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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

東電「工程表」はあまりに無意味

2011-05-18 01:29:04 | 原発事故
東京電力が発表した改訂版「工程表」によると、「水棺」計画を変更して、「循環注水冷却」を目指すそうだ。

1号機原子炉の水位計を修理したところ、燃料棒の最下部よりさらに低い位置までしか水が溜まっていないことが判明。さらに、原子炉建屋の地下に大量の水を発見。これらは全炉心溶融と格納容器破損を意味するもので、「水棺」の断念に追い込まれたというわけだ。

あまりにお粗末な顛末と言わざるを得ない。

どう考えても「調査」と「計画立案」の順序が逆だ。そもそも最初から、1号機原子炉についても、格納容器の一部が破損して、そこから冷却水が漏出している可能性が濃厚だった。

窒素ガスを入れても圧力が思ったほど上昇しない、格納容器の容量以上の水を注入しているのに水位が上がらない、タービン建屋に大量の放射能汚染水が存在する。多くの事実がその可能性を支持していた。

従って、まず第一に、水位計の確認、格納容器周りの亀裂点検、原子炉建屋内の漏水確認を行うべきで、その結果を踏まえて「水棺」の実現性を検討するのが当然の手順である。

しかし、東電は、そういった調査もしない段階から、なぜか「格納容器は壊れていない」という根拠のない推測を前提にして、国民に向かって「水棺」計画を発表し、さらには実際に注水量を増やす措置まで行ってきた。

調査を実施する時間がなく、すぐに計画を立てろと言われた場合でも、もっとも可能性の高い推測に基づいて立案するのが常識である。「格納容器は無傷」という可能性の低い、自分たちに都合の良い前提で仕事を進めると、工程表の変更を迫られるのはほぼ確実というものである。

改訂版では、タービン建屋地下の汚染水を「浄化」して、再び冷却水として利用する「循環注水冷却」なるものを謳っているが、これにも実現可能性を検証した痕跡すら見出せない。建屋地下に溜まったような不純物だらけの高濃度汚染水を、原子炉に再注入可能なほど「浄化」出来るのかどうか、過去に例がないのだから、誰にも分からない。

従って、相当な調査と検証が必要だが、どのような根拠で実現可能と判断したのか、何のデータも出てこない。「水棺」断念の後、結局、今の「注水冷却」以外は何も出来ないと認めたくないために、苦し紛れで出した計画にしか思えない。毎月17日ごとに、こういった科学的背景のない言葉遊びが繰り返されるのならば、「工程表」を出す意味がない。

1号機について今やるべきことは、格納容器の「どこから」「どのくらい」水が漏れていて「どこに」流れているのかを特定することだ。

原子炉建屋の地下には3000トン程度の水が溜まっているらしいが、この水がすべて格納容器から二ヶ月の間に漏れたものであれば、毎日50トンの流出となる。一日150トンを注水しているとすれば、30%くらいの漏れである。

また、一般家庭の風呂に水を張るには0.35トンから0.5トン程度が必要だが、50トン/日であれば、10分から15分で風呂が一杯になる水流である。従って、格納容器からの漏水は、ちょろちょろ染み出ている感じではなく、それなりの流速である可能性も覚悟しなければならない。

今後の調査で破損箇所が見つかり、その亀裂が小さく、漏出速度がずっと遅ければ、そのとき初めて破損箇所の修理という案が検討対象にはなるだろうが、原子炉が完全メルトダウンしていることを考えると、実行可能な線量環境であるのは期待薄だ。

つまり、1号機ですら放射性物質の「閉じ込め」は絶望的、それが現時点での偽らざる見通しだろう。

政府・東電は、事故の状況をバラ色に粉飾するだけの「工程表」作りはもう止めて、国民に向かって、今の厳しい現実を説明するべきである。

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