東京電力が掲げる「工程表」の目標は、原子炉を9ヶ月以内に「冷温停止」状態に持ち込んで、放射能が大幅に抑制される状況を作り出すというものである。
しかし、1号機から3号機まですべての原子炉が「全炉心溶融」を起こし、かつ「格納容器破損」がほぼ確実になった今、「冷温停止」の持つ意味が変わりつつある。
もし、炉心溶融が一部に止まり、燃料集合体がその原型を保持しているのであれば、「冷温停止」の後に原子炉から取り出して、プールなど別の施設に移すことが可能である。当然、移送先でも冷却は必要だが、管理された状況で行えるので、汚染排水が外部に漏れ出すような危険は回避される。
まさに「放射能が大幅に抑制される」わけである。
しかし、「全炉心溶融」によって、燃料集合体が完全に溶け落ちている現在、それを取り出す作業は困難を極めるだろう。燃料の45%が溶融したスリーマイル島事故ですら、取り出しに14年掛かっている。100%溶融では、それ以上の年月が必要なのは容易に想像がつく。
つまり、9ヶ月で「冷温停止」に至ったとしても、全燃料を壊れた原子炉内に留めたまま、さらに何年何十年と冷却しなければならない。もちろん、原子炉の温度は下がっていくので、放射性物質の大気中への放散は減少するだろう。注水量を減らしていくことも可能である。だが、回収困難な大量の放射性物質が炉内に残っていることに変わりはない。
従って、量は減っても、汚染水が出続けるという状況を根本的に変えることは難しい。格納容器の破損を修理して排水を全回収するという、絶望的に困難な仕事を成功させない限り、何年何十年もの間、高レベルの放射性汚染水が外部に漏れ続け、新たな土壌汚染や海洋汚染を引き起こすだろう。
東電の武藤副社長は、メルトダウンによって「工程表」は大きな影響を受けないと言ったそうだが、耳を疑う発言である。
「冷温停止」を最終目標とする「工程表」は、原子炉の炉心溶融が一部に止まり、通常の原発停止手順と同じように、やがては燃料集合体を取り出せることを前提にしている。しかし、「全炉心溶融」が明らかになった今、「冷温停止」は燃料の取り出しを意味せず、高濃度汚染水の流出停止にもつながらない。
東電幹部は、「冷温停止」というゴールが意義を失い、「工程表」自体がメルトダウンを始めたことを理解しているのだろうか。
<関連ブログ>
東電「工程表」はあまりに無意味 (2011/05/18)
「収束」できない原発事故 ~ 「水素発生」への無為無策 (2011/05/04)
「収束」できない原発事故 ~ 「排水」が管理できない (2011/05/01)
まずは放射性汚染水の発生ルートを調査すべき (2011/04/27)
「水棺」というほど穏やかではない (2011/04/26)
「想定内の地震」で破損の可能性 (2011/04/21)
「除染」は放射性物質の「消去」ではない (2011/04/19)
東電「工程表」には「現場」という言葉がない (2011/04/18)
原発の見直しは不可避 (2011/03/30)
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つまり、9ヶ月で「冷温停止」に至ったとしても、全燃料を壊れた原子炉内に留めたまま、さらに何年何十年と冷却しなければならない。もちろん、原子炉の温度は下がっていくので、放射性物質の大気中への放散は減少するだろう。注水量を減らしていくことも可能である。だが、回収困難な大量の放射性物質が炉内に残っていることに変わりはない。
従って、量は減っても、汚染水が出続けるという状況を根本的に変えることは難しい。格納容器の破損を修理して排水を全回収するという、絶望的に困難な仕事を成功させない限り、何年何十年もの間、高レベルの放射性汚染水が外部に漏れ続け、新たな土壌汚染や海洋汚染を引き起こすだろう。
東電の武藤副社長は、メルトダウンによって「工程表」は大きな影響を受けないと言ったそうだが、耳を疑う発言である。
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