作家 井上香織 Official Blog

せつない純愛小説、やさしい目線で描かれたエッセイで人気の作家 井上香織が贈る癒しの空間 

☆きらきら日記☆ PART23 かかと落とし!!

2020-02-28 | ☆きらきら日記☆

PART 23   かかと落とし!!

 

 中央公園におけるバーニーズとの闘い以降、私は同じような夢を

繰り返し見るようになっていた。

 場所はその都度ことなる。

 それは廃墟のような学校だったり、森の奥だったり、

断崖絶壁の獣道だったりした。

 いずれにしても、私はキララと二人きり。

 そして、ライオンやクマに襲われるという状況に関しては一致していた。

 

 ある晩、私は深い山奥にいた。

 うっそうと茂る樹木に遮られ、陽の光すら届かない薄暗く道なき道を

私はキララとともに進んでいた。

 この峠を越えていかねばならない、なんらかの重要な使命を帯びていたのだ。

「こっちよ」

 私が言うと、キララはリードもないのに従順に私のあとに従ってくる。

 やがてようやく視界が開けた。

 しかし、左側は見下ろすと足がすくむような切り立った崖。

右側はごつごつとした山肌。そんな危険きわまりない道を通りたくはない。

 私はほかに道がないか、あたりを注意深く見渡した。

けれど、そこしか先に進む道は見当たらなかった。

 人がようやく一人通れるくらいの嶮しい山道をなんとか抜け、

ほっとしたとき。

 突如としてクマが出現した。


 実際にクマと間近に接した経験は、もちろん一度もないが、

夢の中のクマはデフォルメされ、とてつもなく大きい。

私は後方のキララを気遣いながら、くノ一(くのいち)がごとく素早い動作で

木立ちに身を隠した。

 夢の中の私は、現実の私とはことなり身のこなしがとても俊敏なのだ。

少し遅れて私のあとをついてきていたキララに、

「お願い、コイツをやり過ごすまで、おとなしくしていて」

祈るような気持ちで念を送る。

 しかし、まるで警戒心のかけらもないキララは、

「なに? なにがあったの?」

 ひょうひょうと草むらから姿を現した。

そして、クマに目をとめると「もしかしてお友達?」というように、

しっぽを振って歩み寄って行った。


「きーちゃん、ダメ。それはクマ。お友達なんかじゃない。

こっちに戻って」

 押し殺した声で言った私の声は届いているはずなのだが、

キララは歩みを止めない。

 後ろ足で立ち上がったクマは、耳元まで大きく口を開け、

牙を剥きたてて唸り声をあげた。

 今にもキララに、鋭利で剛健な爪を持つ太い腕を振り下ろそうとしている。

「やめて!!」

 私はクマの前に立ちはだかった。

 クマは間に割って入った私に攻撃目標をかえるため、一度、前脚を地面に置いた。

 今しかチャンスはない。

 私は思い切り右足を振り上げ、渾身のかかと落としをクマの頭上に見舞った。

 

「痛いっ! なにするんだよ」

 飼い主の声で私は我に返った。

 好むと好まざるにかかわらず、狭い住宅事情のため、

飼い主と私、そしてキララは同じベッドで就寝せざるをえない。

 昨夜、私はゲームに興じている飼い主に背中を向け、壁際を向いて

眠りについたはずだった。

 しかし、クマとの闘いの中、いつしか仰向けになり、そして……..。

 足を振り上げるとき、「ふっ」と腹筋に力を込めた感覚も残っている。

「いてーな」

 飼い主は顔をしかめ、太もものあたりを大げさにさすっている。

「ごめん」

 私は謝罪し、夢の中でキララを守るため闘っていたことを説明したが、

彼は「これってDVなんじゃない?」と主張しはじめた。

「目が覚めちゃったよ」

 そう言って再びゲームのスイッチを入れた彼に私はお詫びのコーヒーを

淹れるはめになった。


 こぽこぽ音をたてはじめたコーヒーメーカーの前にぼんやり佇みながら、

私は思っていた。

 バーニーズとの闘いでキララが感じた恐怖と痛みに比べたら、

私のかかと落としの一撃なんて、たいしたことないじゃない。


 キッチンにいる私を追いかけるようにキララがやってきた。

「ごめん。起こしちゃった? パパは怒ってるけど、でもね、

カオリンはきーちゃんを怖いクマから助けるために頑張ったんだよ」

 私が小声でそう言うと、

「わかってるよ。ついでに僕にも牛乳ちょうだい」

 キララは目を細め私の頬にキスした。

 

 

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NHKみんなのうた・『エントツそうじの男の子』

2020-02-24 | ★Diary★

約一年ほど前、このブログで記事にさせていただいた

『エントツそうじの男の子』(作曲&歌・小椋佳 作詞・井上香織)

という曲に関して・・・

記事のURL

https://blog.goo.ne.jp/kaori-inoue-books/e/ba17dfda0e94790e0a20462b3a0f9405

 

K.Y.さんから、こんなお便りをいただきました 

 

「井上香織様 エントツそうじの男の子 ブログ拝見しました、

ありがとうございます。

先日、当地松本市で藤城清治展が開かれて見に行きました。

もちろん昔見たみんなのうたの「エントツそうじの男の子」に

会いに行くつもりで。

あの歌は自分の胸に深く刻まれていまして、

「エントツは空に続く小さな道だよ」

「幸せの煙を白い雲にするのが僕の仕事」

のフレーズが特に好きで、もう数十年経つ現在も歌うことができます。

藤城清治展を堪能した後でふとこの歌について検索して見たところ

このページにたどり着きました。

作詞の井上さんが「エントツそうじの男の子」について

コメントされていてちょっと感動。

もう何十年越しになりますが、素敵な歌をありがとうございました」


K.Y.さま。

こちらこそ、あの曲を覚えていていただき、ありがとうございます  

〇十年前・・笑・・大学時代に書かせていただいた詩です。


奇しくも、今年のお正月。

私のシングル曲『栞』について、

看護師をなさっているnanaさんという方がお便りを寄せてくださったばかり。

そのときも、自分の手を離れていった詩や曲が、年月を経た今も、

たくさんのみなさんの胸のなかに息づいていてくれることに

大きな感動を覚えました  


これからも・・・

愛すべき曲たちを心の片隅に置いていただけたら幸いです 


追伸

冒頭の写真は母の庭に咲いていた クリスマスローズ

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天ぷら紀行・・その2

2020-02-20 | ★Diary★

約一か月ぶりの天ぷら紀行


「美味しい天ぷらが食べたいなっ

という母のリクエストにこたえるべく、

先月、ある【天ぷら専門店】に伺ったのですが、

とても残念な結果に終わってしまい。。。

ということで。


今回は・・レビューやコメントなどなどを入念に調べ (笑)

天ぷら蕎麦御前が評判のお店へ行ってまいりました。


こちらのお店は、家族経営のこじんまりとしたお蕎麦やさん 

ランチタイムということもあり、店内は女性客でいっぱい。

 

まずは前菜から・・・

 

上から左まわりに・・味噌こんにゃく・カリフラワーの和え物・ソバ寿司

太巻き寿司・サラダ・・・

 

そして。

 


冒頭の天ぷらと一緒に、上の四種盛りのプレートも 

なんという品数・・


「美味しいんだけど、全部はとても無理そう・・」

「どうする・・?」

母と小声で話していたら、

人の好さそうなおかみさんが、

「食べきれなかったらお持ち帰りしてくださいね。

みなさん、そうなさるんですよ」

明るく声をかけてくださいました 

 

手打ちそばのお店に伺ったというのに。

サイドメニューに圧倒され、

不覚にも、かんじんのお蕎麦の写真を撮り忘れてしまいました・・・


『お持ち帰り』にさせていただいたお惣菜は、

その晩、母と私の夕食となりました・・(笑) 


「美味しかったねっ」

母も気に入ってくれたようなので、また伺わせていただきます 

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☆きらきら日記☆ PART22

2020-02-15 | ☆きらきら日記☆

PART 22  絆が芽生えるとき

 

 

 バーニーズとの闘いがあった晩。

 私ははじめてキララを腕に抱いて眠りについた。

正確には、いつものように原稿やらお風呂やらを済ませ、

あとからベッドにもぐり込んだ私に彼がおずおずと体を寄せてきた。

そして私の肩に頭をのせ、

「今日はいろいろありがとう。心配かけてごめん」

 というように私の口元をぺろぺろ舐めた。

 彼の方から体を寄せてくるのは、はじめてのことだったので

私は戸惑いを禁じえなかった。胸の奥がくすぐったいような戸惑いだ。


 出逢った頃、毎日のように仕掛けられた嫌がらせの数々、

そして猜疑心を宿した陰険なまなざし……

数ヶ月の刻を経て、今、目の前にいるのはその頃のキララとは違う犬のように思えた。

「傷は? 痛くない?」

 私が問いかけると、彼は鼻先を私の頬に押しつけてきた。

その鼻は冷たくしっとりと湿っている。

 私は彼の首の下にそっと腕を入れ、キララの体を抱きしめた。

 
 遥之介くんのママに指摘された私の腕のケガはたいした傷ではなかった。

 もしかしたら……。

 ダイエットがなかなかはかどらないキララのどっしりとした重みを

腕に受けとめながら私は思った。

 あの戦闘シーンの最中。

 無我夢中で二頭の間に割って入った私は、牙を剥いたキララの口に腕を入れていた。

バーニーズより、少しでも高くジャンプし、攻撃を加えようと

闘争本能をむきだしにしていたキララは、目の前にあるのが私の腕だと気づき、

瞬時に力を弱めてくれたのかもしれない。

 

 その日も深夜、帰宅した飼い主に私は、バーニーズとの一件を報告した。

「たいしたことないじゃない」

 疲れた様子の彼はキララの傷をおざなりに確認し、こともなさげに言った。

「すぐに治るよ」

「でも病院で診てもらったほうがいいんじゃない?」

「大丈夫だよな。おまえは強い子だから」

 キララは何事もなかったかのように、飼い主の前でちぎれんばかりにしっぽを振っている。

「ちょっとしたケンカだったんだろ? 大げさに考えすぎだよ」

「あなたは現場を見ていなかったから、そんなふうに言えるのよ」

 私は声を荒げた。

「私はきーちゃんをこんな目にあわせたあの犬が許せない。

もちろん、無責任な飼い主も。絶対にアイツと飼い主をみつけだす」

「気持ちはわかるけど、バーニーズの飼い主をみつけてどうするつもり?」

「どうするって…..」

 その先のことを深く考えていなかった私は口ごもった。

「慰謝料を請求するとか?」

「まさか」

 キララが受けた心の痛みを理解してくれない彼に私は苛立ちを募らせた。

「慰謝料だなんて、そんなこと考えてない。

飼い主は広場で自分の犬が引き起こしたことをなにも知らないと思う。

だから、きーちゃんに謝ってほしいの」

「そのベンツに豹柄の飼い主。男と一緒だったんだろ?」

「そうみたい」

「たぶん水商売かなにかの女性で、たまたま通りががりの公園に

立ち寄っただけだったんじゃない?」

 今夜も夜通しスタジオに詰めていたという彼の口元からはお酒の匂いがした。

そして、その体からはうちで使っているのとは違う石鹸の匂いがほのかにたちのぼっていた。


「お水関係の女性の行動パターンをよくご存知なのね」

 そんな会話を繰り広げている私たちのそばで、キララは所在なさげに首をうなだれていた。

「探しても無駄だと思うよ」

 そう言うと彼はさっさとベッドにもぐり込み、プレイステーションのスイッチを入れ

ゲームをはじめた。

 敵を攻撃するたびに騒々しく物騒な音がするそのゲームが開始されると、

もう会話など成立しない。

 時計を見るとすでに午前四時を回っていた。

 もう眠れそうにない。

 私はやりきれない気分のまま、書きかけの原稿に手を加えるべく、パソコンを起動させた。

 

 朝が来るのを待って、私は身支度を整え外へ出た。

「ちょっと公園を一回りしてくるけど、一緒に行く?」

 自転車に手をかけながらキララを誘ってみたが、彼はしっぽを縮め

「嫌だ。行きたくない」と尻込みした。

 飼い主が言う通り、あのバーニーズは通りがかった中央公園に気まぐれに

立ち寄っただけなのかもしれないと思ってはいた。

 しかし、いつも「公園」と聞いただけで、しっぽを振って「早く行こうよ」と

催促するキララが行きたくないだなんて、はじめてのことだった。

 キララの心にこんなにも辛い想いを刻みつけた、あのバーニーズ。

やはり絶対に許せない。

 私はひとり、自転車をこぎ中央公園のじゃぶじゃぶ池に向った。

しかし憎くきバーニーズに関する情報を得ることはできなかった。

 キララの恐怖心が消えるには、それから数日かかった。

 

 この一連の出来事は、私とキララに決定的な変化をもたらすことになった。

 主従関係。すなわち、犬社会における上下関係が変ったのだ。

 

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☆バレンタイン☆

2020-02-11 | ★Diary★

いつも、この井上香織のブログをお読みいただき、ありがとうございます

 

もうすぐ、バレンタイン・・・ということで。

今年も。。。

先日、実家へ帰った際、ちょっと早いけれど、

幼馴染のYちゃん(女子)と、恒例・チョコレートの交換会 

この交換会は、中学時代からはじまった私たちの伝統行事・・笑・・


・・・交換会といっても。

井上は庭仕事中でドロドロのため、いつものように立ち話だけだったのですが。。


作業後。

いただいた紙袋を開けてみると・・

三日月形の 星の王子さま 

 

様々なフレバーのチョコの詰め合わせ 


母に淹れてもらったあたたかいコーヒーを飲みつつ、

二人で何粒かいただいちゃいました 

 

Yちゃんは「ほかにチョコを贈るのは父だけかな~っ」

ちょっと淋しそうに、そう言っていましたが。。。

 

みなさんにとって、素敵なバレンタインになりますように・・・

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