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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

N氏が夢見たエネルギーハウス ~ 問題編

2011-05-16 05:32:42 | Weblog
原発事故と計画停電にブチ切れたN氏は、ついに東京電力との決別を模索し始めた。

まずは自宅にソーラーパネルを設置して太陽光発電を行うことを考えてみた。だが、「再生可能エネルギー」という言葉に、なぜか、サヨク運動的な、若気の至り的胡散臭さを感じていたN氏は、なにかもっと自分にふさわしい発電方法はないものかと思案した。

そんな折、三階建ての自宅にあるエレベーターを見て、N氏はひらめいた。電気を切って、三階からエレベーターに乗って一階まで降りれば、そのまま発電機になるのではないか。

そもそもモーターは発電機と同じ。電気エネルギーを位置エネルギーに変えているエレベーターなら、その逆も可能なはずである。文系出身ながら、ビックカメラ店員との長年の家電トークを通して、密かに工学的知識を蓄積したと自負するN氏は、今更ながら、自分のアイデアの鋭さに身震いした。

さっそく業者に相談すると、発電用モーターに取り替えて、さらにエレベーターの籠を5kgの超軽量竹製タイプにすれば、無理なく引っ張り上げることが可能との力強い返事だった。もちろん、蓄電池も要るから、さっそく手配すると言う。数日後、業者は目の玉が飛び出るような見積もりを持って来たが、「Nさん、これはもう一種のエネルギー革命ですよ」という言葉がN氏の心に火をつけた。

工事は数日で終わり、いよいよ自家発電の日がやってきた。業者によると、最高のベアリングシャフトを入れたので、エネルギー効率が80%にまで上がったという。「位置エネルギーの80%を電気に変えられるなんて、もう奇跡みたいなもんですよ」と言って帰っていった。

もちろん、東京電力には契約解除の電話を入れてある。慌てた様子の担当者の声を聞いて、N氏は計画停電以来初めて、一矢報いた気分になった。

さて、N氏の家で一日に必要な電力量は10kWh。N氏の体重は65kgで、5kgの竹籠エレベーターは5mを垂直に降下する。三階からエレベーターで降り、再び三階に戻って籠を手で巻き上げる動作を、N氏は何回繰り返せば必要な電力を手に入れることが出来るだろうか?

ただし、重力加速度は9.8m/s^2で、エネルギー効率は業者の言う通りだとする。エレベーターを吊るしているロープの重量などは考えない。また、籠の巻き上げ時に発電はないものとする。


頑張れN氏!
答えは、次回「解答編」にて。

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5月15日
kW(キロワット)とkWh(キロワット時)はどう違うのか?
kW(キロワット)とkWh(キロワット時) ~ 練習問題の解答編

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kW(キロワット)とkWh(キロワット時) ~ 練習問題の解答編

2011-05-15 22:54:56 | Weblog
前回ブログの最後に書いた問題の答えを。

a) 今月の電気料金領収証に「ご使用量320kWh」と書かれていた。この電気量をJ(ジュール)単位で表せ。

1kWhは3600kJに等しいので
320(kWh) * 3600(kJ/kWh) = 1.152 * (10^6)kJ
#10^6は10の6乗
答えは、115万2千kJ。あるいは1.152GJ(ギガジュール)。

一般家庭一ヶ月の消費電力量は300kWh程度なので、この計算のようにJ(ジュール)で表すと100万kJといったところになる。

b) 東京電力のサイトに電力の供給能力が4000万kWと書かれていた。この数値は時間帯で変わらないとして、1日(24時間)の供給可能電力量を計算して、J(ジュール)とWh(ワット時)の両方で表せ。

4000万kW は1秒間に4000万kJを供給する能力なので、1日の総供給量は
4000万(kW = kJ/s) * 24(h) * 3600(s/h) = 3.456 * (10^12) kJ = 3兆4560億kJ
Wh(ワット時)で表すと
4000万(kW) * 24(h) = 0.96 * (10^9)kWh = 9億6千万kWh

答えは、3兆4560億kJと9億6千万kWh。または3.456PJ(ペタジュール)と0.96TWh(テラワット時)。

東京電力一日の供給可能電力量は、このように10億kWh程度。一方、石原都知事が再選後のインタビューで述べた、自販機とパチンコを併せた「1千万kW」という数値は、それが「1千万kWh」であれば、両業界の一日の消費電力量に近い。

正しい比較である「10億kWh」の中の「1千万kWh」と、誤った比較である「4千万kW」の中の「1千万kW」では与える印象が全く違ってくる。

c) ある冷蔵庫の1年間(365日)の消費電力量が400kWhであるとき、電気の平均消費速度をW(ワット)で求めよ。

400 (kWh) / {365(d) * 24(h/d)} = 0.0456… kW = 45.6… W
答えは、46W。

d) 電気ポットで2リットルの水を20度から80度まで温めた。水が受け取った熱量をWh(ワット時)で表せ。温度上昇が20分で完了した場合、熱エネルギーの受け取り速度をW(ワット)で求めよ。ただし、1cal = 4.186 J。

水の比熱を1cal/g度 = 4.186J/g度とすると、2リットルの水が受け取った熱量は
4.186(J/g度) * 2000(g) * {80(度) – 20(度))} / 3600(J/Wh) = 139.53….Wh
20分(= 1200秒)で上昇した場合のワット数は
4.186(J/g度) * 2000(g) * {80(度) – 20(度))} / 1200(s) = 418.6W
答えは、140Wh と420W。従って、この電気ポットの消費電力は420Wよりずっと大きいはず。消費電力すべてが熱に変換しないし、その熱がすべて温度上昇に使われるわけないので。もし、300Wという表示があったら、多分それは誤表記か詐欺だと思う(笑)。

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kW(キロワット)とkWh(キロワット時)はどう違うのか?

2011-05-15 05:53:12 | Weblog
福島第一原発の事故や浜岡原発停止の影響で、夏場の節電対策が関心を集めて、連日のように「kW(キロワット)」や「kWh(キロワット時)」という言葉が飛び交っている。しかし、この単位が何を示しているのか、いま一つピンとこないという方も多いと思う。

実際、例の「自販機・パチンコ批判」を聞いていると、都知事ですらこの二つを混同している節がある。そこで、今回はエネルギーの単位に関するお話を少々。

エネルギーの量を表す場合は、「J(ジュール)」を使うのが普通である。例えば、1kg(キログラム)のものを1m(メートル)持ち上げると、9.8 Jの仕事をしたことになる。また、1kgの水の温度を10度(セ氏)上げるには、41860Jの熱量が必要である。

41860Jはちょっと読みづらいので、1000J = 1kJ(キロジュール)を使って、41.86kJとしてもよい。このk(キロ)という記号は「千倍」を表す接頭辞で、キロ・グラム(kg)、キロ・メートル(km)、キロ・カロリー(kcal)などどんな単位にでも付けることが出来る。

ちなみに、「千倍の千倍(=百万倍)」はM(メガ)、「千倍の千倍の千倍(=十億倍)」はG(ギガ)である。

電気もエネルギーの一つなので、消費した電気量も「J(ジュール)」で表すことが出来る。ただ、テレビや冷蔵庫といった家電を使う場合にとくに気になるのは、それが「どのくらいのペースで電気を消費するか?」という点である。

これはJ(ジュール)が表現する「使った電気エネルギーの総量」とはまた違った観点の話なので、別の単位が必要になる。すなわち、ある電気製品が「1秒に1Jのペースで電気を消費する」ならば、それを1W(ワット)と表現する。つまり、1Wは 1J/s(ジュール・パー・秒)である。

例えば、300Wと表示されているテレビは、1秒間に300Jのペースでエネルギーを消費する。従って、このテレビを2時間(= 2 * 3600秒)見ると、

300(W=J/s) * 2 * 3600 (s) = 2160000J = 2160kJの電気を使うことになる。

こうやってすべての電気製品の消費電力量を計算して足してみると、一般家庭が一ヶ月に使う電気の量はだいたい100万kJ程度になる。

しかし、電気料金領収証の使用電力量欄には、300kWh(キロワット時)などと書かれていて、J(ジュール)の文字はどこにも出てこない。

本来であれば、電気量もJ(ジュール)で表した方が、他のエネルギーと比較し易いし、W(ワット)からの計算も理解し易いのでより好ましいのだが、実際にはJ(ジュール)ではなくWh(ワット時)という単位が使われる。

おそらく電気業界の慣例だと思うのだが、素直にJ(ジュール)を使わないために、ちょっとだけ話がややこしくなっている。

ただ、J(ジュール)とWh(ワット時)の関係は至極簡単である。1Whは3600Jに等しい。これだけである。つまり、3600J というエネルギーを一塊にして1Whと名前を付けただけだ。勿論、1kWhは3600kJである。

3600という数字がいきなり出てくるが、ピンとくる方も多いと思う。1時間は3600秒、その3600である。そして、この3600Jをひとまとまりにしたお陰でちょっと便利なことがある。

300Wのテレビを2時間見る場合、消費電力をWh(ワット時)で表すと

300 * 2 * 3600 (J) / 3600 (J/Wh) = 300 * 2 = 600Wh

つまり3600の項が打ち消しあって消えて、「ワット * 時 = ワット時」という式が残り、計算が簡単になる。例えば、600Wの電気ストーブを3時間使ったら、

600W * 3h = 1800Wh = 1.8kWh

と計算してよい。しかし、重要なことは、この式はあくまで結果として正しいだけで、本来600Wに掛けるのは、時(h)ではなく秒(s)でなければならない。

600W * 3h * 3600(s/h) / 3600(J/Wh) = 1800Wh

が背後にあるということだ。これを理解せずに「ワット * 時 = ワット時」だけを頭に入れていると、W(ワット)という単位が1時間に消費される電気量だと勘違いする危険がある。W(ワット)は、あくまで1秒間に消費される電気量を問題にした単位である。

さらに、もっと正確に言えば、W(ワット)は、エネルギーの時間微分なので、ある「瞬間」におけるエネルギーの消費あるいは産出速度を表現している。

最後にまとめを。

1) 電気も含めてエネルギーの量はJ(ジュール)で表されるのが普通
2) 1W(ワット)は1秒間に1Jのエネルギーが消費あるいは産出されるペースのこと
3) 電気関係では3600Jのエネルギーを一塊にして1Wh(ワット時)と呼ぶことが多い
4) 「ワット * 時 = ワット時」という式は結果として正しいが、意味的には間違い

(練習問題)
a) 今月の電気料金領収証に「ご使用量320kWh」と書かれていた。この電気量をJ(ジュール)単位で表せ。
b) 東京電力のサイトに電力の供給能力が4000万kWと書かれていた。この数値は時間帯で変わらないとして、1日(24時間)の供給可能電力量を計算して、J(ジュール)とWh(ワット時)の両方で表せ。
c) ある冷蔵庫の1年間(365日)の消費電力量が400kWhであるとき、電気の平均消費速度をW(ワット)で求めよ。
d) 電気ポットで2リットルの水を20度から80度まで温めた。水が受け取った熱量をWh(ワット時)で表せ。温度上昇が20分で完了した場合、熱エネルギーの受け取り速度をW(ワット)で求めよ。ただし、1cal = 4.186 J。

ちょっとしたドリルなので、水の比熱の温度変化とか密度変化とか、難しい話は抜きで(笑)。答えは、次のブログに載せる予定。

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脇谷選手の落球誤審にみる「だろう」守備

2011-05-13 07:39:12 | 野球
4月20日の阪神・巨人戦における誤審問題は、阪神が審判技術向上の申し入れを行っただけで、公式にはほとんど何のリアクションもなく終わってしまった。

NPBの結論は、予想した通り、今のプロ野球の「常識」からすれば、何の問題もないということらしい。

「常識」をもう一度見直したらどうかという話は、4月22日と25日のブログに書いたので、少し角度を変えて、脇谷選手の落球後の行動が守備プレーとしてどうだったのかという点を考えたい。

落球時のVTRを詳しく見ると、脇谷選手はバックスクリーン方向に頭を向けて倒れこみ、仰向けに起き上がりながら、一塁方向から近寄ってきた塁審の方に顔を向けている。

塁審は最初に両手を広げるしぐさを見せた後、右手を挙げてアウトを宣告したが、その間、脇谷選手は胡坐をかいたような姿勢で審判の方を見続け、右手でボールを挙げて捕球をアピールしている。

つまり、座ったままで、内野へは返球の素振りすら見せていない。

しかし、審判が誤審して、アウトを宣告する保証はどこにもないのだから、落球後は、すぐに立ち上がって送球姿勢を取り、しっかりと本塁方向を見るのが、まず第一のはずである。一塁走者の新井がホームインしたかどうか、打者走者のブラゼルはどこにいるのか、二塁にショートの坂本が入っているかどうか、確認するためだ。

そして、本塁が間に合わなければ、ブラゼルに二進を断念させる行動を取らなければならない。

実際、審判にアピールしている時点で、ブラゼルはすでに一塁をまわって、二塁へ向かっている。しかも脇谷選手が座り込んで送球姿勢を取っていないことを見ている。

加えて、阪神はすでに2人がホームイン。7回裏で3点差までリードが広がり、おまけに、アウトカウントはツーアウト。足の遅いブラゼルだが、リスクを冒して二塁を狙ってもよい状況で、セーフという正しい判定が出た場合、再び得点圏にランナーが進んでしまう可能性は十分にあった。

たまたまアウトがコールされたので事なきを得たが、立ち上がってブラゼルをけん制するのは最低限のプレーだったはずである。

「本塁は間に合わないだろう」「ブラゼルは足が遅いので二塁は狙わないだろう」そして「アピールすれば審判はアウトにしてくれるだろう」。

脇谷選手は幾つもの「だろう」を重ねて、立ち上がらず、送球姿勢を取らず、落球後に必要なプレーを怠ったと言わざるを得ない。

かつて巨人は、1987年西武との日本シリーズ第6戦、秋山のセンター前ヒットで一塁走者の辻がホームインして、痛い負けを喫したことがある。

センターのクロマティが緩慢な山なりボールを内野へ返したことが原因だったが、これも「辻は二塁で止まるだろう。まさか三塁は狙わないだろう」という思い込みが背後にあった。

このプレーがシリーズの流れを決めて、西武が日本一になったという意見も多い。もし、クロマティが基本に忠実に、すばやく三塁に返球していれば、シリーズの行方はまた違ったものになっていたかもしれない。

あれから20年以上経っているが、「だろう」守備をなくして、基本に忠実な隙のないプレーを行うのは、相当に難しいことのようだ。「プロ」というのは、「基本」を蔑ろにすることではないはずだが。

<関連ブログ>
4月22日
脇谷選手の落球・誤審はプロ野球の試金石
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そんな試合を見たかったんじゃない


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浜岡原発全停止の衝撃 ~ 再稼動の可能性は低い

2011-05-11 04:38:02 | 原発事故
菅首相の要請を受ける形で、浜岡原発のすべての原子炉の停止が決まった。この決定の持つ意味は大きい。

なぜなら、一度停止した浜岡原発を再稼動する可能性は低いからである。

原発の停止期間は、津波対策の柱である防潮堤工事が完了するまでの数年程度という声も聞かれるが、これは単なる憶測に過ぎない。様々な事情を考えると、原発再稼動のチャンスはまず訪れないだろう。

その事情とは、

1) 節電対策が進んで、電力の需給バランスが早期に安定化する

福島第一原発の事故を受けて、関東圏では「節電ブーム」が起っている。LED電球、省エネ家電、蓄電池、太陽光発電。一般家庭から工場まで、社会全体が節電・蓄電・自家発電に邁進している。おそらく中部電力管内でも、同様の動きが始まるだろう。

節電による需要の抑制、蓄電による消費時間帯の分散、自家発電による供給増。こういった消費側の取り組みによって、需給バランスの切迫感は、短期間で相当程度に緩和されることが期待できる。

しかも、需給バランスが問題になるのは、酷暑になった場合の真夏の日中だけである。中部電力が行うであろう火力・水力による供給の積み増しなどを考えると、浜岡原発の再開が不可欠という事態が来るとは思えない。

勿論、関西電力管内のように原発依存度の非常に大きい地域であれば、原発全停止には代替エネルギーの大規模開発を検討する必要があり、実現にはかなりの時間が掛かる。

しかし、中部電力の場合、原発依存度は東京電力よりもずっと低く、より対応しやすい筈である。だからこそ菅政権も浜岡原発の即時全停止を要請したのだろう。

2) 反対を押し切って再稼動を許可する政権は現れない

浜岡原発の再稼動が問題になるのは、次の衆議院議員選挙のあたりである。当然のことながら、地震対策や津波対策が万全かどうかが、一つの争点になる。

しかし、この時点で福島第一原発の事故が完全収束している可能性は低い。一方、事故の検証を進めれば、安全対策の欠陥に加えて、政治家・官僚・学者・企業の深刻な癒着構造など、これまでの原発推進政策の問題点がいくつも浮かび上がってくる。

こういった状況下で、公然と原発推進を掲げて選挙に臨む政党はほとんどないだろう。ましてや、世界で最も危険な場所に立っている浜岡原発を再稼動させるという主張は、他候補から見れば、格好の攻撃材料になる。

従って、「浜岡原発再稼動」は勿論、「原発推進」ですら、それを唱えて当選する候補や政党は少なく、国会で主流を占めるとは思えない。

また、どの政治勢力が衆議院で過半数を得たとしても、参議院の状況から考えて、現在の菅政権と同様、政治基盤の脆弱な政権となるのは避けられない。もし「隠れ推進派」が政権を握ったとしても、不安定な政府にとって、浜岡原発再稼動は、あまり手を付けたくないデリケートな問題で、おそらくは先延ばしという結論になるのではないか。

つまり、原発推進派が政権の座に就いたとしても、浜岡原発の再稼動を決断する政治エネルギーはないと見るのが妥当だろう。

3) 浜岡原発への国際的逆風

今回の福島第一原発事故は、原発推進国の政府や原発関連企業にとって、迷惑以外の何ものでもない。事実、国際的に原発反対の声が高まり、多くの国で建設計画や稼動計画が一時中止を余儀なくされている。

もし、さらなる大事故が発生した場合、国際世論が決定的に反原発へと向かうのは間違いない。世界の原発推進派が一番恐れる事態である。

そして、生々しい現実感を持って、大事故の可能性を危惧されているのが、日本の浜岡原発である。

浜岡原発で福島と同じ程度の事故が起った場合、偏西風によって、放射性物質が首都圏を直撃する危険がある。数百万人単位の強制避難も絵空事ではなく、世界最大の原発事故になってもおかしくない。

その場合、世界中の多くの原発関連企業が深刻な打撃を受けるだろう。原発で儲けようとする日本以外の人々にとって、浜岡原発の存在は、出来れば消し去りたいリスク因子に他ならない。

世界屈指の大地震が起こる地域を選んで、わざわざ、そのど真ん中に原発を建てる日本という国は、一体何を考えているのか?

原発反対派だけでなく、推進派も含めて、世界中の多くの人がそう考えるのは、当たり前のことである。全世界に放射能をばら撒いた日本が、国際社会のこの至極もっともな批判を無視し続けるのは容易なことではない。

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「収束」できない原発事故 ~ 「水素発生」への無為無策

2011-05-04 12:35:53 | 原発事故
4月23日付のウォールストリートジャーナル(電子版)は

「ベントの遅れが水素爆発を招いた」

という日米専門家による分析記事を載せた。格納容器の圧力が通常の2倍になるまでベントをためらったので、排気パイプの継ぎ目から水素や放射性物質のガスが漏れ易くなり、水素爆発に至ったという分析である。

これは実に不可思議な意見だ。

ベントを実行するのは、格納容器内部の圧力が高まっている時である。従って、排気専用パイプを高圧のガスが通るのは当たり前で、その継ぎ目からガスが漏れるというのは、手抜き工事か設計ミス以外の何ものでもない。

しかも原発の専門家が、格納容器の耐圧上限内のガスを排気して、継ぎ目から漏れたと言うのなら、専門家自らが排気配管系の設計ミスを認めたことになる。

こういった設計上の無為無策は、ベントに関わる部分だけではない。そもそも、原子炉で水素が発生したときの対処方法はいっさい検討されていない。

格納容器にたまった水素ガスを、何かに吸着させる、もしくは穏やかに化学反応させて別のより安全な物質に変える、といった水素回収システムはどこにも見当たらない。

「水素発生」への設計上の対策が皆無であるため、現在でも、福島第一原発は水素爆発の危険にさらされ続けている。

1979年のスリーマイル島原発事故でも、メルトダウンによって原子炉内で水素が発生し、その対策に四苦八苦している。そして驚くべきことに、それから30年以上経った今でも、発生した水素に対して出来ることは、窒素を注入することぐらいで、事実上何もない。当時と同じ状況である。

スリーマイルの貴重な教訓である「水素」への対策を、30年以上も時間があったにもかかわらず、設計に一切盛り込まなかった上、ベントの配管系すら高圧ガスに耐えられない。

こういったシステムを「絶対安全」と言い続けてきた専門家というのは、一体どういう精神構造をしているのだろうか。

「収束」できない原発事故。

過去の重大事故を他人事だと無視し続けた、傲慢でずさんな設計思想がその背後に見え隠れする。

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「収束」できない原発事故 ~ 「排水」が管理できない

2011-05-01 11:51:49 | 原発事故
数日前、政府・東京電力の事故対策統合本部は、タービン建屋や立て坑に溜まった高濃度汚染水の処理計画を発表した。放射性物質をゼオライトに吸着させるなどして「浄化」して、再び冷却水として使うというものだ。

しかし、汚染水の処理で肝心なことは、高線量の放射性廃棄物をどこにどのように保管するかという点である。発表された計画では、高線量の汚染水をさらに高線量の放射能ゼオライトに変換するようだが、では、その超高線量ゼオライトはどう処理するのだろう?

そのまま地下深く埋めるのか、さらに別の形にするのか、それはどの場所なのか、受け入れ可能な施設はあるのか、そこの自治体は承諾してくれるのか。

対策本部の答えは「今後、考える」。

これでは、ほとんど意味のない「処理計画」である。

さらに、放射能汚染水を「どうやって処理するか」という以上に、「どうやって原子炉配管系の外に出ないようにするか」こそより深刻な問題である。

事故が発生してから一ヵ月半。原子炉への冷却水注入はどうにか行えるようになってきた。しかし、注入された毎日500トンもの水が、溶融燃料棒と接触して高濃度汚染水になった後、しかるべき排水配管系を通して、しかるべきタンクに回収するシステムは全く実現できていない。

それどころか、どこから漏れているのか、どうやってタービン建屋や立て坑に流れ込んでいるのか、それすら不明である。

当然のことだが、タービン建屋は高濃度汚染水を貯蔵するように作られてはいない。そもそも、この場所は管理区域外であって、放射性物質が漏れ出すこと自体が「想定外」の出来事だ。

そのため、タービン建屋地下に溜まった汚染水は、土壌にしみ込んだり、地下水に流れ込んだり、海へ流れ出たり、さらなる外部汚染を引き起こし続けている可能性が高い。

一ヶ月ほど前、2号機取水口付近で、この汚染水が大量に海に流出しているのが発見され、水ガラス注入で何とか食い止めたが、地下水路への流出自体が止まったわけではない。実際、タービン建屋付近の地下水の汚染が、さらに進んでいることを示すデータが最近のニュースでも流れている。

しかし、圧力容器から出てくる高濃度汚染水を一度も外部に漏らさず回収する仕組みを作るのは、現状ではほぼ絶望的だ。

原子炉建屋は1号機から3号機まで、とても作業員が入れるような線量ではない。汚染水が漏出している箇所を見つけるだけでも、大変な仕事である。それを補修するなど、想像すら出来ない難事業だ。

対策本部は、タービン建屋地下からポンプで汚染水を回収して「処理」を行い、再び冷却水として使うことを「循環式冷却システム」と呼びたいようだ。

しかし、これは誤魔化し以外のなにものでもない。配管からの漏出やタービン建屋地下など、汚染水の流れを管理できない場所を経由する以上、それを「循環」と言うことは出来ない。

「注水」には成功したが、「排水」は全く管理できない。管理できるメドすら立たない。

福島第一原発事故の偽らざる現状である。

政府がこの認識を持たず、「工程表」や「汚染水浄化処理計画」で原発事故の「収束」を世界にアピールするようであれば、次のフランス、ドービルサミットで日本が袋叩きにあう可能性が高い。

安全でないものを安全ということの危険性は、今回の事故で嫌というほど分かった。この上、終わってもいないものを終わったという過ちは犯すべきではない。

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