ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

甘い見通しはもう要らない ~ 海洋汚染の監視強化を

2011-04-14 10:12:24 | 原発事故
福島第一原発事故は、小康状態を保っていると報道されている。確かに、周辺地域での空間線量の値は、水素爆発が相次いだ事故直後に比べると、少なくとも増加傾向にはないようだ。

しかし、外部から原子炉へ大量の水を入れ続けているにもかかわらず、タービン建屋地下やトレンチ内の汚染水が増加しているように見えないのは、非常に不気味である。

原子炉から流れ出た高濃度汚染水が何らかの経路をたどって、海や地下水脈に流れ続けている可能性を否定できない。

放射性物質の空中への放出は減少したが、その減少分が海洋や土壌に向かっているのだとすれば、事態は何ら改善されていないことになる。

ところが、政府、東電や原子力工学専門家の発言からは危機感が感じられない。どうやら、彼らは海を果てしなく大きな塩水のプールと見なしているようだ。高濃度の放射性物質も海に出れば拡散して薄まるので、危険は少ないという論法である。

「低レベル」汚染水を一万トンも、地元の漁業関係者にすら知らせずに海洋投棄した事実が彼らの安易な考え方を裏付けている。

しかし、「海=巨大なプール」という発想は大間違いである。そんな単純な話ではない。

海洋での水の動きは、大規模なものから小規模なもの、深海へ潜るものや上がってくるものなどさまざまで、放射性物質の流れの予測は難しい。

さらに食物連鎖による生物学的な濃縮効果も考える必要がある。

海に出た放射性物質は直ちに動植物プランクトンに取り込まれ、食物連鎖に従って、小さな魚から大きな魚へと移っていく。この際にどれほどの濃縮が起こるかも、科学的な予想が難しい。

例えば、放射性元素が水溶性化合物として取り込まれれば、濃縮の度合いは低いかもしれない。しかし、脂溶性であれば相当な濃縮を覚悟しなければならない。クジラから高濃度のダイオキシンが検出される事例があるが、これはダイオキシンが脂溶性であることが大きい。また、ストロンチウムのように骨に吸収される性質を持った元素も、濃縮される危険が高い。

海沿いにある巨大原発から放射性物質が大量に流出、しかもその沖合には親潮と黒潮がぶつかる世界有数の漁場が存在する。こんな事故は人類史上初めてで、今後何が起こるのか、どんな未来が待っているのか、誰にも見通せない。

従って、保安院や一部の専門家のように、最もお気楽な未来を予想して、事故処理を進める姿勢は厳に戒めなければならない。

実際、コウナゴのような小魚から高いレベルの放射性物質が検出されたニュースは、事態がかなり厳しい方向へ進みつつあることを示している。海への流出が完全に止まっていなければ、十年二十年後、遠洋で獲れたマグロから高濃度の放射性物質が検出されても、とくに驚くべき結果とは言えない。

将来の漁業に与える深刻度を考えれば、政府は、最高レベルの危機感を持って、放射性物質による海洋汚染を監視するべきである。陸上への汚染だけに目を向けて、海洋汚染を軽視することがあってはならない。

とくに広域、多種類、多年にわたる生物学的調査は必須だ。これは「海洋汚染監視庁」といった組織を作って臨むようなレベルの問題である。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 石原流「消費抑制論」は大不... | トップ | 自販機こそ優れた節電対策である »
最新の画像もっと見る

原発事故」カテゴリの最新記事