとめた彼は、片手をあげ、「遅いから心配したよ」と微笑んだ。

福岡での暮らしぶりを物語るかのように、記憶にあるより顔の輪郭が丸みを帯びたような気がした。


「ごめんなさい。久しぶりだから迷っちゃった」


 今年の秋、買ったばかりの黒いコートの裾を翻し、私は彼に駆け寄った。

 ついさっき、酔っ払いのホームレスに絡まれたばかりだったからかもしれないが、

あたたかな安心感のようなものを感じていた。

 ここへ来るまでに抱いていた逡巡は、いつのまにかどこかに消えていた。


「元気そうね」


 息を整え、私がそう言うと同時に、

彼の傍らにいた大きな犬が後ろ脚で立ち上がり、広げた前脚でじゃれついてきた。

 驚いた私は思わず腰を引き、かろうじて両手でその前脚を受け止めた。


「こいつはキララ。怖がらなくても大丈夫だよ」

 彼は笑った。

「人を噛んだり傷つけたりしない訓練は受けてるんだ。

警察犬の訓練学校に一年ほど預けていたからね」

 キララくんの体毛は交番の明かりに照らされ栗色に輝いて見えた。


 その首のあたりを撫でながら、

「はじめまして、よろしく、だろ?」

 彼はキララを促した。



 彼が犬を飼っていることは聞いていたが、こんなに大きな犬だとは想像していなかった。

 せいぜい両手で抱き上げられるサイズの犬だとばかり思い込んでいた私は、

笑顔をとりつくろい、腰をかがめて、


「キララちゃん、よろしく」


 初対面の挨拶をした。


 キララは一瞬、私を凝視したあと、ぷいと横を向き、飼い主のそばに擦り寄った。

 出逢いからわずか数十秒で私はキララくんの興味の対象からはずされてしまったらしい。

「さ、帰ろうか」

 ちょうど青になった信号を見上げ、彼は歩きだした。

 キララもしっぽをあげて純直に飼い主に従い、信号を渡りはじめた。


 帰ろうって、どこに? 

 三年ぶりに再会した微妙な関係の私を、いきなり部屋に連れて行く気?

 そんな言葉を飲み込みながら、私は゛二人゛のあとについて信号を渡った。

 彼を問い詰めることはできなかった。

 なぜなら、そこは交番の前で、中年の警官が難しい顔をして仁王立ちしており、

私たちのやりとりに聞き耳を立てていたからだ。

 

 キララは、たっぷり肉がついた腰をモンローウォークのようにくねらせながら

横断歩道を歩いてゆく。

 飼い主にぴったり寄り添い歩くその姿は従順そのものなのだが、

腰のうねりは思わず微笑みを誘うような愛嬌が感じられた。


 再会のぎこちなさを紛らわせる円滑油として、この子は連れてこられたに違いない。

 肩からずり落ちたショルダーバッグを抱えなおそうとした私は、

ふとコートの袖が白っぽくなっていることに気づいた。

  よく見ると、それは交差点の灯りの中、薄い金色に輝いている。

 キララがじゃれついてきたとき付着した抜け毛だと思い当たるのに、

そう時間はかからなかった。

 歩きながら、さらに点検すると、それは真新しい黒いコートのあちらこちらに

無数に張り付いていた。

 

 それから一年後。

 なんの因果か、私はキララと同居することとなった。

 正確には、キララの飼い主と同居することになったと言うべきかもしれないが、

飼い主は仕事の関係上、家にいる時間が極端に少なかったため、

やはりキララとの二人暮らしがはじまったと言ったほうが、私としてはしっくりくる。


 暮れも押し迫るなか、街に溢れるクリスマスソングをよそに、

私はひとり暮らしをしていた部屋で粛々と荷物を段ボールに詰め込み、

粗大ゴミの手配をし、タンスの隅の埃を拭き、キッチンを磨いた。

 

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